「星の巣箱」 ……コンパクトなフリーマウントを考える



 ま,とりあえず,外観から……


 正面から見ると……




 背面は……



 箱の外形は,12cm×12cm×20cmほど。重量は約800gです。
 ……とある休日,これを作っている様子を見ていた家族が

  「鳥の巣箱でも作ってるの?」

 とか,

  「ハムスターのケージの中に入れたら,喜びそう!」

 とか……。

……だから……これは望遠鏡になるんだってば……

この箱の中に鳥もハムスターも入りませんが,星を見るための夢とアイデアはいっぱい詰まっています。
……そう,言うなれば,「星の巣箱」とでも言いましょうか……。

箱の中身は何じゃろな〜

 屈折望遠鏡を気軽に振り回すための架台として,バランスタイプのフリーマウントが便利であることを,この架台を作って,認識しました。こうすれば,長い筒の屈折望遠鏡も,ドブソニアン架台のように,自由に動かせます。
 しかし,この架台の製作段階から,ひとつ,問題を抱えていました。
 それは,収納性の問題。
 屈折用フリーマウントは,フォークアームを堅牢にしないといけませんし,水平,垂直の回転軸も,適度なすべりと摩擦を得るために,やや大ぶりな構造になります。前作でも,フォーク部の軽量化を試みたものの,結果的にはデコボコが多くて収納しにくいと言う弱点も発生しました。鏡筒の取り付け部を,さまざまな径の筒に対応できるようにしたために,輸送時には鏡筒バンドを別梱包にする必要が出てきました。
 せっかくの「お気楽観望」のための道具なのに,運び出すのが大変なんです。

 そこで,今回,5cmF14鏡筒を作ったのを機に,コンパクトで組み立て,分解,収納の利便性を持ったフリーマウントを作って,なんとか望遠鏡の稼働率を上げられないだろうか,と考えました。このサイズの望遠鏡なら,小学校低学年の子供でも楽に振り回せますから,小学校低学年でも簡単に組み立て,分解,輸送が出来るようなものを作り,大人の手を借りない,本当の意味での「自分の望遠鏡」にできたら,子ども達も面白がって使って,星に親しむことが出来るのではないかと……。

 デザインは,「かっこ良さ」よりも「使いやすさ」最優先です。
 シンプルで丈夫で,使って楽しい道具……これが今回の目標です。


 では,組み立ててみましょう。



 「巣箱」の丸穴の部分が鏡筒バンドと耳軸になっています。
 フォークアーム部に,ぴったりはまるようにしました。鏡筒バンド部を抜き取った状態が,上の写真。
 フォークアームの付け根は,前作同様,箱になっています。




 フォークアーム部をカメラ三脚に取り付けます。上から2枚目の写真で見えている,青い部分が,三脚取り付け台座です。
 この写真では,台座と一体化した,水平回転軸受けが,フォークアームの下に見えています。




 箱の部分を開けます。この蓋の部分がバランス用のおもりを入れるポケットにもなります。箱の中にはアイピース2本と天頂プリズムが収まります。観測中も,交換用アイピースや小物を入れる場所として,この箱は大活躍します。




 鏡筒バンドに鏡筒をセットし,フォークアームに乗せれば完成。組み立ては1,2分でOKです。組み立てる時に工具は一切使わず,組み上がった状態のとき,遊んでいるパーツもありません。つまり,変形だけで組み上がるのです。これなら,こまかいパーツを無くしたり,工具を忘れて慌てるような心配はいりません。




 鏡筒の取り付け部です。
 「コ」の字型の構造で,左右に上下回転用の耳軸,中央に塩ビ製鏡筒バンドがついています。耳軸は「VU50掃除口」を利用し,外径は60mm。鏡筒バンドはVU50管にスリットを入れただけです。望遠鏡の筒と同じサイズのパイプ(外径60mm)で,スリット部を広げて鏡筒を押し込むと,適度な反発力で鏡筒を掴んでくれます。クランプ機構を持たない,このシンプルさが,バランスの取りやすさに貢献しています。作例のようなバランスタイプのフリーマウントでは,バランスをしっかり取らないと気持ち良く動作しません。アイピースを重量の違うものに交換するだけでもバランス位置は変わります。また,望遠鏡が上を向いたときと地平線近くを向いたときとで,多少,重心がずれるですが,小型のフリーマウントでは,それらに敏感に反応し,バランスが崩れます。ですから,あえて鏡筒をフリクションのみで固定し,必要に応じてズルズルと簡単にずらして,バランスを取り直すのです。




 耳軸と耳軸受け部です。
 耳軸受けの切り欠きは,あえて浅くしています。深さにして数mm,耳軸の全周に対する角度にして90°ほど。軸を「はめ込む」と言うより,「乗せる」と言う感覚です。これでも十分に機能しています。耳軸受けの加工も楽ですし,摩擦も小さく,意外なほど快適な操作感を得ています。




 耳軸受けのアップ。
 垂直方向は,約90°離れた位置に「カグスベール」を貼っています。「カグスベール」は裏に薄いコルクシートがついていますが,それは剥がしてあります。耳軸の内側に見えるカグスベールのチップは,耳軸の左右のブレを押さえるためのもので,こちらはコルクシートを剥がさずに使っています。

 上下動は非常に軽く,小指1本でスルスル動いてしまいます。私の好みとしては,ちょっと軽すぎます。将来,フォークアームの内側にフリクション調整用のチップを貼るかも知れません。その辺は,使いながら手を入れてゆけば良いことです。




 さて,水平回転軸です。普段,この部分は付けっぱなしです。不要になったCDとカグスベールの摺り合わせで,快適な回転を得ています。回転軸はM8ボルトで,箱の内側からダブルナットで止めています。ナットの締め付け量でフリクションの調整をします。この回転軸は小型望遠鏡用としては,かなり大きめに作っていますので,多少バランスが崩れても,快適に動作してくれます。バランスの崩れが気になったら,箱の中に,適当にアイピースとか小物とか,おもりになりそうなものを放り込むだけですから,気楽なもんです。




 観測中,箱の中にはアイピースが転がっています。
 左に見えるのはLV12mm,右のは自作ワイドアイピース。
 交換用アイピースはバランス取りにも役立っています。
 収納時は,このまんま,この箱がアイピースケースになります。
 (輸送時にアイピースが暴れないよう,ゴムバンドをつける予定です。)
 最大4本のアイピースが入ります。


今後の展開は?

 フリーマウントの製作も2台目。1台目よりも,あちこち改良することが出来たと思います。
 最大のネックであった,収納性についても,一応,満足のできるデザインになりました。

 使ってみると,上下回転の軽さが気になりますが,なかなか快適です。そうなると,もうちょっと別の鏡筒も乗らないかしら?……などと,欲が出てきます。鏡筒バンド部の最大幅が80mmまでしか取れませんから,このデザインに収まる鏡筒バンドを作るなら,VU65管を入れるのが精一杯です。まぁ,あまり大きな望遠鏡を乗せたら,架台が重量に耐えられなくなってしまいますから,筒の太さを欲張っても,あまり意味がありません。6cmF15ぐらいなら,乗っかると思いますので,いずれ,鏡筒バンドを工作したいと思います。

 …余談ですが,ミニボーグシリーズの鏡筒外径が60mmなので,ぴったり収まります。

 それよりも,まずは,「子供が使いやすい望遠鏡」とは?……と言う問いに答えるべく,子供とこの架台を使いながら,いろいろと検討,改良してゆこうと思っています。

 それにしても,前作よりもデザインが悪くなったような……。
 塗装したら,少しは気分も変わるかな……。


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