自然観察で我孫子を歩く

〜その2:人と自然との付き合い方の過去・現在を見る


 我孫子には,都市化した今でも,さまざまな形で自然が残り,人と自然との接点があります。さて,現在の我孫子では,「人と野鳥,自然との共存」を掲げ,新たな人と自然の接点を求める施設なども作られています。早春の手賀沼沿いを歩き,人と自然との関係の,過去と現在を眺めてみました。

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 (その1)では,大正時代の文人と自然との関わりを見てきましたが,今度は,その続きです。志賀直哉邸跡に近い,手賀沼公園からスタートです。

 手賀沼公園の脇に,市の総合学習施設「アビスタ」(2002年4月オープン)がありますが,その傍らに,バーナード・リーチの石碑が立っています。ここから手賀沼沿いに東へ進みましょう。


 「アビスタ」の隣り,手賀沼公園の隅っこにある,バーナード・リーチの碑。
 ここから東へお散歩するのに楽しいルートは2つあります。
 1つは手賀沼沿いの遊歩道。もうひとつは,斜面林のすぐ下を通る,旧・湖岸道路。
 風の強い日や夏の暑い盛りなどには,旧・湖岸道路のほうが快適です。


 遊歩道は歩行者と自転車専用の道。春には桜並木が綺麗です。


 遊歩道は,こんな水辺の風景を眺めながら,ずっと東のほうまで続いています。
 手賀沼公園から10分ほど東へ進むと,「文学の広場」と言う,我孫子ゆかりの文人たちの解説パネルのある休憩所があります。そこからさらに10分ほどで,手賀大橋,手賀沼親水広場へ到着します。

 今回は,斜面林下の日だまりを求めて,旧・湖岸道路を歩いてみます。


 こんな風に,斜面林の下ギリギリを進みます。
 こちらは今でも現役の生活道路。時々車も通りますので,お気をつけください。


 道端の日だまりには,コハコベの花が咲いていました(これは1月の撮影です)。


 斜面林の上のほうには巨木もたくさんあります。
 大きな木のある場所は,鎮守の森のように,古くから開けて,その後あまり人が土地をいじっていないような場所が多いのですが,我孫子では屋敷林でも,このぐらい大きい木を見かけることがあります。巨木を維持している家というのは,それだけで,歴史を感じさせます。植物の好きな人なら,斜面林沿いに巨木めぐりなども楽しめそうです。


 大きな木がたくさんあるなー,と思ったら,子の神大黒天の森でした。
 このあたりの斜面林の上には,子の神古墳群と言って,6世紀頃の古墳が10数基見つかっています。
 手前の盛り上がっているところが前方後円墳の一部,後ろの建物が大黒天のお堂。
 斜面林と段丘の環境が,こんなに昔から利用されていたんですね。
 段丘の上の見晴らしの良い高台は,昔は支配階級のものであったり,信仰の場所であったり,近代においては,お屋敷町であったり。地形と森と水の便,と言う視点で眺めれば,何か共通点が見出せそうです。


 …ここを過ぎると,まもなく手賀大橋のたもとです。


 手賀大橋のたもと,県道を越えると,手賀沼親水広場と我孫子市鳥の博物館のあるエリアです。
 展望台のある大きな建物が「水の館」。手賀沼についての展示や,小さなプラネタリウムもあります(入館料は無料)。
 水の館のすぐ左,少し木に隠れている建物が,我孫子市鳥の博物館。


 手賀大橋から手賀沼の東側を眺めます。
 左側が親水広場です。
 手賀沼は東西に広いので,この画像では沼の半分も見えていません。

 手賀沼は環境省の湖沼水質調査で,調査開始以来,不名誉の日本一を続けていますが,その指標はCODと言う,おもに有機物の量を測る指標です。有機物が多くても,悪臭がしたり,毒物が入っているわけではありませんので,御安心を。近年,利根川から手賀沼への導水路が完成し,沼の水の入れ替え速度を上げ,CODの高い水を追い出す作戦に出ています。さらに,流域の下水の整備や,ビオトープの試作など,さまざまな角度から,手賀沼浄化の努力が進められています。近い将来,日本一を返上する日も来ることでしょう。


 親水広場の「手賀沼展望台」から,手賀大橋を望みます。
 手賀沼にちょっとだけ突き出たこの場所は,休日になれば,バードウォッチャーが望遠鏡を据えて鳥を探すのに利用していたりします。近所の人たちが入れ替わり立ち替わり,水鳥に餌を撒きに来ます。……それって,けっこうCOD上昇の原因になるんだけど……。

 それじゃ,ここいらで,手賀沼の鳥でも眺めてみましょうか。


 おなじみのマガモ。アヒルじゃありません。ちゃんと,春になったら北のほうへ渡ってゆく,野生の渡り鳥です。


 オナガガモ。餌を撒くといちばん先に人に慣れてしまうカモです。このカモが増えると,コガモが追い出されてしまったりするんで,人があんまりカモの生態を変えてしまわないようにしたいので,私はあんまり餌付けを好みません。


 オオバン。我孫子市の鳥にもなっています。
 親水広場エリアでは,なーんと!この鳥も餌付けされてしまい,人が餌を撒くと寄ってきます。
 市民に愛されているのはいいことなのかも知れませんが,餌を撒いている人に聞いたら,この鳥が我孫子市の鳥だと言うことを知らない人が,結構いました。……泳いでいる姿は,カモに見えても仕方が無いかな?


 オオバンがカモでない証拠がこれ。大きな脚,指の周りに申し訳程度についている「ひれ」。どう見てもカモじゃないでしょ(オオバンはクイナの仲間です)。


 さて,親水広場の向かいがわにあるのが,我孫子市鳥の博物館。
 日本で唯一の,鳥専門の博物館です。
 博物館の裏手には山階鳥類研究所もあり,この一帯が「野鳥のメッカ」として整備されています。
 財団法人山階鳥類研究所は,1932年の創設。1983年に,それまで渋谷区にあった研究所を,我孫子に移転してました。博物館のほうは市の施設で,1990年のオープン。我孫子が「鳥の町」として知られるようになったのは,そんなに古いことではありません。ともあれ,我孫子と言う町は,人と鳥や自然との共存を掲げ,首都圏の近郊都市の中では,ひときわ個性を放つようになったわけです。2001年には「第1回ジャパンバードフェスティバル」も開催され,このエリアがメイン会場になったのは,言うまでもありません。


 もちろん,水鳥だけでなく,手賀沼沿いにはいろいろな野鳥が観察されます。
 これはアオジ。水辺の葦原や藪で見かけることの多い冬鳥です。

 手賀沼周辺では,冬場にゆっくりと観察すれば,40種類ぐらいの野鳥に出会えます。


 水辺の日だまりでは,気の早いヒメオドリコソウが花をつけていました。

 過去には斜面林の上を中心に利用されてきた手賀沼沿いの自然環境。斜面の下は湿地であり,洪水の危険のある場所であり,かつての支配者達は,もっぱら斜面の上を利用していたことが想像されます。しかし現在の手賀沼は,水辺に憩いと癒しを求め,人々は水辺の自然環境を大切に生かそうとしています。しかもそれは,手賀沼の水がすっかり汚れてしまってからのこと……。私たちは,残り少ない斜面林の緑と,すっかり濁ってしまった手賀沼の水を,どうやって利用し,後世に伝えてゆくのでしょうか?


(2002年2月1日記)

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