黒のディスティニー


 

 

 黄金の機体アカツキを先頭とするムラサメ小隊が激戦の末ぽっかりと空いてしまった宙域に向かっていた。

数え切れない程の残骸が宙に浮かび、漆黒の宇宙を汚していた。

「隊長、これは・・・」

「解ってるから言わなくていいぞ」

 数多の残骸、その共通点に気付き、ムラサメパイロットは隊長と言われた男、ムウ・ラ・フラガに無意味な通信を

送ったがその発言を言い終える前にムウは言葉を断ち切らせた。残骸の共通点、この宙域のMSの残骸は全て

オーブ軍の物であったからだ。

 予定の宙域に近づいたムウは艦隊司令官マリュー・フラガに通信を送った。

「さて艦長、艦隊の状況はどうなっている?」

「第7艦隊が遅れてるわ。あと10分時間を稼いでちょうだい」

「10分か・・・それくらいなら・・・」

 言葉を言い終わる前に、ピカリ・・・とムウの搭乗機アカツキの隣にいたムラサメが光った後、眼窩に広がる残骸の

一つとなった。

「ムラサメ隊散開! 次射くるぞ!」

「了解!」

 アカツキを基点とし後続のムラサメ隊が宙域に広がる。

「遭遇した。予想以上に早い、悪いが8分で何とかしてくれ」

「難しいけどやってみるわ。貴方も・・・死なないでね」

「『無理しないで』じゃないのかよっと」

 ビームライフルと盾を構え長距離射撃が来た方角を注視する。

「ゴメンナサイ。無理して貰わないと・・・全滅するわ」

 その間にまた一つムラサメの識別信号が消失する。

「ちいっ、お前達はそいつに構うな! そいつは俺がやる、それ以外のMSをこの宙域から先に行かせないようにするんだ」

 回線をムラサメ小隊に切り替えムウは叫んだ。

「高速で近づきながら長距離射程ビームで打ち落としにかかるってか。舐めるなッ」

 まだ距離はあるがムウはアカツキのドラグーンを機動させて敵機体に向かう。ビームは飛んでこない。敵は当然アカツキに

ビーム兵器が効かない事を知っていた。

「いくぞっ!」

 ムウはけん制を込めてビームを放つが敵MSに難なくかわされ、アカツキに距離をつめる。

ロックオン完了。 ドラグーンユニットは敵MSを囲うように展開・・・敵MSの姿をムウが目視したと同時にオールレンジ攻撃を

仕掛けた。

 

 直撃!!・・・したかに見えた敵MSの姿が陽炎のように消える。

 

 「そりゃそうかっ!」

 コンピュータ処理より先、ほとんど感でムウはアカツキの足元近くにビームライフルを放った。

爆発が起こる。

「当たりか?」

「ハズレだあああッ!!」

 画面レーダーが後方を赤く染める。敵MSはドラグーンのビームを掻い潜った後、アカツキの足元で一度攻撃(ビームブーメラン)

を放った後、後ろに回りこんでいた。敵MSの巨大対艦刀がアカツキの右腕を切り落とした。

「ちぃっ」

 腕を落とされつつもその場から真下へ離脱・・・と同時にアカツキの機体の陰に隠れていたドラグーンからビームが発射される。

「なめるなっ!」

 敵MSはビームシールドを展開してそれを防いだ。

 

 

アカツキと対峙する漆黒の敵MS、

 

それはネオディスティニーガンダム。

 

 

そして・・・

 

 

「ボウズ・・・いやシン・アスカだったな。久しぶりだ」

「黙れよ! 俺はアンタも許しちゃいない!」

 

 

ネオディスティニーガンダムに乗るパイロットは、シン・アスカであった。

 

 

 

 

 2

 

「ああ、それは構わない。国防委員長にそのまま渡してもらえればいい」

「はい、それでは失礼しますザラ議長」

パチン・・・と正面ディスプレイに映っていた女性が敬礼した後映像が切れた。

「ふぅ・・・」

 議長と呼ばれた青年が椅子にもたれて大きく溜息をする。

「お疲れ様ですザラ議長。コーヒーを入れましたのでどうぞ」

 若い女性が議長と呼ばれた青年に湯気のあがったコーヒーを渡した。

「ああ、ありがとう。この後の予定は?」

「本日の業務は完了です。明後日には地上に降りなければなりませんから今日から明日にかけてはゆっくり

休んでください」

 聞かれた女性が笑顔で答えた。

「そうか。じゃあもう議長はいいだろう? やっぱりなれない」

 苦笑いしながらコーヒーを飲む。

「そうですか? それじゃお疲れ様でしたアスランさん」

「ああメイリンも。君は何か予定はいっているか?」

 唐突に話を切り出すアスラン。

「えっ、私ですか? 今日は特には・・・でも明日はお姉ちゃんとシンの家に食事に呼ばれてるんですよ。アスラン

さんは何かあるんですか?」

 メイリンも慣れたものでアスランが話しやすいように答える。

「いや、何も・・・」

 そう呟いてじっと自分のコーヒーを見つめるアスランを見てメイリンは『あいかわらずだなあ・・・』というなんともな

表情を浮かべた後、名案が閃いたのか表情を輝かせ話を続けた。

「あ、それじゃアスランさんも一緒に行きませんか? お姉ちゃんもシンも喜びます」

「ああ、それもいいんだが・・・この後食事にでも付き合ってくれないか?」

「えっ!?」

 メイリンは『しかし・・・』『いやそれは・・・』等という消極的な返事がくるであろう事を予測して次の言葉をシュミレート

していた為アスランからの意外な返事に思わず声をあげた。

「ああいや、無理にとは言わない。予定があるなら・・・」

「いえそんな! 行きます、絶対に行きます!!」

 両手をギュっと握って少し前のめりになりながらもキッパリと答えた。

「そ、そうか。そんなお腹空いてたんなら・・・」

「ち、違います! アスランさんが食事に誘ってくれるなんて珍しいからビックリしちゃって」

「そうだったか? ちょっと前にも行ったじゃないか」

「ちょっと前って・・・半年以上前ですよ?」

 非難めいた視線を送るメイリン。

「ああいや・・・そうか。すまない。それと、大事な話があるんだ」

「はい?」

「え、・・・ここでか?」

「後がいいですか?」

 アスランの様子を見て(言いにくい話だったのかな?)と思い気を使うメイリン。

アスランとしては食事をしながら・・・という思惑であった事はこの直後に知る事となる。

「あ、ああ・・・いや、ここでいい。聞いて欲しい」

「はい」

「・・・」

(30秒経過)

「・・・」

(1分経過)

「・・・」

(そして2分)

「・・・あの〜・・・」

 流石に疲れたメイリンが引きつった笑顔でアスランに声をかけた。

「ああ、いやすまない。大事な話っていうのは他でもない。俺をアスランと呼んでくれないか?」

「はあ? シンやお姉ちゃんみたいにですか?」

「・・・いやそうじゃなくて・・・・・・君の気持ちは正直解らないし、だが他に付き合っている相手もいないようだし」

「?」

 ワケが解らない。

「だから良かったら、これを受け取って欲しい」

 そう言って小さなケースをメイリンに渡した。

「えっ? あの・・・これまさか?」

小さな、しかしこのケースはどう見ても・・・

「迷惑だったら・・・」

「迷惑なんて! あの、もしかして?」

 

「俺と結婚して欲しい」

 

「えええ〜!!!!」

 

 

 

 

小さなケース、中には指輪が入っていた。

 

 

 

 

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