丸帆亭 萬釣報 #48 2000.7/18 更新                    
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公開セミナー[どうしたら江戸前の海が復元できるか]
 

※ 急な報道になりますが、7/20の海の記念日に、都心で開催されるイベントの紹介を致します。
十六万坪の関連の会は、参加、後援はしていない事もあり、お知らせが遅れました。
しかしながら、現在の東京湾の開発の問題を考えるに、このような、すべての垣根を越えた、
(開発推進、国、地方の行政サイド、ゼネコン関連、の方々まで参加する模様です。)
公開セミナーこそ、参加する価値が大きいのではと、本来の当サイトの趣旨に立ち返る意味で、
遅まきながらお知らせする次第です。参加には予約が必要との事ですが、現在空席もアリとの事。

反対反対!と連呼するだけではわからない真実を、まったく別の立場の方々からの意見を、
偏見にとらわれる事なく伺うことで、今一つ、深く掘り下げてみようではありませんか!。

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公開セミナー  一どうしたら江戸前の海が復元できるか一

日時: 平成12年7月20日(海の記念日)午前10時から午後5時まで
会場: 牛込箪笥区民センター(定員392人)
   [住所:東京都新宿区箪笥町15番地電話:03-3260-1911]
   ★JR総武線飯田橋駅西口下車徒歩15分
   ★地下鉄有楽町線・南北線飯田橋駅下車B3出口徒歩15分
   ★地下鉄東西線神楽坂駅下車徒歩10分
   ★都バス飯田橋から新宿車庫行牛込北町下車
   ★新宿駅西口から飯田橋・秋葉原東口行牛込北町下車
  
  一プログラムー

10:00 開会挨拶  セミナー実行委員会委員長                      淡路宣男
10:10 来賓挨拶  水産庁資源生産推進部漁場資源課生態系保全室 室長          重 義行
10:20 「ダイバーからみた江戸前の海とワカメ場復活の試み・手巻き寿司は海をきれいにする」
                            水辺を記録する会         三冨龍一
10:50 「神奈川県における環境復元の試みとその評価」 神奈川県水産総合研究所主任研究員 工藤孝治
11:20 「東京都内湾沿岸域の環境の現状と今後の課題」 東京都環境科学研究所主任研究員  木村費史
11:50              休憩
13:O0 「江戸前漁業の今と昔」 東京都水産試験場主任研究員               加藤憲司
13:30 「三番瀬ー今残っている「江戸前の海」ー」 千葉県水質保全研究所主席研究員    小倉久子
14:00 「東京湾の環境修復はどこまで本当に可能なのだろうか?」
               東京大学大学院総合文化研究科広域システム科学科助手   清野聡子
14:30 「江戸前の海とは」  東京大学名誉教授                      清水誠
15:00              休憩
15:15 公開討論会「どうしたら江戸前の海が復元できるか」コーディネーター清水誠 東京大学名誉教授
        
        パネリスト  清野聡子 東京大学大学院総合文化研究科広域システム科学科助手
               工藤孝治 神奈川県水産総合研究所主任研究員
               木村費史 東京都環境科学研究所主任研究員
               加藤憲司 東京都水産試験場主任研究員
               小倉久子 千葉県水質保全研究所主席研究員
               三冨龍一 水辺を記録する会

16:30 閉会挨拶       セミナー実行委員会副委員長      秋山恵一郎

主催:公開セミナー実行委員会
(あらかわ学会・内川をよみがえらせる会・海をつくる会・江戸川環境ネットワーク・環境技術交流会・神田川
ネットワーク・自然環境復元研究会・隅田川市民交流実行委員会・東京湾海洋研究会・日本ビオトープ協会・
掘割川の会・水辺を記録する会・よこすか水辺環境研究会・よこはまかわを考える会・よこはま水辺環境研究
会)

後援〔予定)東京都環境局・東京湾岸自治体環境保全会議・水産庁・運輸省第二港湾建設局京浜港湾工事事務
所・建設省関東地方建設局京浜工事事務所・荒川下流工事事務所・環境事業団・(財)広域関東圏産業活性化セ
ンター・(財)港湾空間高度化センター・(財)リパーフロント整備センター・(財)海洋生物環境研究所'(財)漁港漁
村建設技術研究所・(社〉海と渚環境美化推進機構マリンブルー21・(社)日本海洋開発産業協会・(社)日本青年
会議所関東地区協議会・(社)日本能率協会・(社)市川青年会議所・東京ガス(株)神奈川支店。

会費: 資料コピー代として  1500円
申し込みおよび問合せ先: よこはま水辺環境研究会内"公開セミナー実行委員会"事務局 小林・木村
〒230-0051  横浜市鶴見区鶴見中央3-10-44  電話:045-503-0696 FAX:045-502-5057

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※ 講演、パネリストのメンバーには、当サイトでもおなじみで、有明十六万坪の保全に強力な学術的
  ご支援を頂いております 工藤、加藤、両先生が名前を連ねていらっしゃいます。
※ 本日、同じ講演とパネリストとしてご参加の、東大の清野聡子先生が、あえて当サイトの為に、
  当日講演予定のレジュメ(講演趣旨)を提供して下さいましたので、下記に掲載させて頂きます。
 先生の文章からも読み取れるように、単なるなれあいや予定調和に帰すること無い議論の場を、
  主催者のご苦労が実る意味においても、是非是非、期待したいものです。


 
[ 東京湾の環境修復は本当にどこまで可能なのだろうか?]

  
清野聡子  
        
( 東京大学大学院 総合文化研究科 広域システム科学科 )

1.東京湾の意味
 このシンポに集った人達のほとんどは、東京湾の未来に祈るような期待をもってい
るはずである。それが同床異夢であろうとも。東京湾に価値を認めているのは、それ
が身近な海、故郷の海であるからである。全国津々浦々で同様に「自分の海」である
という思いがある。海への思いの量は沿岸の人口に比例すると考えれば、東京湾には
その湾岸人口分の思いが投影されているということである。
 一方で、衰退を続ける日本の沿岸環境をいかにすべきかの議論のなかで、施策上、
もはや全ての地域の沿岸を救済する余裕がないので、優先順位をつけていったらどう
か、というアイデアが出ることがある。東京湾は捨て置いて、もっと生物の多様性、
希少性、日本固有性のある環境が残っている海域の保全を優先させるべきであるとい
う。確かに同じ環境保全策を講じたとして、成果が上がったほうがいいのである。環
境修復のコストパフォーマンスは、「伸び率」か「達成度」なのかという議論がある
が、達成度を考えた場合には明らかに東京湾は不利である。

2. 例えばアオギス
 東京湾の脚立釣りの風物詩として有名なアオギスを復活させようという話を聞く。
大分県中津干潟・山国川河口および同県守江湾干潟・八坂川河口でアオギスも含む生
態系調査を行っているが、その知見からすると、この試みは難題にチャレンジしよう
としているように思える。以下を充分検討した上で行い、さまざまな議論が紛糾して
いる「放流」について、整理されたビジョンでのぞんでいただきたいと期待してい
る。
・ 生存できる環境を整えてからの放流
 中津干潟や守江湾での知見によれば、河川水の影響を受ける河口付近の河道や砂質
干潟に限定的に生息しており、砂に潜る行動が観察されている。実際の生息地点での
底質分析結果によれば、分級度のよい細砂から粗砂が見出されている。すなわち、ア
オギス成魚の生息の条件として、河口干潟に砂が存在している状況があると考えられ
る。
 ところが、日本の河口はあらゆる人為改変の対象となっている。すなわち、治水や
航路維持のための河口砂州の浚渫、埋立、干拓などが行われており、中規模以上の河
川を除いては「自然」な河口は日本には存在しないといってよいほどである。
 さらに、これらの人為改変を凌駕するほどの土砂が河川から供給されることも少な
くなってきた。それは、砂防・治山工事や各種ダムにより土砂供給が低下しているだ
けでなく、利水によって往時の河川の流量が維持できていないため、地形的にも河口
テラスを形成するだけの土砂が河川から出にくい状況にある。当然、土砂だけでなく
水質の問題もある。
 東京湾において、そういった条件を満たす海域を選んで、厳しい条件を要求するア
オギスが生活史を全うできるような環境づくりの契機となるような放流計画を期待し
たい。
・ 人工種苗の野生復帰
 希少生物の種か個体群か。東京湾の場合には、個体群であろうが、地域的絶滅が報
告されている個体群を復活させる場合には、野生生物保護で行われているような再導
入としての検討が必要となる。例えば、オオカミなどが好例である。その種が絶滅し
た状態の東京湾の生態系に対しての導入の問題である。
 水生生物の種苗放流に関しては、現在、賛否両論である。既にマダイ、ヒラメ、な
どの水産種については当然のごとく行われている事業であるから、それが釣り対象種
や気象種であっても問題はないとの見解もあろう。
 しかしながら、現在、人工繁殖した生物の自然環境への導入には慎重論も多く、東
京湾の自然がいかにあるべきかが今後の問題となろう。特に、希少生物、例えば、カ
ブトガニやウミガメ類の放流については、「海の大切さをアピールする」などの精神
面を重視した試みも多い。そういった点も大切にし、かつ他種での問題点も事前に議
論して整理した計画がアオギスについて行われれば、画期的であろう。

3. お台場
 東京湾湾奥部の「砂浜」の造成にネックになっているものは何か?

4. 環境修復の精神的意味
 東京湾の環境修復には、実際上は、コスト面と社会制度面で困難が想定される。期
待するほど、自然環境上での成果が挙がらない可能性もある。例えば、しかし、上述
のように、東京湾岸の巨大な人口が、海に背を向けていくことは東京湾をさまざまな
意味で荒廃させてしまうであろう。よって、実現性がある程度確実で、技術面からも
無理のない計画を実行していくことが大切であると考える。例えば、既に喪失した、
あるいは喪失しかけている水面を存置し活用することになったならば、東京湾を大切
に思う人達への激励になり、単なる自然面の効果だけでない意味を持つ。そういった
過程を経て、有難味が増した場に対しては、関係した人は終生思いを投影していくで
あろう。
 
 環境修復の自然面だけでない意味を鮮明にするためには、、非難応酬ではない徹底
した議論が必要である。例えば、ある環境修復プロジェクトが東京湾を大切に思う市
民サイドから提案されたとする。それを、メディアや行政というインターフェースを
経て、東京湾にほとんど関心の無い人たちを喚起するようなうねりが起こるのかどう
かは、議論の質に依存するであろう。ひとつひとつの課題についての議論のプロセス
自体が、ひとつの実りとなる可能性がある。「環境の修復、復元、創造」に関する、
今世紀に流行したキャッチコピー、甘い漠然とした言葉に食傷して、このような試み
に懐疑心すら起きてしまう状況から脱するには、少しは意味のある水辺をめぐる言語
の世界も創っていきたいものである。
 そういった段階になれば、水の都メガロポリスTOKYOの海の環境修復も「共同
幻想」ではなく実体のある夢となっていくのではなかろうか。


                       ( イカとタコは先生のご専門です。)
 

2000.7/18 校了