花束を君に


第3話 幸せの終わり<前編>


「と、言う訳なの。お願いコージさん、大武闘会に参加して!」

「…参加するのはいいけど俺じゃあ優勝は無理だろうし、もし優勝できたとしても俺とキスすることになっちゃうよ?」

トリーシャは自警団員寮の一室、元第3部隊隊長、現第3部隊副隊長コージの部屋に来ていた。

 ちなみにトリーシャの説明にはコージさんが好きだから参加して欲しいということと、ファーストキスの部分は伏せてある。

 それにしても鈍感すぎるとトリ−シャは思う。話の流れからしてどういうつもりで自分がここに来たか察してくれてもよいだろうに。

 トリーシャは過去の彼に対するアプローチを思い出していた。食事を作りに来てあげたこともあるし、部屋を掃除してあげたこともある。耳掻きもしてあげたし(笑)デートだって何回もした(全て彼に奢らせていたが)、彼のベッドで寝た(!!)こともあるのだ(別に何もなかったが…)…はぁ、そっか、こうゆう人だったんだよね。溜息をつかずにはいられなかった。

「トリーシャ?」

コージが心配そうに見つめる。

「あ、うーん、だからね、あっそうだ、ほら、コージさんだったらキスのマネでも問題ないでしょ!だからお願いしてるんだよ」

自分でも上手い言い訳だと思った。なんでこんな言い訳言わなきゃいけないんだろうと思いながら…

「ああ、そうゆうことか。わかった参加する、優勝できるかどうかは解らないけど頑張ってみるよ」

やれやれといった表情で答える。

「ホントに?ありがとうコージさん♪」

「その代わり、これからはキチンと書類には目を通す事。軽はずみに契約なんかしちゃ駄目だからな!」

「うん、解ってるよコージさん、絶対に優勝してね♪じゃあおやすみ」

トリーシャはスキップしながら帰っていった。

「…話聞いてたのかな?」

トリーシャが自分に都合の良い部分以外聞いてないのは明白だった。



「あら、あれはトリ−シャさま?」

ショートカットに青い髪、多少釣り目がちながら大きな瞳で優しげな印象を受ける少女クレアが夕食の買物から買える途中、軽快な足取りで歩いているトリーシャを見かけたのは、街灯の明りが灯る時間だった。

「何か嬉しい事でもあったのかしら?」

自分とは随分距離があり、さすがに声をかけなかったが、暗がりでも目立つ黄色いリボンがピョコピョコと跳ねる姿は実に楽しげだった。

「あ、いけない、速く帰って夕食の準備をしなければいけませんわ」

黄色いリボンも見えなくなった頃クレアも再び歩き出した。

「先程トリーシャさまがスキップしていたのを見かけたんです、何か楽しいことでもあったのでしょうか?」

「…まったくトリーシャの奴」

ここは自警団寮アルベルトの部屋。しかしアルベルトはいない。いるのはアルベルトの妹クレアと隣に住むコ−ジだった。現在夕食中でコージがクレアに夕食を招待されていたのである。

 この2人別に付合っているわけではないが、コージはクレアに弁当を作ってもらったりアルベルトがいないときは一緒に夕食を食べる。何故アルベルトがいない時だけかといえば、アルベルトはかなりのシスコンで、妹に誰一人男を近づけないのである。親友である(はず?)のコージでさえクレアと話しただけで何度殺されかけたか解らないほどであった。(つまりこの時間はアルベルトに秘密なのである)

 そんな危険があるのに何故コージはクレアと食事するのか?理由は彼女のおかげでバランスの良い食事がとれ、(以前は缶詰で1ヶ月過し栄養失調になりかけた)断ろうとするとクレアが今にも泣き出しそうにな顔をするからである。しかし食事が美味しいし、クレアと一緒にいると楽しいというのも大きな理由である。

 クレア本人は明らかにコージに好意を寄せているのだが、コージ本人はその事に気付かない。兄の友人として、又何度も兄妹喧嘩の仲裁をして。そういった理由で色々世話をしてくれるのだと思っている。(鈍感どころか最悪である)

 「ええっ、ではコージ様が大武闘会にでられるのですか?」

おそらくであるがトリ−シャがスキップしていた理由を説明してクレアがおおいに驚いた。

「うん、まあ優勝できるとは思ってないけどね。そうだクレア欲しい物ある?もし優勝できたら賞金がでるだろうからいつも食事を作ってくれるお礼になにか買うよ♪」

もちろん冗談でいったのだがクレアは落ち込んだ顔をしていた。

「…では、怪我等しないで下さい、それでいいです」

さすがにこんなことを言われてはドキッとする。

「大丈夫だよ、主治医にドクターが来るって言ってたしね。…うん解った、怪我しないように頑張るよ」

(良い子だよなあ、本当にアルベルトの妹とは思えん。怪我しないように少し鍛えなおさなきゃいけないな)

クレアの気持ちとは裏腹にコージは少しやる気を出してしまったようだった。

しかしこの幸せな時間は無残にも引き裂かれる。

ガチャッ!!

扉の開く音。ノックもなしでこの部屋に入れるのはこの部屋の住人アルベルト唯一人であった!!




3話後編へ


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あとがき: つづきます(笑)よかったら読んでね。


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