とある秋の一日





前編

 とある秋の一日の夕刻頃、東京都某区のかしのき公園と呼ばれる所の大木の元に、二人の高校生風の少年が座り込む。

 片方の少年は、風見透夜。信じられないかもしれないが、この年の春、異世界の戦争に巻き込まれただけでなく、そこに住む12歳年上の女性と恋におちた男である。

 もう片方の少年は、川本杏(あんず)。こちらも信じられないかもしれないが、なんと12人もの妹がいるすさまじい男である。

 そんな(そんなかどうかはわからないが。)二人である。お互い凄い状況に置かれている為かそうでないのか、過去に意気投合して現在は、2人で暮らしている状況である。

「なあ。杏。」

「何?透夜。」

「何度も思ってるけど、お前、凄いよ。」

 透夜はホトホト感心するように隣にいる大人しい性格の友人に言う。

 透夜の視線の先には、杏の妹たちが楽しく遊んでいる。

「何で……そう思うの?」

「だってよ、あいつらの面倒、お前1人でやってんだろ?」

「まぁ、そうだよな。」

 透夜のしみじみとした言葉に、納得したように、杏はうなずく。

(ローディスは俺のことを謙虚だといったが、こいつに比べりゃな……)

 透夜は隣にいる友人を見つつ、アカルディアにいる友人を思い出す。

「ねぇ、透夜。」

「何だ?」

「インドあたりに駆け落ちしよっか。」

「ぶふぅ〜!!」

 友人の言葉に、透夜は口に含んでいた飲み物を一気に吹き出す。

「杏ぅ〜〜。」

「ははっ!冗談に決まってるっしょ。」

「いくら冗談でも言っていいのと悪いのがあるだろが。」

「ごめんごめん。」

(こいつ、こんなキャラクターだっけ?)

 杏の笑顔を見ながら、透夜は漫画によく出る大きい汗を出す。

「お兄ちゃーん!」

 驚いている形相で友人を睨みながら、透夜は懐かしい声を聞いた。

 その方向を見ると、声の正体は自身の恋人の姪にあたり、自身にとっても妹のような存在。そして、自分のことを兄と呼んで慕ってくれている少女であった。

「メルヴィ!そんなに走るとコケるぞ!」

「だいじょう……きゃあ!」

 悲鳴と共に転げた先には、彼女と同じ程度の年頃の少女がいた。

「衛!み右!」

「え?う、うわわ!」

 それを見た杏が慌てて声をあげる。その直後にその少女の声が響く。

 衛と呼ばれた少女が走っている所にメルヴィが転がりそうになっているのだ。

「ま、衛ちゃん!」

「ちょっと、二人とも、大丈夫?」

 メルヴィと衛が衝突した場所に、杏の妹たちが集まってくる。

「大丈夫?衛。」

「う、うん。ボクは大丈夫だけど……」

「あ、ご、ごめんなさい……」

「?あにぃ、この子、なんて言ってるの?」

「ぶつかってごめんなさいって言ってるんだ。な?メルヴィ。」

「透夜、この子の言ってること、分かるの?」

 自分の言葉にうなずく少女の頭を優しく撫でている透夜に、杏が聞く。

「ま、ね。こいつはお前ら……つーより俺らの言ってることは通じてる……と思うぞ。」

「思うぞ、じゃ無くて通じてると思うんだがな。」

「と、いつものオッサンじゃなくてジジィだったか。」

「だれがジジィだ、だれが。」

「じゃあ、クロビスとかいう変な名前のバカオヤジ。」

「お前な……戦時はもっと可愛気が……まぁ無かったか。」

「鍛えられてますから。」

 誰に、とは当然透夜は言わない。言ったら当の本人に怒られるからだ。

「透夜……もしかして咲耶に?」

「ノーコメント。そんなことより、なんでクロビスがメルヴィと一緒にいるのよ。」

「ああ、そうだ。忘れてた。ユミールもこれからこっちに来るんだ。だがな、ちょっとやらなきゃいけない事があるらしい。」

「へぇ。まぁ、あいつは俺と違って暇人じゃねぇからな。」

 会話に付いていけない友人とその妹たちを横目に、透夜は肯いて納得する。

「んで、その暇人じゃないユミールがこっちに来てしかもその前にメルヴィを預けてこっちくるようになったの。」

「ああ。あいつが俺達があった事を祝してパーティーを開こうって事になったんだが、適当なデカサの場所が無くてな。メルヴィをお前の所に連れてくるついでに俺が探す事になったんだ。」

「そーいうことなら、僕がいいところを知ってるよ。」

「まさか……あそこか?」

 トウヤの言葉に、杏はウィンクして答える。それが全てを物語っていた。

「分かった。クロビス。14人増えるが、おまえは構わないな?」

「?どういうことだ?」

「あれ。」

 指を指した方向に、12人の少女がメルヴィといっしょにずらりと並んでいた。

「何者だ?」

「こいつの妹ら。」

 透夜に指をさされた当の本人はニコニコ笑顔であった。

「マジ?」

「マジ。」

「顔をよくよく見ると、なんかそんな感じの大物だな。」

「こらこら。」

「ま、そーいうことだから、その場所、案内しろ。」

「了解、了解!っと。」

 

 

――亜里亜の家

「この家だ。」

「…………すげぇな。」

「でしょ?」

 クロビスの言葉に杏はやはりニコニコ笑顔であった。その後ろにはワンダースシスターズ(もちろんこの呼び方を考えたのは透夜で、12人の妹たちだからと言う理由から。)とメルヴィもいっしょにいる。

「でしょ?じゃなくてな。」

「つーこって、杏。説得、頼むぞ。」

「分かったよ。」

「お前はどうするんだ?」

「久しぶりにユミールに合いたいしな。クロビス、連れてってくれんだろ?」

「まぁ、そうだが。」

「ならいいっしょ?」

「ううむ……」

『そうそう四葉、チェキるんじゃねぇぞ(ないよ)』

 うめくクロビスを横目に、コソコソと愛用ルーペを取り出した四葉に透夜と杏の声が妙なハモリを見せていた。

 

 

 ――聖地、連金学士育成アカデミー

「よ!ユミール!」

 授業終了のチャイムの直後に出てきたユミールに、透夜は恥ずかしそうに軽く手を上げた。

「と、透夜?どうしてここに?」

「へっ、暇じゃなさそうだからこっちから会いに来たんだ。」

「クラシオ先生、誰なん……あーっ!救国の英雄だ!」

 アカデミーの生徒の1人が教室から出たときにその台詞を叫んだが最後、次々と生徒たちがユミールと透夜を囲む。

「しまった……ユミールぅ〜。」

「自分がまいた種って言葉、知ってるかしら?いいサインの練習になるかもね。」

 救いを求める透夜に嬉しそうな言葉のユミール。やはり恋人が有名人なのは自慢になるのだろう。

 後にユミールは終戦直後にマキが書いた記事に、「救国の英雄は通常時は精霊機操者達を指揮し、次期教母ユミール・エアル・クラシオの不在時には戦艦リーボーフェン副艦長代理として活躍した超天才」があったと透夜に教えたという。(実際そうだったんだからしゃーないかとは、その時の透夜の弁である。(←自惚れてるな?透夜君))

「やれやれ……しゃあねぇな……」

 そう呟くと、どこからともなく取り出したマジックペンでサインを書き始めた。

 

 

「それで、私に何の用事だったの?」

 夕刻頃、学校からクラシオ家に続く道でユミールが透夜に聞く。

 お互いに色恋沙汰に奥手であっても、二人きりのときは手を握ってみたりもする。

「お前に会いに来ただけじゃ不満なのか?」

「別にそうじゃないけど……前のあなただったら、自分から恋人に会いに行くような人じゃなかったじゃない?」

「あのな……ま、強いていうなら余程の理由が無いのにお前に合いたい気持ちを抑える必要が無かった。それじゃ不満か?」

 透夜の言葉にユミールはたちまち頬を真っ赤に染める。言った本人は、自分が言った言葉が恥ずかしかったのか、彼自身も真っ赤になっている。

「そ、そんなことより、メルヴィはどうしたの?」

「あ、ああ、ダチの妹に面倒見てもらってる。大丈夫だって。」

「そ、そう。ねぇ、透夜……」

「何だ?」

「もっと、ギュッて私の手、握って欲しいな……」

 ユミールの言葉に、透夜は体全体を赤くし、俯いてユミールの「お願い」を聞くことしか出来なかった。

 

 

 次の日。

「んで、何故にこんなに簡単にオッケーになった訳よ?」

 その上何故か亜里亜の家の前で焼肉パーティになってしまったしと言った表情で透夜は隣にいる相棒に聞く。

 亜里亜の家のメイドさんの通称「じいやさん(女性)」が気難しい性格だというのは透夜も知っていたからこそでた言葉だったりする。

「じいやさんが焼肉好きだったんだ……」

 笑いをこらえて、その相棒……杏が答える。

 その答えで透夜は本人の方向に目をやると……クロビスやフェインと肉の取り合いで激しいバトルを繰り広げいていた。

「成る程ね……焼肉パーティにするならここを使用してもオッケーって訳かよ……」

「あれ?お兄ちゃまたち……」

「何笑おうとしてんのさ。」

「あれを見ればわかる。」

 花穂やの杏同様笑いをこらえた表情で透夜が指差すと、二人も納得したような表情になる。

「フェインやクロビスと子供のようにバトるなんて、あの人も俺たちのことをとやかくいえねぇな。」

「どーかん。」

「?何か慌しくありません?」

 和やかな雰囲気亜里亜邸……もとりその奥の方を見つつ、アーサーが声を出す。

「あれ?本川さん?」

「何?衛、本当か?」

「え、うん。一瞬しか見えなかったけど……似てたから……」

「う〜ん。本川刑事ならほっとけないね。晃一郎の時に恩があるし……」

「悪かったね。というより野次馬根性じゃないの?って、衛ちゃんまで!」

 晃一郎のツッコミが終わらない内に、透夜が走りだす。それを見て勢い任せに衛まで走り出す……が、いきなり全力疾走していたため、すぐに透夜を追い越してしまい、すぐに透夜のスピードに合わせる。

「……あの二人の野次馬根性は誉めるに値するが、ここは僕たちも一生宅連になってしまいそうだし、しょうがないからいきましょーか。」

 完全に呆れた表情で杏がその場にいた皆に同意を求める。

 そこにいた「皆」のうち、全員が全員同意をせざるを得なかった。(亜里亜は訳がわからなかったので同意もなにもあったもんじゃないが)

 

 

「本川刑事!石田刑事!」

「?透夜君に衛ちゃん?どーしてここに……」

 警視庁の有能な女性刑事、本川優子とその相棒的存在で、彼女に惚れている石田甲斐が驚いた表情をする。

 ちなみに、透夜と晃一郎がはじめてあった時、大喧嘩したときになにが面白かったのか、自分から関わってしまって、透夜・晃一郎から見れば恩人的そんざいでもある。

「この家の裏が亜里亜ちゃんの家なの。それで何があったんですか?」

「え?ええ。透夜君なら話してもいっか。晃一郎君もいるだろうし。」

 有能ながら(?)能天気に自己判断し、自己完結する。透夜から言わせれば、この能天気な性格は刑事らしくないと思ってしまう。

「この家に麻薬常習犯や麻薬密売人がすんでんのよ。」

「はーそーなんですかって何で分かったんで?」

「タレコミ。」

(一発ブン殴ってやろうかこのアマ(怒))

 刑事の即答に本気でそう思ってしまうが、隣に友人たちがいる手前、それも出来ない。

「あら、晃一郎君よりも強そうな人たちばっかり。ねぇ、手伝ってくれる?」

 本川刑事の一言に、(毎度ながらこんなんでいーのかないーのかな……)と石田甲斐刑事は本気で思ってしまっていた。



 中篇へ続く



後書き

35000HITおめでとう作品のつもりが……かなり遅くなって申し訳ありません。

最初ののほほん系単品のつもりが前中後タイプになってしまったり(笑)

とりあえず聖霊機ライブレード+シスタープリンセスというかなり無茶な合作だったりそうでなかったり(そこらへんの判断は皆さんに任せます)

しかもじいやさん何かキャラクター変わってるし。透夜とユミールラブラブだし(これは関係ない)

こーいう作品なんだからメルヴィとくっつけろ!というツッコミだけはやめてくださいお願いします。

では中篇で。

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