Last updated on 7/1/99


田中庸介

オフ、

詩集「山が見える日に、」(思潮社1999)所収




名もない野草の名が恋しくなった。道ばたに、
ぼうぼうと伸びた草が風にそよいでいる、ような風景を
見る毎日がつづく、この日ついに、ということはなく
疲れて、特に目が疲れて歩くような日々の大切
が切れて途切れて、やわらかくなる

疲れているからさかしまになるようだった。残されない
愛や恋というような、ただ従順だから排斥される捨てられる
名もない野草の名が恋しくなった。哀しい午後の、
不安をかき立てようとして旅立つのか、怒りを掘り起こすようにして
スケッチ。流れていくのだろうか。

名があるような、文のあるような
裏庭、とはそういう場所ではない。穴掘って
捨てる場所だ。そうしてそこにまた草ぼうぼうと生えている
場所だ。ああ生命は、乱雑な、
花が咲いている。秋の野に咲く草花である、
それを見ていく。歩いていくように見ていくように

残酷な力は継がなかった。かわいい
川が流れているからで、土地が川によって削られていくと谷が
できるからで、その源頭のところをいくつも渡ることになる
オクチチブは霧に埋まっていた。霧雨に埋まっていた
お盆明けの山小屋は淋しく、小屋番は悲しそうだった、と思う。

目が覚めているときに、何もいうことはない、と感じることもある
見ていくように歩いていく。見たからね、私は
そして歩いた。何か思いあたることはないのか、心に
自然林の植生、明日まで黙って眠ればよい。

草花の名前が恋しくなった。



[朗読=有野美香]
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    Edited by Yosuke Tanaka (c)
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