赤のレジェンド3
3
――オーブ宇宙軍、第三次防衛ライン最前線
「こちらムラサメ、ザフト軍の機影は確認できず。哨戒を継続・・・ん?」
「こちらクサナギ、ムラサメどうした? 何か発見したか?」
『ザザ・・・ザザザザ・・・』
ノイズ音だけが響く。異変を感じオペレータが艦長に報告しようとしたと同時。
「えっ?」
艦橋が光に飲み込まれ、そして戦艦毎消えた。
――アークエンジェルブリッジ
「哨戒機ロスト! ネオディスティニーです!」
オーブ軍旗艦、アークエンジェルブリッジのオペレータが叫ぶ。
「距離は?」
「2000。ディスティニー単機です。ああ、また一隻落とされました!」
「周辺の戦艦全て迎撃しつつアークエンジェルの後方まで後退させて」
「ですが艦長、ディスティニーの後続でモビルスーツ部隊が来るはずです。今彼らを下がらせては危険では?」
副官が当然の意見を言う。
「戦艦をその場で貼り付けさせたらディスティニー一機に全滅させられるわ」
「・・・了解しました」
副官は苦虫を噛み潰したような表情で頷く。
戦争は数でもモビルスーツの性能でも無い。一個人の才能、ただそれだけで勝敗が決まる。
信じられない話だがCE時代はそれが事実であり、またそれを証明したのがオーブである。
まったくばかばかしいがそれこそが現実だった。
当時名将といわれたマリュー・フラガ(旧姓ラミアス)も結局当時最高のコーディネーターであった
キラ・ヤマトを要していた、ただその一点だけで名将たりえたと言える。
当時の貴重な資料として元クルーであったカズイ・バスカーク著書『地獄の黙示録』において
ブリッジの様子がこう処されている。
オペレータ「ミサイル10きます!」
マリュー「回避!」
カズイ(どこに!?)
(それにしても早すぎるわ、狙いは何? それとももう説得はあきらめたとでも)
オーブ宇宙軍司令官マリュー・フラガは額に流れた汗をかるく拭った。
ザフトの要求はプラント主席秘書殺害犯の引渡しであり、オーブ軍の殲滅では無い。
だからこそ防衛ラインを一つずつ切り崩す度に降伏勧告を発して数日の猶予を与えていたのであろう。
今回は第二防衛ラインを突破された後まだ一週間しかたっていない。
「状況は?」
「艦隊の7割は後退に成功しています。ディスティニーは以前直進中、距離1500。ザフトのモビルスーツ部隊
も距離3000まで接近中。戦闘はレジェンドmk2、アスラン・ザラ専用機です」
(全艦が後退するまで後10分といった所ね)
マリューが後退時間を予測している時、パイロットスーツ姿のムウラ・フラガがサブモニタに写された。
「こちらアカツキ、ネオディスティニーを足止めする。発進いいか?」
「許可します。・・・何分足止め出来るかしら?」
「そうだな、2分、無理して3分、命懸けで5分って所か?」
「・・・10分もたせて」
「ッ!」
さすがのフラガも絶句した。それは死ねと言っているようなものであったから。
「・・・了解した。やってみせるさ、なんたって俺は」
「不可能を可能にする男、だものね」
「そういうこと。ムウラ・フラガ、アカツキ出るぞ!!」
アカツキがアークエンジェルより発進して1分。
「レジェンドmk2がアカツキに向かっています、凄いスピードです!!」
「なんですって!?」
「このままだと1分後にアカツキ、ネオディスティニーとレジェンドmk2に挟まれます」
「なんてこと・・・アスラン君、本気で・・・・・・」
(オーブ宇宙軍を殲滅しようとしている?)
喉まででかかった言葉を飲み込む。今までザフトと何とか渡り合えたのはナチュラル最強のパイロット
であるムウ・ラ・フラガとアカツキがあったからこそである。だがさしものアカツキもザフト軍最強のシン、
アスランが搭乗するネオディスティニー、レジェンドmk2相手では5分とかからず撃沈されるであろう。
アカツキを後退させれば自らが後退命令を出した戦艦数隻を見捨てる事となり、アカツキをそのまま
にすればムウ・ラ・フラガは間違いなく死ぬ。そして次の戦いはもはや一方的な殲滅戦となり、オーブ
は敗れるであろう。
「艦長どうする?」
アカツキからの通信。
「・・・ムウ」
搾り出すように呟くマリュー。それを見てフラガは溜息まじりに言葉を続けた・・・陽気に。
「どうした? レジェンドmk2とネオディスティニー両方抑えろって命令しないのか?」
「・・・ごめんなさい」
「おいおい! 縁起でもないな、両方倒せってんなら流石に逃げるがやってみせるさ」
「レジェンドmk2、アカツキに接触します!!」
オペレータの報告。
「よし、さしあたってアスランだな、一撃食らわせた後、ネオディスティニーに向かう」
映像回線を一時閉じ、接近する敵に備えるフラガ。
ビームサーベルを両手に持ちアカツキに接近するレジェンドmk2をモニタにて目視。
「だよなぁ!!」
M531R誘導機動ビーム砲塔システム(ドラグーンシステム)を展開させる。狙いは勿論
レジェンドmk2。
両機を抑える、無茶に聞こえたであろうがフラガ本人は無理とは思っていなかった。
対ビーム防御・反射システム"ヤタノカガミ"を施された金色の特殊装甲であるアカツキ
を打倒するにはコロイド粒子によって形状化したビーム兵器、つまりレジェンドmk2に
おいてはビームサーベルしかない。機体特性からしてアカツキはまさにレジェンドmk2
における天敵であった。
360度に展開した7つの3連ビーム砲から計21のビームがレジェンドmk2に向けて
発射される。
「うおおおおおおッ!」
咆哮をあげビームをかわしながらアカツキに突き進むアスラン。
ビームシールドを展開さえしない。そう、スピードさえ落とさずにアカツキの目前までレジェンドmk2
はたどり着いた。
アカツキの眼前で不気味に目を光らせるレジェンドmk2。もはやフラガになすすべは無かった。
レジェンドmk2がアカツキにビームサーベルを振り下ろす・・・直前!
「ちぃッ!」
舌打ちしつつアカツキを蹴り飛ばし、その反動で後方に飛ぶアスラン駆るレジェンドmk2。その直後、
2機の間にビームが通過する。
レジェンドmk2に向け更に右から、そして左から来た続けざまに迫るビームを交わすアスラン。
「あれをかわすかい? とんでもないね」
「マーズの作戦が悪い」
「不意打ちに作戦もクソもあるかよ!」
3機の乱入モビルスーツ。
「お前ら・・・」
絶句するフラガ。
そして吐き捨てるようにアスランは呟いた。
「出てきたか、ラクス親衛隊」
3機の乱入モビルスーツはZGMF-XX09Tドムトルーパーであった。