戦争の中の正義と悪 

 

 

章 各々の正義 前編

 

 エンフィールドを出て、10日程たった。その日、エンフィールド・アルベザード連合軍が、アルベザード本国から北約10KM程の地点に到着した。

アルベザードが支配していた都市を通過するとき、戦闘が起こると予想されたが、エンフィールドに属したアルベザード四天王のうちの3人(とその副官)を敵に回す度胸は兵士達に無く、逆に連合軍に着くという結果になった(中には、アルベザードが占領した国の兵士達も当然いた)。

そして、本国に到着したときは、6万程の兵士が、今や10万以上にふくれあがっていた。

「ようやく……ここまで来たな。」

「ああ。まったくだ。」

 目先にある王城を見て、感慨深そうにルシードが、そしてトウヤが呟く。

「よし!明日、敵城に攻め込む!今夜はここで休息を取るぞ!」

「了解!」

 

 

「トウヤ、ルシード、話がある。見張りをしながらでいいからそのまま聞いてくれ。」

「?重要な話?」

「というより、チェルス・リーベルト個人としてお前達に聞きたいことがある。……お前達にとって正義とは何だ?」

 意外な言葉にトウヤとルシードは思わずお互いの顔を見合わせる。

「唐突、だな。」

「ああ。自分でもそう思っている。」

「……俺は……自分が誰よりも信じることができるたった1人の女性……ユミール・エアル・クラシオが正義だ。あいつが俺に死ねといったら死ぬ。ただそれだけだ。」

「そこまで言うか?」

 トウヤの即答にルシードは化物を見る目つきでトウヤを見る。

「フェインの言う正義よりはマトモなつもりだ。」

「……まぁそうだけどさ。」

「ルシード。お前は?」

「俺?考えたことねぇよ。自分が正しいと思ったことをやるだけだ。だから自警団に入った。」

「そうか。」

「答えたぜ。今度はアンタの正義っての、教えてよ。」

 トウヤの反撃にチェルスは面食らったような表情になる。

「……そうだな。それが礼儀というものだ。……だが、お前たちに正義とは何か?と聞いたのは自分にとって正義とは何なのか分からくなったからだ。」

「てことは、今までのアンタは、アルベザード国王がアンタにとって正義だったってわけ?」

「そういうことだ。」

「ふうん……」

「お前たちの答えを聞いて、参考になった。感謝する。」

「なんだよ。俺達以外の奴に聞かなくていいのかよ。」

「お前たちの答え以上の物を期待するならば、そうしよう。」

 ルシードの声に答えてチェルスが別の場所に移動しようとした瞬間、甲高い声が場に響いた。

 そしてその直後、その声の正体が上空に浮かび、攻撃態勢に入る。

「?ヴァンゲスの召還魔獣……か?」

「どうやらそうだな。トウヤ、リカルド殿に連絡を取ってくれ。」

「了解!」

「ルシード!来るぞ!迎撃用意だ!」

「任せろ!」

 

 

「夜襲だ!ヴァンゲスの舞台が攻撃してきたぞ!」

 トウヤの叫び声でその場に緊張が走る。

 その直後に魔物が様々な方向から出現する。

「炎の檻よ……我が敵を縛りて、激しい苦痛を与えよ!フレイム・ジェイル!」

 バーシアが叫んだ後、彼女の五本の指から次々と鎖が出現し、まるで檻のごとく魔物の一体を縛り上げる。

 その魔物は炎に包まれ、もがき苦しんだ後、絶命する。

「大空を支配する気分屋な風たちよ……激しき渦となりて、我が敵を切り裂きたまえ!ヴォーテックス!」

 絶命した魔物を見て怯んだ敵に情け容赦なくトウヤが嵐の魔法で追撃をかける。

 その嵐は上空にまで浮かび、ハーピーやドラゴンフライなど空を飛ぶ魔物までをも切り裂いていく。

 しかし、その魔法の効果範囲外にいる魔物がトウヤを殺そうと攻撃した直前に、次々と切られ、地に伏せる。

「ふぅ〜〜……結構倒したつもりだったんだけど……まだまだ、倒し損ねてなかったのね。」

「心配しない!私たちもいるんだから。乱発だけはしないでいきましょ!」

 額ににじむ汗を拭いながらも、ため息をつくトウヤにメリッサが安心させるように軽く肩を叩く。

「りょーかい!任せろ!」

 その言葉の直後、トウヤは敵の一体に跳躍し、腰に身に付けていた剣を素早く抜いて、素早く切り裂く。

 そしてトウヤによって翼をもがれたドラゴンたちが気力を振り絞って攻撃するものの、もはやトウヤ達の敵にはなっていない。

 残りのドラゴンたちはそれを見て怒り狂ったように炎や雷を吹いて攻撃を開始する。

 それらが陣の中の食料やテントにぶつかり、炎となってチリとなる。

「風の精霊よ……嵐の膜で我が敵の攻撃を防げ!エア・スクリーン!」

それを見てもバーシアは動揺せず、逆に風の魔法で攻撃を逸らす。

その隙を突いて、カインやリサを中心とした戦士達が地上を歩く魔物たちを一掃する。

この防御に敵がただ戦う一本ではなく、頭脳戦もできると理解した魔物たちは逆にドラゴンやハーピーは上空から直接攻撃を仕掛け、その疾風でトウヤたちは身動きの取れない状態になる。

「チィッ!なろぉ……こんな攻撃に俺達がやられると思ってるのかよ!」

「慌てるな!防御に徹しろ!」

 風に抵抗しようと剣を上に向けようとするフェインをリカルドが制する。

「来るぞ!気をつけろ!」

 トウヤの叫びで周りの戦士たちが迎撃体制に入る。

「大地にすまごう精霊よ……無数の土の矢となりて我が敵を切り裂け!ニードル・スクリーム!」

 至近距離に入ったことを確認した後、エルは素早く術の印をきり、上空へ無数の土の矢を魔物へとおみまいする。

 その無数の矢をまともにくらった魔物たちは先ほど嵐に巻き込まれた者たちと同じ運命に辿り着いてしまう。

「よし。前よりもプラーナが高まってるよーね!」

「残った敵は?」

「後40程……いえ、30程です!前線でルシードとチェルス将軍がふんばってくれているようです!」

「よし!20分で残りの敵を殲滅させる!行くぞ!」

 ゼファーの命令に、戦士たちは動きを再開した。

 

 

 同時刻

「ヴァンゲスよ。お前の同門たちはうまくやってくれているようだな……?」

 報告を受けたヴァンゲスは、後ろにいる鎖に縛られた男に声をかける。その男の容姿はヴァンゲスにひどく告示している

「私と話すときだけは元に戻ったほうがいいのではないかな?醜い魔物様よ。」

「ふ……貴様の前では確かに姿を偽る必要もなし……か。」

 鎖に縛られる男に受け答えた直後、ヴァンゲスは本当の姿に戻る。

 そう。鎖に縛られている男こそ本当のヴァンゲス・ヴァルト……もといヴァンゲス・アスティアであった。

「私の姿をして、何をしようとしているのだ?魔物。」

 ヴァンゲスは目の前の醜い魔物に対し、紳士的な言葉とは裏腹に攻撃的な声音を含めている。

「貴様の母……アリサ・アスティアの魔力に決まっていよう……?そしてその次は貴様自身の魔力だ。」

「私の魔力を奪った後は貴様が私の姿を借りて世界を征服する……か。そんなことがルシードやエルが許してくれると思っているのか?」

「……いずれ、わかるさ……」

「そうか。おそらくお前の望みなど叶うとは思わぬが、私が殺される時を楽しみにしておこう。」

「その言葉……覚えておこう」

 ヴァンゲスの挑発など魔物は意に介さず偽りの姿へと戻り、その場所から去っていった。

(……魔物よ。この程度の鎖など、私にとっては朝飯前だと言うことを気づかなかった貴様の負けだ。)

 魔物の後姿を見送りつつ、ヴァンゲスは己の、否……ルシードやエルの勝利を確信していた。

 

 

 次の日

 魔物のあまり美味しくない肉を食べた直後、アルベザード城の近くへと戦士たちが集まった。

「あー。いよいよ最後の戦いになると思う。」

 ゼファーが緊張した面持ちで、そう切り出す・

「アルベザード側は恐らく最後の最後まで抵抗を見せるだろう。だが、我々も簡単に負けるわけにはいかない。皆の力でこの戦いを勝利しよう。……以上だ。」

 その直後、戦士たちからすさまじいほどの歓声が上がる。

「よし、アルベザード王城へ出撃だ!」

 リカルドの命令に、彼らは城へ走り出した。

 

第9章へ続く

 

 


 後書き

 えー。「争いの中の正義と悪」の第8章ですが、ヴァンゲスの事で驚いた人……正直に手ぇ上げろって言いたいです。自分を含めて。

 やっぱり魔物とかそー言うのが欲出して人間界征服しよーかなーって気になって……ってやったほうがストーリー的にいいかなーと思ったもので。ドラゴンクエストみたいになってますが。

 ともかく後2つでジ・エンドになりますのでお楽しみに。

 

 

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