幻の章−2『復讐』
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「あれ? ここどこだっけ?」
シェールは泥塗れの中、目を覚ました。
「…ん? うわっ! 口の中泥が入ってるっ!!」
唾を吐き出し立ち上がる。
「うわあああ…泥だらけじゃない!! なんでこんな事になってんのよ〜!!」
ズキズキと痛む頭を手でおさえながら考え込む。
目の前に大きな崖、擦り傷だらけの体、泥だらけの自分。
…そして側にいない姉。
「あ、あ、…ああっ」
少しずつ思い出し、シェールはカタカタと震える。
「お姉ちゃん?…お姉ちゃん!!」
そして辺りを見まわしながら叫び出した。
「…嘘だよ、信じないよ。だってお姉ちゃんなにも悪い事してないもん!
みんなを助けようとしたんだもん。…どうして、どうしてお姉ちゃんが」
その時、脱落者を告げる鐘が鳴った。
『最初の夜があけたな、まず死者を発表する』
「…先生、どうして…」
放送から聞こえる声はランディ・ウエストウッド。シェールが所属するバレー部の顧問でもあった。
厳しく、恐ろしい教師であったが生徒に対してこのような行いをする人物であるとはシェールにはとても思えなかった。
『08 ルーティ・ワイエス 09 メロディ・シンクレア…』
「…そんな、ルーティやメロディまで」
『11 トリーシャ・フォスター』
「えっ!?」
同学年であり、趣味もよくあう親しい友人の名前が告げられる。
シェールがその意味に気づく余裕も与えず、名前は次々と読み上げられていった。
『28 リーゼ・アーキス…』
「…えっ?」
しばらくの間、シェールは何も考えられなくなっていた。
そして気がつけばランディの放送は終わっていた。
「…い…やだ」
シェールは無理矢理声を絞り出した。
「いやだ、嫌だよ!! そんなの、そんなのって……ローラ、ローラぁあああああっ!!」
リーゼを銃で撃った少女を思い出す。彼女は、ローラは…笑っていた。
シェールは拳を握り締めるとしっかりとした足取りで歩き出した。
ある目標に向かって。
「お姉ちゃん、仇は討つからね!」
リーゼが最も望まなかったであろう目標に向かって…シェールは力強く歩き出した。