花束を君に
35
「ホーリーヒール!」
シェリルの掌が暖かい光に包まれ、その掌をコージにあてる。
当てられた全身が一瞬ひかった後、コージの体から疲労感が消えた。
「サンキュー、シェリル。だいぶ疲れがとれたよ」
「あ、はい。あの…頑張ってくださいね」
シェリルがはにかみながら微笑み返した。
エンフィールド大武道会、決勝直前。コロシアムの選手入場口でコージはランディ、アルベルトと立て続けに闘った際の疲労を神聖魔法の力によって癒してもらっていた。
この場所にいるのはコージ、先程神聖魔法を使ったシェリル、そしてマリアだった。
「シェリルも応援してくれるのか?ありがとう」
コージももう1度笑い返す。
「シェリルはコージの為じゃなくて自分のネタの為に応援してるんだけどね☆」
「ちょ、ちょっとマリアちゃん!!」
マリアの横やりに慌てるシェリル。
「?どういうことだマリア?」
「えっ?そのままの意味だよ☆」
さっぱりわからない。
「どういうことだいシェリル?」
「え、え〜っと、こ、今度の小説のお話にいいかな♪って思いまして」
少し引きつった笑顔で答えるシェリル。
「そうそう☆さえない男が相思相愛の可愛い彼女を親バカの父親から手に入れる為に格闘大会にでるお話だったよね☆」
「…(さ、さえない男)」
「マ、マリアちゃん!?なんてことを…」
「こ、コージさん!あのマリアちゃんが言ったのは冗談で…」
「え〜っ☆シェリル言ってたじゃない!ラブコメに挑戦したかったからちょうどイイって!」
「…(必死の闘いが…ラブコメ!!)」
トリーシャの尻拭いの為大会に参加してアルベルトに殺されかけながらラブコメである。さすがにコージは自分自身がいたたまれなくなった。
「はぁ…まあいいや、で、肝心のヒロインがさっきから見当たらないんだけどどこいってるんだ?」
コージはアルベルトとの対戦中から解説者席にいないトリーシャが気になっていた。
「えっ☆コージの控え室で逢引きしてたんじゃないの?」
ゴン!!
思わず壁に頭を打ち付ける。
「へ、変な事言うなっ!!子供が逢引きなんて言葉使ったらダメっ…」
「ぶ〜☆マリア子供じゃないもん!でもシェリルやっぱり違うじゃない!」
「わっ、私は逢引きだったら小説が面白くなるな〜って言っただけよ」
そういうシェリルは残念そうな顔をしていた。
「でも変ね☆コージの試合終ってからずっといなかったわよ?」
「エルとの試合から?それってちょっとおかしくないか?」
もう何時間も前の話だ。
「事件の匂いがするわね☆こーゆう時はマリアにまかせて!!」
絶対任せられない。
「いや俺がちょっと…」
『さあ!エンフィールド大武道会、いよいよ決勝が始まります!!!』
その時審判のマイクパフォーマンスが聞えてきた。
「ほら☆コージは試合じゃない!トリーシャのことはマリアとシェリルに任せて!」
「えっ、マリアちゃん私もなの?」
まさに寝耳に水のシェリル。
「いやしかしだな…」
コージが2人を止めようとすると…
「あっマリアちゃん酷いじゃないか!無理矢理アイスキャンディー買いに行かせておいて席にいないなんて…もう溶けはじめてるよっ」
クリスが3人に駆け寄ってきた。
「あっちょうどイイわ☆クリスもマリア達に付き合って☆」
「えっ、えっ、何が?」
「マリア達って…」
「じゃあトリーシャは任せて☆コージは試合頑張ってね☆」
消え入りそうなシェリルの声はやはり黙殺され、コージが反論する前に2人を伴ってマリアは消えて行った。
クリスの「えっ?何、何?」という声を伴って…
「…(まあシェリルとクリスが一緒だから大丈夫か。どうせエルとおしゃべりでもしてるんだろうし…)」
『選手入場です!!』
審判の掛声と共にコロシアムは大歓声に包まれる。コージは競技場に向かって歩き出した。
36
ギンッ!!
という音を立ててコージの剣と銀仮面の剣とがぶつかり合う。
剣を挟んで力で押し合うが互角!銀仮面はバックステップして再度剣を振り下ろした。銀仮面が突然下がったので一瞬バランスを崩したコージだったがすぐさま剣を振り上げて銀仮面の攻撃を弾く。
(こいつ…どこかで?)
コージは闘っている最中、何か懐かしい感じがしたが銀仮面の攻撃は緩まない。十数合撃ち合った後、お互い数歩下がって間合いを下げた。
同じ武器、同じ力、同じ戦闘スタイル…
「ここまで似ていると正直やり難いな…」
相手もそうであろうと銀仮面を見る…がフルフェイスタイプの仮面なので表情は全く読み取れない。
(暑くないのかね?)
仮面だけでなく全身を覆う銀の鎧を見て関係無い感想しか出なかった。
ガチッ…鎧の擦り合う音が響く。銀仮面が中段の構えで間合いを詰めてきたのだ。
コージも構え直す。と同時に銀仮面がコージめがけて突きを放った!
ビュン!!という音と共にコージの顔面横を擦りぬける。コージは紙一重で突きをかわした…はずだった。
「痛ッ!!」
剣をかわした左頬に切り傷。切先がかすったらしい。
「あれ?」
この時コージに違和感。刃を抜いている筈なのに何故頬が切れる?確かに鋭い突きであったが…
その時もう1度銀仮面の鋭い突き!!コージは剣で突きの切先をずらす。
ビュン!!またも鋭い音と共に、ずらした切先が一瞬触れた右腕に切り傷。
「こいつ…やっぱり!!」
銀仮面は刃を抜いていない本物の剣を使っている!
そう悟った時、銀仮面の剣が日の光に反射して眩しく光っていた。
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(?あの方は…)
アルベルトの控え室から競技場へ向かう途中、クレアはすれちがった自警団員を見て違和感を感じ、後姿を目で追っていた。
その時後ろから肩をポンと叩かれる。
「キャア!」
「わっ!なんだ?」
驚きのあまり振り向きざま後ずさり、小さく身構えるクレアの目の前にいたのは驚いた顔で目を丸くしているエルであった。
「い、嫌ですわエルさま、驚かさないでください」
「あたしが驚いたよ…で、アンタは何をしてるんだい?」
「あ、はい…先程すれ違った自警団の方なのですが、見たことの無い人だったので」
クレアは毎日お昼にコージ、アルベルトに弁当を届けているので自警団員とはほぼ顔見知りになっていた。
ちなみに自警団では、礼儀正しく可愛らしいクレアは、リカルドの1人娘で同じく自警団事務所によく訪れる元気で明るいトリーシャと共に人気があるがそれは別の話。
「ふ〜ん、ちょっとつけてみるか?」
エルはそう言うと既にかどを曲がって遠くなったその自警団員の後を追った。
「エル様!?」
クレアも後に続く。自警団員は奥の控え室に消えて行った。
「…」
「あちらの控え室はどなたのお部屋ですか?」
クレアは無言のエルを見る。
「…変だね。あそこは共同控え室で今回は使われてない。ついでに言うと大会参加者には近づかないように言われていた場所だよ。行ってみよう」
エルはツカツカと靴音をたてて共同控え室に向かう。
「え、エル様、いったい!?」
普段は何事にも冷めた態度で、あまり物事に関わらないエルが積極的に行動している為クレアは不思議だった。
「ん?ちょうどトリーシャを探してたんでね。気になるところは全部回ってみたいんだよ」
「トリーシャ様?そういえば随分前から解説者席におられませんでしたわ」
「そういうこと。いくよ」
「は、はい」
控え室の前まで来ると「開けるよ」と、一言言っただけでエルは扉を開いた。
「ええっ!?」
ノックもしてないのでクレアが思わず叫んでしまう。
「な、なんだお前等は!!」
共同控え室の中には20人程度の自警団員が集まっていた。
「クレア、この中に知っている自警団員はいるかい?」
クレアは控え室を見回す。失礼だと思いつつも人相の悪い人達ばかりだと思った。
「…いいえエル様、誰一人見たことはありませんわ!」
クレアはきっぱりと答える。
「…」
人相の悪い自警団員は誰も言葉を発しなかった。
「ふん。おいアンタ等、何者だい?」
エルが指をポキポキと鳴らしながら前に進み出る。
「…お嬢さん達、悪いがちょっと眠っててもらおうか?」
自警団員達がそれぞれ手に武器を持ち、ゆっくりとエル達に近づいてくる。
「エ、エル様…」
クレアが心配そうな表情でエルを見つめる。
「こいつらが何者か知らないが、この程度の人数アタシの敵じゃないよ」
エルが構えると同時に2人の自警団員が襲いかかってきた!
ドカッ!!という音と共に1人の自警団員がエルに殴り飛ばされる。それを見たもう1人の男が一瞬あっけに取られた瞬間、同じ様にその男も殴り飛ばされていた。
「こ、このアマっ!!」
怒りの形相で別の自警団員がエルに襲いかかる!…が、エルはその男達を次々と殴り飛ばして行った。
「す、すごいですわ、コージ様はよくエル様に勝てましたわ」
クレアがエルの強さに思わず正直な感想を言った。
ホント、勝ったのは奇跡に近い。
「な、なんなんだこのエルフ女は…」
自警団員達はは驚愕の表情でエルを遠巻きに見る。
五分とかからず既に七人の自警団員がエルによって倒されていた。
「まだやるのかい?」
エルは余裕の笑みを浮かべる。
「そこまでだな、怪力女」
「なんだって!!」
エルは失礼な口を聞いた方向に顔を向ける。
「!!」
そこには意識を失っているのであろうトリーシャを小脇に抱え、ナイフを彼女の首に当てている自警団員がいた。
「と、トリーシャ!!あんた等トリーシャに何をした!!」
「眠ってるだけだ、解っているだろうが人質だぜ、お前も抵抗は止めてもらおうか?」
眠っているトリーシャの頬にピタピタとナイフの腹を当てる。
「ぐぐぐ…」
エルは怒りで真っ赤になりながら拳をブルブルと震えさせていた。
そのエルに残りの自警団員がジリジリと近づいてくる。
「え、エル様…」
クレアが怯えた表情で声をかける。
「くっ、これじゃあ…」
エルもトリーシャを人質に取られては動きようがなかった
…その時!!
「ルーン・バレット!!」
ちゅど〜ん!!
突然の爆炎が上がり、エルに近づいていた自警団員の1人が黒コゲになる。
「「「ええっ!」」」
その場にいたエル、クレア、そして自警団員達も驚きの声を上げた。
「ふっふ〜ん☆どうやらマリアの出番のようね」
得意げな声と共に共同控え室に入ってきたのは冷や汗を流してオロオロしているシェリルとクリスを従えたマリアだった。
38
『銀仮面選手の鋭い突きの攻撃にコージ選手防戦一方です!!ここからの逆転はあるのでしょうか!!』
大武道大会決勝。競技場ではコージ、銀仮面の闘いが続いていた。本物の剣を使った銀仮面の攻撃によって、コージの全身は薄い切り傷だらけであった。
(いい加減にしろよ、この野郎!!)
普段温厚なコージも流石に頭に来ていた。実力が拮抗している場合何か別の要素、武器や防具の差等で勝敗が決まることが多い。実力が同じであると見た銀仮面はコージより優れている物、つまり本物の剣の力を利用して勝利を得ようとしていた。つまり剣で突き刺す!という行為だ。
(最初は使用武器を間違えたのかと思ったが、こうも突きのみの攻撃を続けられれば始めから意図的であったと思わざるおえない。棄権して銀仮面のルール違反を訴える手段もあったがそれでは納得いかない)
「こらしめてやる!!」
銀仮面が数十回目の鋭い突きを放つ!!
ビュン!!風を切る音…
「!?」
瞬間コージの姿が銀仮面の視界から消えた。
コージは突きをしゃがんでかわし、仮面めがけて剣を振り上げた!!
カーン!!…カン!…カラン…
振り上げた剣は仮面を弾き飛ばし、フルフェイスの兜が競技場に甲高い音と共に転げ落ちた。
「えっ!?お前は…」
コージは銀仮面の素顔を見上げ…息を飲む。
「…ひさしぶりだな、コージ」
銀仮面の正体は、元自警団ベケット団長直属部隊所属ロビンであった。
「お前、どうして?」
コージが驚くのも無理は無い。ロビンは数ヶ月前ベケット団長と共に自警団、いやエンフィールドから失踪しているのだ。合成魔獣事件、ならびに評議会脅迫事件の謎を残して。
いいや、それは正確ではないであろう。コージは事件の真相をあらかた知っていた。数ヶ月前に起こった数々の事件は裏で『時代の曙』という組織が暗躍しており、その代表がベケット団長であった事。そしてロビンが実行部隊の幹部であった事。その組織の創設者は自らが尊敬するノイマン隊長であった事も。
「どうして?おかしな事を言うなあコージ、ここは俺の育った所で、尊敬するノイマン隊長やベケット団長が命懸けで守った街なんだぜ。帰って来たっておかしくないだろう?」
ロビンは爽やかな笑顔を返した。
「…ロビン、俺はもう、全部知っているんだ…」
「全部知っている?ハハ、何を言っているんだコージ、全部知っているだって?ハハハ…貴様が何を知っているというんだぁあああああ!!!」
ギィィィン!!
突然ロビンがコージに剣を振り下ろす!!コージは剣を横にしてその攻撃を受けた。
ギリギリ!!
「ロビン…」
「知っているだと?何を知っているというんだ!戦争の怖さか?人を斬る感触か?焼け落される街か?遊びで殺される子供達か?解っちゃいないんだ貴様もこの平和ボケした街も何もかもが!!」
ロビンは剣を挟んでの押し合いの状態から力でコージを払いのける。
「だから俺が壊す!そして悟らせるんだ!解らせるんだ!!このままじゃ駄目だって、そしてノイマン隊長やベケット団長の正しさを証明する」
「壊す?お前いったい?…!!」
その時北の森での事を思い出す。
そう、合成魔獣製造所として改造されていた自警団の見張り小屋に住み着いていた山賊の話を…そして森で出会ったランディは以前『時代の曙』に雇われていた事も。
「教えてやるよ、この後俺の部下達が街を襲う。1度街を壊すんだ。そうすれば平和ボケしたこの街の連中も解るはずだ」
「そんなことは…」
「出来ないと思うか?この大会を開いたのは誰だと思う?俺だ!俺がスポンサーとして大会を開いた。自警団のほとんどの連中がここの警備に呼ばれている筈だな」
「…」
「コージならもうわかるな、確立された軍隊や警察でもない自警団では今回の警備要請を却下出来なかったんだ、その為今の街は無防備そのもの。そして個々で力のあるものは大会に参加している為満足に動けない。誤算はリカルド隊長が参加しなかった事ぐらいだな。親バカって情報があったからミス・エンフィールドなんてバカな企画をたてたんだが」
(こいつ…ロビンがいた頃はそんな情報わからないはずなのに…)
コージが不思議そうな顔でロビンを睨む。
「ハハ、不思議かい?俺にはこの街を良く知っている協力者がいるんだ。こんな形で役に立つとは思ってなかったけどね」
ロビンはヒュンと剣を振る。
「わかっていたようだけどこれは本物の剣だ。コージを殺すつもりはないが腕の一本位は我慢して欲しいね、君は強いから。そしてしばらく眠っていてくれ。全てが終った後君は俺達が正しかった事に気付いてくれると信じているよ」
ロビンは再度剣を振りかぶりコージに斬りかかった!
キィン!
コージは剣を弾いて距離を取る。
「くっ…ロビン、お前の計画は、もう…」
「まだ抵抗するのかい?困ったな…やれっ!」
「ルーン・バレット!!」
「えっ!?」
コージの後方から声。そして立ち位置の真横に火球が炸裂した。
「今のはいったい?」
後ろを見ても誰もいない。
「外したか、まあいい。俺に斬られるのと黒コゲ、好きな方を選んでくれ」
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「エルったらだらしないわね☆こんな連中にてこずるなんて」
「こ、このバカマリア!!トリーシャが人質にとられてんの見えないのかっ!!」
得意顔で登場したマリアをエルは思いっきり罵った。
「そ、そうだぜお嬢ちゃん!逆らったらこの子の顔に傷がつくぜ!」
トリーシャを人質に取った自警団員が冷や汗を流しながら脅迫する。
「フッ甘いわね☆だったら全員まとめてフッ飛ばせばいいのよ!!」
「はあ?」「えっ?」「ま、まさか…」「マリアちゃん!?」
エル、クレア、クリス、シェリルのそれぞれの発言。
「いくわよ〜☆ひっさ〜つ」
「ちょ、ちょっと待ちなマリア!全員フッ飛ばすってトリーシャは?」
「えっ?…あはは☆と、とまらない…」
既に詠唱は完了、魔力は集まり後は放出するだけの状態になっていた。
「くっ!!このバカ…イチかバチか…」
エルは精神を集中して…
「クロノス・ハート!!」(時間停止魔法)
――――――――キィン!!
魔法成功。エルは時の止まった間に自警団員からトリーシャを奪い取り、素早くマリアの後方に下がった。
そして時は動き出す。
「ご、ごめ〜ん☆ヴォーテックス!!」(強力広域攻撃魔法)
どど〜ん!!
強烈な破壊音と共に共同控え室は廃墟となった。多くの自警団員の屍を創って。(注:死んでません)
「トリーシャ様は?」
クレアが黒コゲになった室内を見まわす。
「マ、マリアは悪くないわよ☆」
いや君が全部悪い。
「トリーシャは大丈夫だ」
マリアの後ろからエルの声。そこにはエルに抱きかかえられて眠っているトリーシャがいた。
「良かったトリーシャちゃん」
シェリルとクリスが目に涙を浮かべながらホッと溜息をついた。
「さて、マリア…」
エルがトリーシャをシェリルに預けてゆっくりと立ちあがる。
「ちょ、ちょっとエル☆マリアはトリーシャを助ける為にしかたなく…」
マリアはジリジリと後ろに下がりながら必死にいいわけする。
「一緒に黒コゲししようとする奴があるか〜!!」
エルは両拳でマリアの頭をグリグリと挟んだ。
「いった〜い☆わざとじゃ無いのに〜」
マリアへのお仕置きを終えて、エルは先程トリーシャを捕まえていた自警団員に近づく。
「う、うう…た、助け」
ドゴッ!!
「ウゲッ!!」
魔法で吹っ飛ばされ、倒れこんでいた男にエルはケリを入れる。
そして耳を引っ張ると耳元でささやいた。
「よくもアタシのトリーシャにナイフを突きつけてくれたねぇ」
「ひ、ひぃぃ…スミマセン!!」
「さて、何を企んでいたか全部話してもらおうか?」
「は、はい…解りました…」
共同控え室にいた謎の自警団員20名…全滅。
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『な、なんと!何も無い所からの魔法攻撃!銀仮面選手謎の魔法を使ってさらにコージ選手を追い詰めております!!』
競技場での会話など知る由も無い審判さんは不可思議な攻撃に賞賛を送る!コロシアム全体も大歓声が続いていた。
「そろそろ決まったか、コージ?」
「何がだ?」
「斬られるのと、黒コゲになることだよ!」
ガキィッ!!
またも剣と剣がぶつかり合う。
「どっちもお断りだ!」
力で剣を振りぬきロビンを後ろに押し追撃…する直前。
「ルーン・バレット」
またも後方から呪文とともに火球が足元に炸裂した。
(近づけない。ロビンが向かってくる時に決めなければ駄目だ!)
一定の間合いを取って構え直す。(立ち止まっていると魔法をくらいそうだが…)
ビュン!!
ロビンはすかさず突きを放つ!!…またもやロビンの視界からコージの姿が消える。
「また下かっ!!」
ロビンはバックステップして上半身を反らしながら後方に下がる。
コージは確かにしゃがんでいた。そして振り上げた剣は突き出されていたロビンの手首を狙っていたのだ。
ガチィッ!!という音と共にロビンの手から剣が離された。そしてそのまま立ちあがり剣を振り上げて…
「…トリーシャを人質にしている」
「なっ!?」
ドカァッ!!コージはロビンに殴り飛ばされた。
「ロビン…お前どこまでっ!!」
ロビンはゆっくりと落した剣を掴んだ。
「別に彼女を傷つけるつもりは無い。計画が終れば解放するさ」
「…」
コージはギリッと歯を噛み締める。
「もうすぐ決行の時間だ…君はこれからのエンフィールドに必要な人間だと思っている。今だけじっとしていればいい。だから少し眠っていてくれ。…やれっ!」
ブゥン
コージの後方から魔力。
「ルーン・…」
「駄目だよっ!!」
「えっ?」
競技場だけではない。コロシアム全体が静まり返る。
先程の声の主は、選手入場口からエルに肩をかりてゆっくりと競技場に歩いてくる少女トリーシャだった。
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「どういうことだ!君は俺の部下が…」
トリーシャを驚愕の表情で見つめるロビン。
「アンタの仲間はこのマリアさまがぜ〜んぶやっつけてあげたわ☆」
「…ボクを道づれにしてね」
「うっ(何で知ってるのよ)」
マリアは後ろを見る…目をそらすクリス。更に見つめるマリア。
「…何かなマリアちゃん」
溜まらず引きつった笑顔をマリアに向けるクリス。
「後で死刑☆」
「ええっ!?どうして〜!!」
後日クリスはマリアの実験台にされてしまうがそれは別の話。
「トリーシャ、良かった無事だったか」
「うん、ボクは平気。それよりもコージさん、嬉しいニュースがあるよ」
トリーシャはエルから離れ、競技場の前にたつ。
「お帰りなさい、ヘキサ。みんな君のことまってたんだよ」
「ヘキサ!?ってまさか…」
先程魔力を感じた辺りからスッという音と同時に、長い眉毛に少しツリ目がかった大きな目、黒く長いマントをした小さな使魔が現れた。
「…よう、元気だったかコージ、トリーシャ」
「へ、ヘキサ!お前どうして…って何か?今まで魔法で攻撃してたのはお前かぁっ!!」
「しょうがねぇだろ、こいつがオレの主人なんだよ!」
小指で耳の穴を押さえながら文句を言うヘキサ。
「しょうがないで昔の主人に攻撃すんなっ!!」
「だ〜れが主人なんだよ!お前なんか子分だ子分!!」
「なんだと〜!!」
今までの緊張感を余所になじりあいを始める二人。
「うう〜ん、感動の再開にはならなかったな〜」
トリーシャが呆れた表情で二人を見守る。
「…騒ぐのはそのへんにしていろヘキサ。計画はまだ終っていない」
今まで黙っていたロビンが口を開く。
「ロビン、もう終りだよ」
「まだだ!もうすぐ別の部隊が街を襲う!そうすれば計画は成功だ!!」
「それも無いな」
別の選手入場口から今度は男の声。競技場にやってきたのはルー、ローラ、セリーヌ…ついでにピートを背負ったアレフがいたが彼は競技場に付いた途端ダウンしてしまった。
「あの〜ロビンさんですか?」
セリーヌが競技場に近づく。
「…なんだ君は?」
「あ、はい、私はセリーヌ・ホワイトスノーと申します。教会で孤児院のお手伝いをしているものです〜」
「…なんの用だ?」
「それがですね〜、ランディさんから言伝を頼まれまして〜急いできたんですが間に合って良かったです〜ってあら、ヘキサさんじゃないですか!お元気でしたか?」
「よ、よう、相変わらずだなセリーヌ」
「そんなことより言伝とはなんだ!」
ロビンがイライラしてセリーヌを促す。(気持ちは解る)
「え〜と『計画は失敗。俺は降りる』だそうです〜」
「なん、だって…」
ロビンはガクリと膝を付いた。計画は完璧だったはずだ、何故失敗する?
「あ、それとですね〜、コージさんにも言伝があるんです『10年の時間をくれてやる。そこから先はお前達で何とかしろ』だそうです〜」
「セリーヌ、それどういう意味?」
「さあ〜解りません」
ランディの言伝の意味は解らない。しかしロビンの計画したエンフィールド襲撃計画は失敗に終った事は確かだった。
コロシアムはざわつき始める。試合は中断され、次々と試合と関係の無い人々が競技場に集まってきたのだから。
『あ、あの〜試合の方は?』
まったく現状を理解できていない審判さんがマイク越しに質問する。
「ああ、試合はもうおわっ…」
「黙れコージ!まだ終ってなどいない!ヘキサ、お前の最大魔法でこの場にいる連中を吹き飛ばせ!!」
「嫌だね」
バチン!!
ロビンの命令を拒否した途端ヘキサの体から火花が散った。
「ぐっ!!」
「ヘキサ様!?今のはいったい」
苦痛に顔を歪めたヘキサを見て思わずクレアが声をかける。
「…オレは使い魔だからな、命令に逆らうとこうなっちまう」
「ば、バカ言え!俺の時は言う事なんて何一つ聞かなかったじゃないか!」
「コージの時とは召還レベルが違う。元来使い魔は主人に逆らうなど有り得ない。もう1度命令する、このコロシアムの連中を吹き飛ばせ!!」
「い・や・だ・ね・!!」
ヘキサはアカンベーをしながら逆らった。
バチバチバチバチッ!!
「うぁあああああっ!!」
ヘキサの体がまるで静電気の固まりのように光る。
「止めろロビン!もう計画は失敗だろう!ヘキサを使ったって…」
「解っていないなコージ!魔力を使いし者、使い魔は無限の魔力を持っている。ヘキサの巨大魔力を攻撃魔法に変換して使えばこのコロシアム程度吹き飛ばす事が出来る!!」
「なんだと…」
「ヘキサ何を逆らう!お前だってこの計画には賛成していた筈だ!エンフィールドの為に1度この街を破壊しなければならないんだ!!」
「…そうだロビン、お前に付き合って戦争をしてきた。こんな平和ボケした街じゃいつかやられちまう。だからお前の計画に付き合った。でも今は違う!お前の計画は誰一人傷つけることなく街を破壊して教訓を植付けることだったはずだ!今コロシアムをフッ飛ばしたらどれだけの人間が傷つくんだ!」
ヘキサは真直ぐにロビンの顔を見る。
「だ、黙れ!!このまんまじゃ何にもならないんだ、このままじゃ…ヘキサ!コロシアムを破壊しろっ!!」
ロビンはもはや目を閉じている。感情任せの行動…
「俺は…友達を傷つけるなんて、絶対嫌だね!!」
バリバリバリバリバリッ!!!!
「ぎゃああああああっ!!」
「へ、ヘキサー!!」
コージが助けようと雷撃?に包まれたヘキサに近づく。
「…悪かったな、コージ…ロビンの奴は悪い奴じゃねーんだ、許してやってくれ。じゃあ…な」
ヘキサはニヤリと笑った後、姿を消した…