幻の章−3『守護獣』
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「何よそれっ!!」
ローラはリオに向けて放った弾丸が少年に当たる直前に白い大きな獣によって弾かれたのを見て思わず叫んだ。
「お、お姉ちゃん…今、ボクを殺そうとしたの?」
リオは悪夢でも見るかのような絶望とほんの少しの戸惑いが篭った瞳でローラを見つめたが、
彼女は突然現れた白き獣を憎々しげな目で見つめているだけだった。
「聞いてないわこんな化物! いったいなんなのよ!!」
「…ボクの守護獣、守護獣ビューティー」
ローラの剣幕にリオは怯え、呟くように答えた。
「守護獣? 何よそれっ! こんなのがいるなんて反則じゃないのー!」
ローラは怒りにまかせて2発、3発とビューティに向けて銃を撃ち続けたが、
それらは全て風の膜のようなものに弾かれて獣とリオを傷つける事はできなかった。
(お姉ちゃんボクを殺す気なんだ)
心の中で小さく小さく、本人も自覚することなくリオは怒りを込めてそう思った。
これは自身の感情なのに。そしてリオはこの怒りというものを知らなかった。
ビューティの思考だと幼い頃から思い続け、そうであると信じていた。
だから…
「…お姉ちゃん逃げて!!」
「えっ? な、なによ?」
殺す筈のターゲットから逃げろと言われローラは困惑した。
「駄目なんだ! ビューティが怒り出したらもう止められないんだ。だから早く…」
リオは必死でビューティをなだめた。それは感情の責任転換であるのに。
自身では無く他者。守護獣の感情であると思っているからリオは心から必死で止める振りをした。
無自覚に。
そして白き獣は怒り狂った!!
「きゃああああああっ!!」
白き獣がローラを噛み殺そうと飛び出し、少女が恐怖の悲鳴をあげたその時。
「でやあああああああああっ!」
2メートル近い大男が白き獣に体当たりし、ビューティを弾き飛ばした。
「大丈夫かローラ?」
「「アルベルトさん!」」
大男は悠久学園大学3年社会学部 アルベルト・コーレインであった。