幻の章−20『罪と罰2』


 

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ボクは逃げ出した!!

 

 ビューティがフローネさんの身体を食い破った。声をかけてももう返事はなかった。

死んだのだ。その場にいられなかった。

だってビューティの行動はボクの意思であるから。

ボクがフローネさんを殺したから!

 それだけじゃない、ヴァネッサ先生も、フローネさんは違うと言っていたけれど

アルベルトさんもボクが殺したんだ。

 

どうすれば許されるの?

 

 許されるわけがない! ボクが…ボクが殺してしまったんだから。

森の中を走り回る。何度目だろう? 足がもつれて転んだ。そしたら目の前に刀が転がっていた。

「刀?」

 ボクはそれを手で掴む。

「ひっ!?」

 その切先には血がこびりついていた。

「これで…ボクも…」

 ゴクっと唾を飲み込んで、ボクは刀を握ると切先を自分に向けて両手を手前に引いた。

(死にたくない!!)

 腕が動かない…目を開けるとビューティがボクの袖に噛み付いて、腕を止めていた。

「…ボクは卑怯者だ」

 ビューティが止めたのはボクの意思だ。人を殺しておいて自分は死にたくないなんて…

 

だったら…

 

 ボクは高い所から飛び降りようと決めた。落ちてしまえば後悔しても無駄だから。

木々を越え、山をひたすら登る。空はもう、赤く染まっていた。

「リオくん?」

「…えっ? 由羅…さん?」

不意に声が聞こえ、頭を上げると由羅さんがいた。

「リオくん…どうしちゃったの?」

 何故か力が抜け、倒れてしまったボクを由羅さんが抱きしめた。

凄く安心してしまった。

苦手な人なのに…

この人に甘えたい、許されたい。

「由羅さん…ボクは…」

 ボクは自身の懺悔を言ってしまいそうになった。駄目だ! ボクはもう許される存在じゃない。

「ボクを…」

「なあに? 言ってみてリオくん」

 

(ボクを殺して)

 

 卑怯だった。 この慈母のような人にボクは全てを押し付けようとしてしまったんだ。

「由羅さん、ボクは平気だから…」

 こんな苦しい事…人に頼むなんてボクは最低だ。

由羅さんから離れ、前に進む。

もうすぐ崖が見える。…あと少し。怖い、凄く怖い。死にたくない!!

足が少しずつしか動かない。

「…不公平じゃない!!」

 突然由羅さんの叫び声が聞こえた。

「えっ、由羅さ…」

 振り向くと同時に胸に熱い痛みを感じた。

「えっ…あっ…」

 口から血が出てる?…ああ、ボクは刺されたんだ。

抱きしめられているから感じる。由羅さんは小さく震えていた。

こんな気持ち悪い事なのに…こんなに嫌な事なのに…

「由羅さん…ありがとう」

 こんな言葉しか出てこなかった。

もうすぐボクは…救われるんだ。

視線の先…由羅さんの後方に白い獣、ビューティが寂しそうに立っていた。

 

 今まで君のせいにしてゴメンよビューティ。

 ボクがもっと早く気付いていれば、

 もしかしたら友達になれたかもしれないね。

 

 

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