GREEN TEA TIME
イギリス万国樹木博覧会


ブラックソーン
Blackthorn/Sloe(Prunus spinosa )

いつも華やかな世界各国の樹木をご紹介していますが、
今回は目立たないけれど生っ粋のイギリス在来のサクラの仲間のお話です。
「ブラックソーン」という名前は「黒い棘(トゲ)」という意味。
日本ではほとんど知られていないのか、日本語の名前はないようです。

ごらんの通り、大して華やかでもないし、押し出しも強くない木。
イギリスの人々がもてはやす樹木の多くを原産する日本に持ってきたら、
日本の在来の木たちに埋もれてほとんど目立たなくなってしまうでしょう。

とはいえ、イギリスのカントリーサイドでは、おもに生け垣に使われる重要な木です。
その理由は、名前のとおりの長く鋭いトゲ。よほど意志が強くないかぎり、
ブラックソーンの生け垣に分け入る人はまずいないでしょう。
たとえば、とらわれのお姫さまを救いにやってきた勇敢な王子様のように。

とくればもうおわかりですね!
「眠り姫」の手のひらを魔女が刺すのに使ったのがブラックソーンの棘といわれ、
眠りに落ちたお姫様とお城を覆いつくして、王子様の行く手を阻んだイバラも
ブラックソーンとされています。 魔術との関わりがたいへん強い木なのです。

そんな、いささか暗い魔法と関わりのあるブラックソーンですが、
陰うつな冬のイギリスのカントリーサイドに春を知らせる木でもあります。
2月の終わりから4月にかけて、生け垣で真っ先に花を咲かせます。
清楚で小ぶりのクリーム色の花が咲いた木々の列は、遠くからみると霞のようです。

秋になるとイギリスの庶民の人々は、ブラックソーンの実を摘んでジンに漬け、
紫色の「スロー・ジン」をつくります。日本の梅酒づくりと同じノリです。

英和辞典には「リンボク(Prunus spinulosa)の仲間」と書いてありましたが、
落葉性ですし、遠目に見た感じでは、
同じく農地を区切る生け垣に使われるセイヨウサンザシ(Crataegus monogyna)に似ています。

(原産地:イギリス他)


(00/03/31)

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