花束を君に
31
「本当にありがとうございました〜」
ここは北の森。
セリーヌは去ってゆくランディの背中を見つめながらおおきく手を振っていた。
「チッ、まったく調子の狂う女だぜ…」
ランディは
1度後ろを振り向き(セリーヌ達のいる方向)軽く睨みつけた後、そのまま何も言わずにエンフィールドから去っていった。「とても親切な方でしたね〜」
「…とっても怪しかったと思うんだけど」
しみじみと呟いたセリーヌの発言にローラは溜息混じりに答えた。
「まあセリーヌさんだったら極悪人でも良い人、になっちゃうし…」
言っても無駄な気がしたのでローラは自分の言葉を自己完結させる。
「はぁぁあ〜、恐ろしかった〜」
ランディの姿が見えなくなった途端アレフは尻餅をついた。かなりの汗をかいているのはそうとう緊張していたせいだろう。
「そろそろいいだろう?本当は小屋で何があったんだ?」
ルーが地面に座り込んだアレフに話しかける。
「あれ?気付いてたのかルー?」
「当然だ。まあ大体想像はつくが話してくれ」
ローラとセリーヌは「?」という表情をしていたがアレフはルーに促されるまま真相を話し始めた。
(セリーヌ、君は当事者なんじゃ…)
アレフの話を箇条書にするとこうだ。
・ピートが山賊のいた小屋に突っ込んだ事。
・アレフがピートの危機の為、勇敢にも100人の山賊に戦いを挑んだ事(大嘘)
・99人は倒したがあと1人の所でランディに捕まったこと(ほとんど嘘)
・ピートがランディにやられて捕まった事。
・その後にセリーヌが山賊に小屋へ連れこまれた事。
・ピートがセリーヌを助けようとして縛られている状態であるのに山賊に突っ込んで気絶させられた事。
・その時ランディが小屋に飛び込んできて山賊達を全員殴り倒した事(理由不明)
・ランディに助けられた交換条件に自分(ランディ)の存在を公表しない事。
等であった。
「…一部嘘があるようだが大体は想像通りだな」
ルーはそう答えながら少し考え込む表情をした。
「…アレフ君嘘吐き」
「あの〜私捕まっていたんですか?」
「…」
「まったく危ない所でございましたね」
ちなみに今の発言はその場にいるローラ、セリーヌ、気絶しているピート、ハメットである。
(1人恐ろしく現状を理解していなかった発言があったようだが…)
「1つわからない事がある」
ルーは真顔になってアレフを見つめた。
「な、なんだよ、俺は別に隠してることなんてないぞ?」
「この男はなんなんだ?」
ルーが指差す先にはハメットがいたのだった。
32
「どりゃあああああああああっ!!」
ズドゴォォォオオオオオンンンン!!!!
凄まじい雄叫びと激しい衝撃音。
雄叫びの主は自警団第1部隊隊員アルベルト・コーレインであり、衝撃音の正体はアルベルトのハルバードが闘技場のリングに突き刺さった音であった。リングの破片がそこかしこに弾け飛ぶ。もし人間に当たったら刃を抜いたハルバードといえ、殴り殺されていたところだろう…ペシャンコに。
「こ、殺す気かアル!!」
対戦相手のコージがたまらず叫ぶ。
「殺す?生易しい!細切れにして死体も残さん!!」
(どちらかというとペシャンコにされて原型も残らないと思う)
アルベルトの怒りは頂点に達していた。
(やっぱりアレはまずかったよなぁ…)
話は15分前に遡る。
エンフィールド大武闘大会準決勝。試合時間にも関わらず選手であるコージはいまだ現れていなかった。
「遅い!さてはコージの奴逃げたか?」
競技場で待っているアルベルトがたまらずつぶやく。
すでに試合時間から10分も過ぎているのだ。
コロシアムもざわつきはじめ、とうとう闘う審判さんがリングの上にあがった。
「おい、コージは何をやっている!」
「ええ、それが控え室からでてこないんですよ。これはもう闘う意思無しとしてアルベルト選手の不戦勝で…」
「何を言ってやがる!コージは逃げるような奴じゃあない!きっと理由がるんだ、もう少し待つ」
「は、はぁ、そうですか…」
アルベルトは自分の発言をあっさり撤回していた。他人に言われると不愉快らしい。
「半殺しで許してやるつもりなのに何をやってやがる!」
――――――――――キラン!!
その時、空が一瞬光った。
「ん?何だ、ってなにぃ!!」
アルベルトが空を見上げたその時!!
ズドオオオオン!!
空からコージが落下し、アルベルトに激突した。
「いってててててっ!こ、ここはどこだ?」
コージは頭を押さえながら周りを見る。巨大な空間の周りに大勢の観客。ってここは…
「コロシアムのリング!?ついたのはよかったけどよりにもよってこんな所にテレポートしなくても…」
「…ふ、フフフ、そうか、コージ、貴様はそんな男だったのか」
コージの下から聞き覚えのある声。ってアル!?
そこにはコージの下敷きになり、潰されて額からダラダラと血を流しているアルベルトが怒りで真っ赤になりながらブルブルと震えていた。…当然寒いから震えているのでは無い。
「あっと…えーと、アル?これは決してわざとではないんだが、解ってくれるよな?」
コージは今できる精一杯の引きつった笑顔をアルに向けた。
「…降りろ」
「あ、ああ、ごめんアル」
コージは素早くアルベルトから離れた。
当のアルベルトはゆっくりと立ちあがり体の埃を払う。
「…あ、あの」
『コージ選手突然の上空からの登場!!しかも試合開始前のいきなりの不意打ち!とっても卑怯ですがこの派手な登場で盛り上っていますので減点1で良しとしましょう!それでは試合開始!!』
強引な審判の号令!
「いや、わざとではないんだけど…」
いい訳する前に試合がなし崩し的に開始した。
アルベルトがゆっくりとハルバードを構える。
「半殺しですますつもりだったが甘かったようだ。貴様のような卑怯者にはクレアと同じ空気を吸わすのも気に食わん。死ね!」
「うわっ!いきなり…」
アルベルトは大きく振りかぶり…
33
「ここは?」
クレアが目を覚ますとベッドに寝ている事に気付いた。
周りを見まわすとどうやらコロシアムの控え室のようだ。
「クレア気がついた?」
何故か側にいたパティがクレアに微笑む。
「えっ!?パティ様?…えっと私はたしかチャンプさまの看病に…ってあら?チャンプ様はどこに?」
クレアはもう1度控え室を見まわす。
「!?」
控え室の床は一面の血の海であり、その中心にチャンプは仰向けに血を流して倒れていた。
「チャ、チャンプ様…死んで…」
クレアは真っ青になり
「きっ…」
悲鳴を上げる間もなくまた気を失ってしまった。
「えっ?ちょっとクレアどうしたのよ!大丈夫?やっぱり先生呼んで来ないと…」
パティは急にオロオロしだし、控え室を飛び出した。
グチャッ!
そのさい、床に転がっていた肉の固まり(笑)を踏んだ気がしたがそれは気にしていない。
「あ、あら?私は…」
「気がついたようね」
「だいじょうぶ?クレア」
数分後クレアがもう1度目覚めるとそこには心配そうに彼女を覗きこむイヴとパティがいた。
「イヴさま、パティさま?私はいったい…」
「え、え〜っと、クレアは突然貧血で倒れたのよ!ビックリしたわ〜」
パティが何故か引きつった笑顔で答える。
「まあそれは…貧血?…そうですわ!チャンプさまが血だらけで!!ってあら?」
周りを見まわすと先程見た一面の血の海とそこに浮かぶチャンプの姿はすでになかった。
「どうかしたのかしら?」
「あの、たしかチャンプさまが死んで…」
「クレア夢でも見たんじゃないの?チャンプならほら、後ろの安楽椅子で眠ってるわよ」
パティが指差す方向をみると確かに椅子に座っているらしい姿が見えた。椅子自体が後ろ向きなので部分部分しか姿が見えないが。
「…本当ですわ。私夢でもみていたみたいです。イヴさまパティさま、心配おかけして申し訳ありません。私がチャンプさまのお世話をするつもりで来たのにチャンプさまのベッドを奪ってしまうなんて…」
クレアは申し訳なさそうな顔をしながらベッドから起きあがり椅子に座っているチャンプに近づいて行った。
「行っちゃダメ!」「行っては駄目よクレアさん!!」
パティとイヴが必死になって止める。パティはともかくイヴがこんな大声をだしたのを始めて聞いたクレアは思わず目を丸くした。
「えっ!?あの…」
「そ、そんなことより試合見にいかなくていいのクレア?」
「えっ?試合と申しますと?」
「コージさんとアルベルトさんの試合よ。今ちょうど闘っている筈だわ」
「た、大変ですわ!急いで見にいきませんと…あっ、ですがチャンプさまが…」
クレアが椅子の方を見る。
「それなら心配しないで。私とイヴが付いてるから!」
パティがニコニコしながら答える。
「…はい、あの申し訳ありません。お願い致します」
クレアは2人にお辞儀をして控え室から走り去って行った。
「…行った?」
「ええ、もう見えないわね」
「つ、つかれた〜」
イヴの返事を聞いてパティがヘナヘナと床に座り込む。
「あまりショッキングな光景は見せないことね。…私も心臓が止まるかと思ったわ」
「わ、わかってるわよ!」
椅子には辛うじて息をしているチャンプが座らされており、その足元には血のべっとりとついた雑巾と搾り取ったのであろう真っ赤な血の溜まったバケツがあった。
…こんな光景をみたらクレアは更なるショックでまた気絶したであろう。
34
クレアが競技場に近づくにつれ、コロシアムの歓声が大きく聞えてきた。
(まだ試合はおわってないようですわ)
選手入場口から競技場を覗きこむ。
リングの上ではコージ、アルベルトが肩で息をしながら対峙していた。
「二人共怪我等はないようですわ。それにしても…どうしてリングがボロボロなのでしょうか?」
それはアルベルトがハルバードで何度もリングを叩いたから(笑)
『先程から紙一重のすさまじい試合が続いております!まさに準決勝に相応しい闘いといえるでしょう!!』
「そうかなー?」
審判の必死の解説に呆れ顔のマリアが独り言を言う。
「だ、駄目よマリアちゃん、審判さんも盛り上げようと必死なんだから…」
なんともなマリアとシェリルの会話であったが決して試合が盛り上っていないわけではない。ただ大味な試合に見えるのだ。
アルベルトがハルバードを振り下ろす→コージ避ける→リングが粉々になる。
の繰り返しであったから。
闘っているコージにとってはとんでもない話だった。先程から繰り返される攻撃は当たれば即死、運が良くて大怪我という一撃必殺の威力を持っていたのだ。
一方のアルベルトも決して楽な戦いをしていない。全身全霊をかけた一撃一撃がアルベルトの無尽蔵とも言える体力を奪っていった。…奪われていたのは体力だけではなかったがそれには気付いていない。
「いい加減刀の錆になれコージ!!」
「なれるかっ!!」
当然の反応だ。
「だったら2度とクレアに近づくな!」
「それは関係ないだろう?」
「おおありだコージ!!お前がクレアを毒牙にかけようとしていた事は解っている!だが
2度とクレアに近づかないと誓えば友人として命だけは助けてやろう」「だからそれは言いがかりだってのに…」
コージはいい加減頭が痛くなってきた。
「いいがかりだと?俺の部屋で二人っきりでいたくせによくもぬけぬけと…」
『ちょっと兄さま!いい加減にしてください!!私とコージさまは食事していただけだと何度も言った筈ですわ!それに恥ずかしい妄想を大声で言うの止めてください!』
「なっ!?クレアいつのまに…」
リングサイドには顔を真っ赤にしたクレアがいつのまにか立っていた。
「クレアなんでこんなところに?」
「コージさま、申し訳ございません。兄さまがあんまりにも恥ずかしい事を大声でいうものですからつい…私達はまだ何もしていませんと兄さまには言っているのですが」
クレアは両手で頬を押さえ赤面する。
「…まだ?まだとはどういうことだコージ?」
アルベルトが額に血管を浮き上がらせながらポツリと呟く。
「いや言ったのは俺じゃないんだけど…」
「そもそもクレアと二人っきりで何もなかったというほうがおかしい」
「なんだその無茶な結論は…何もないって言ってるのに…」
「何も無いだと!貴様!クレアに魅力がないとでも言うのか!!」
「よっぱらってるのかお前は!!」
コージは呆れてアルベルトを睨む。
「…なるほど、そういうことね…」
コージは既に何を言っても無駄だと悟り構え直した。アルベルトはとっくにキレていたからだ。人の目に『殺』と文字が見えた気がしたのは生まれて始めてだった。
(多分…そろそろだろう。やってみるか)
剣を下に構え、軽くステップしてアルベルトとの間合いを微妙に近づける。
「ぬおりゃあああああぁああ!!」
「!!」
アルベルトは自分の攻撃範囲に敵が入った事を瞬時に悟り、渾身の力を込めてハルバードを振り下ろす!!それとほぼ同時にコージは下段に構えた剣を振り上げだ!!
キィィイイイインンン!!!
「何ィ!!」
ハルバードがコージの剣に砕かれた!そして振り上がった剣をそのまま…
「もらったぁ!」
「しまっ…」
ドカアアァアアアッ!!
「…む…ぅ、ここは?」
「あっ、兄さま気付かれましたか?」
アルベルトが目を覚ますとクレアが心配そうに見おろしていた。
「クレア?ここはいったい」
「兄さまの控え室ですわ」
「そうだ試合は!オレは…ッ痛!」
上半身を起こすと首筋と肩に激しい痛みを感じた。見ると包帯が巻かれていることと、自分がベッドに寝かされていた事に気付く。
「兄さまの負けです」
クレアはきっぱりと答える。
「ウソだろ…なんでこのオレが…」
アルベルトは床に置かれた砕かれたハルバードを見つめうめいた。
「『うん、まあアレだけハルバードを石のリングに打ち付ければそろそろ砕けると思った』と、おっしゃってましたわコージ様が」
何故か得意顔で説明するクレア。とても嬉しそうだ。
「ええい卑怯な!!」
「人聞きが悪いですわ兄さま!コージ様のどこが卑怯なんですの!」
「試合中コソコソと逃げ回っていた!」
「攻撃を避けるのはあたりまえですわ」
まったくその通りだ。
「試合に遅れて来た!」
「兄さまもしょっちゅう朝寝坊しています」
そのツッコミはちょっと違う。
「試合前不意打ちをした!」
「コージ様のことです、きっとしかたのない事情があったのですわ」
…それはあきらかに贔屓だ。
「だいたい兄さまはコージ様より体も大きくて力もあるんです。そっちの方が卑怯ですわ!」
クレアは無茶苦茶な理論を展開する。やはり兄妹だ。
「…おいクレア」
「兄さまの勘違いでこういったことになったんです、いい加減仲直りして下さい」
腰に手を当てて顔を近づける。クレアが怒っている時のポーズだ。
「勘違いだと?じゃあコージとは付き合ってないんだな?」
「お付き合いしておりません」
きっぱりと答える。
「じゃあ好きでもなんでもないんだな?」
「…そ、それは兄さまには関係ありませんわ」
赤面して頬を手でおさえる。
「コージを殺す!!」
アルベルトが立ちあがるため上半身を起こした。
ズキン!!
「…っ痛!」
が、痛みの為ベッドに崩れ落ちる。
「怪我をしているんですから無理をしないでください」
「…このまま寝てなどいられん」
「…兄さまはコージ様の何が気に入らないんですか?」
頑ななアルベルトの対応にクレアは溜息まじりに質問した。
「全然気に入らん!!」
「ですからどういった所が気に入らないんですか?」
さらに詰寄る。答えざるおえない状況のようだ。
「…俺より弱い」
「兄さまに勝ちました」
「…仕事が趣味のつまらない奴だ」
「お仕事に一生懸命だからそう見えるだけですわ。仕事を一生懸命される殿方は素敵ですわ」
「…部屋が汚い」
「兄さまと大差ありません。それに私、掃除好きですわ」
「生活がだらしない。缶詰ばっかり食ってるし…」
「お仕事が忙しいからですわ。それに私が料理好きですし」
「おいおいクレア!さっきから聞いてると結婚する気かお前は!」
「い、嫌ですわ兄さま、結婚だなんて。ですが正式にお付き合いを始めればそうなると思います」
嬉しそうに答える。
「許さん!」
「兄さまに反対される理由はありませんわ!そんなことよりコージ様を反対される理由はそれだけですか?」
「まだまだある!たとえば…」
アルベルトは言葉に詰まる。
(仕事熱心で真面目で、そこそこの出世頭だ。面倒見が良いから街の連中にも好かれているし子供にも人気がある…が)
「…鈍感だ」
「それは反論できませんわ」
その時控え室までコロシアムの歓声が届いた。いよいよ決勝が始まるらしい。
「コージ様は優勝できますか?」
「俺やマスクマンがもういないんだ。優勝できてあたりまえだろう」
そこまで言ってクラウスと銀仮面の試合を思い出す。実際の試合はみていないが実力者のクラウスをあそこまでボロボロにできるのだから相当の使い手の筈であった。
「兄さま?」
「いや何でも無い。おまえ応援に行かなくていいのか?」
「兄さまが心配ですわ」
「あん?この程度の怪我一晩寝れば治る。応援に行きたいんだったら行ってこい」
クレアは一瞬不思議そうな顔をしたが、すぐに嬉しそうに頷いた。
「わかりましたわ。すぐ戻りますから兄さまはゆっくりお休み下さい」
そう行ってクレアは控え室から出ていった。
「…やけにあっさりだな」
ほとんど躊躇なく応援に行かれアルベルトは妙に寂しい気持ちになった。
(喧嘩をしていても自分を心配してくれる妹が嬉しくて照れ隠しに追い出したのだが…)
ベッドに横になり天井を見つめる。
「確かに他の連中に比べればマシな奴だが…やっぱり納得いかん!!」
正直あまりにブラコン過ぎてうっとおしくも思っていたが、だからと言って別の男に取られるのは心底腹立たしく感じてしまうし、大切な可愛い妹が幸せになるにはそれそうとうの相手でなければならないという思いもある。
「少なくとも俺より強くなければクレアは幸せにできん!…いや待て、そもそもクレアはまだ世間を知らん子供だ、結婚や恋愛などまだまだ早いわけで…」
クレアをブラコンと言っておきながら自分が充分シスコンである事に気付いていないのもどうでろう?
そしてアルベルトの独り言は当分終りそうに無かった。
35
一方、北の森
「何ぃ!?本当かよそれ…」
アレフが両手を頭に当てて大袈裟に驚く。
「まずいな…」
対照的にルーは静かに驚いた。
「本当なのおじさん?」
「お、おじさ…失礼な!私はまだ若いんでございます!!」
ローラのおじさん発言にハメットは仮面に青筋を立てて怒った。(変な仮面である)
「まあ真相を知る為にこんな森に来たんでございますが、どうやらドンピシャだったようでございますね」
ネクタイをキュッと絞めなおしながら落ちついて答える。
「って落ちついてる暇があるか!何でそんな重大な事いわないんだお前は!」
「あなたがたのおかげでほぼ体勢はきまったでございましょう?そう心配する必要は…」
「…まだ首謀者が残っている。そいつらが暴走したら危険だ。テレポートできるか?」
「無理…でございますね。さっきのコージさんで魔力を使い果たしたでございますから」
「お兄ちゃんにそのこと言っておけば良かったのに…」
「…」
全員が押し黙った。『その通りだ』と呆れているのだろう。
「あの〜急いで戻れば間に合うかも知れませんよ?」
セリーヌが控えめに意見する。
「ゲゲ!また走んのかよ…」
アレフはゲンナリして答える。
「フッ、行くしかないな。走るぞ!」
「はい〜急ぎましょう」
セリーヌは駆け出した!
「セリーヌさんそっち山!!」
…逆方向に。
「あら〜うっかりしていました」
間に合うのかコレで?
ビュン!ビュン!
銀の鎧を着た男が控え室で剣を振っていた。なんとも美しい刃渡りをしたブロードソードである。まるで試合用に刃を抜いていない本物のような…
その時控え室にノックが響き、扉が開かれた。入ってきたのは自警団標準装備の鎧を着た男だった。
「隊長そろそろ時間ですぜ」
「…」
銀の鎧を着た男は無言で剣を鞘に収め、フルフェイスの銀の兜を着けた。
「
1試合減ったせいで決行時間より随分間があります。できるだけ試合を引き伸ばしてください」「あの娘はどうした?」
男の言葉を無視して銀仮面は別の話を切り出す。
「空いている控え室で眠らせてますが…へへ、気になりますか?なんだったら隊長が最初に…」
ビュン!!
ゲヒた笑みを浮かべた男に剣を付きたてる!
「じょ、冗談ですよ、何もしていません。あんな小娘対象外ですよ」
「俺達は山賊じゃない。解っているな?」
「へ、へい…」
剣を鞘に戻す。
「最も彼女に何かしていたらお前は死んでいたがな」
「えっ?何でです?」
銀仮面はパチンと指を鳴らした。
「呼んだか?」
すると何も無い空間から声だけが聞えた。
「こ、こりゃあ…」
男は冷や汗を垂らす。
「彼女に危険が無いようコイツに見張らせていた。もしお前達が変な気を起こしていたら黒コゲになっていただろう」
「ヘヘ、信用してくださいよ隊長」
「…フン。試合場に行く」
「オレはどうすればいい?」
声だけの存在が銀仮面に話しかける。
「俺のサポートに付け。いざとなったら手を貸すんだ。まあ万に
1つもありえないがな」「…わかった」
銀仮面は競技場に向かった。
「山賊じゃない?そりゃあそうだ。俺達はそれ以下の戦争屋だからな…」
銀仮面が出ていった後、剣を突き付けられた男が手の甲で汗を拭いながら呟いた。