2000年12月7日(木曜日)


 オリジナルの定義とはいったいなんでしょうか?
 紀元前600年以降、完全なオリジナルは存在しないという学者もいらっしゃるそうですが、それは人が作品を作るようになったときから、必ず何かを参考にしているから、ということなのでしょうか。例えば人は、鳥の歌声を真似て、歌を歌うことを知ったと言われています(ホントかどーかは知りませんが)
 私は音楽の事ぐらいしか知りませんので音楽の事ぐらいでしか例えが挙げられないのですが、現物を模写することから始まった絵画美術に対して、始まりから抽象的な表現に依っていた音楽では、胸の鼓動や川のせせらぎがリズムの参考になり、あるいは異国の民族が奏でるリズムが西洋人の手によって楽譜に記述され、多くの民謡が12音階で表現されてきました(12音階を発明したバッハは本当に偉大な人だと思う)。今や多くの小説やマンガが使い古されたセリフやストーリー展開を描くのと同様に、多くの音楽が、その表現方法をほんの少しずつ変化させながら、繰り返し同じような形式の展開の楽曲を量産しています。

 ある人は言います。これからあなたが表現しようとしているものが、既に誰かの手によって作られたものの多くを含むならば、既に用意されたそれらの資産を利用して、あなたが独自に表現したいほんの少しの要素を混ぜ合わせるだけで、あなたの作りたかった作品を、手軽に、且つ、生産的に作りあげることが出来る、と。そして、その発想は各方面で商品化されました。例えばそれは、プログラマーのためのライブラリコードであり、ホームページを作る人のための版権フリー素材集であり、音楽家たちのためのリズムパターン集や自動作曲ツールであります。
 この手の商売がエスカレートすれば、そのうち彫刻家たちのための人体彫刻ひな型石や脚本家たちのためのセオリー集、CG作家たちのための淫裸パーツ集、漫画家たちのためのストーリー展開別コマ割り・トーン・集中線加工済みひな型ケント紙セットなどといった商品が作られ、売られていくのではないかと思っていますが、ここでの話題ではそのようなことはどうでも良いことです。
 重要な事は、人は何のために作品を作っているのか、ということです。もちろん、もっとも手をかけたいことのために、そうでもない冗長な作業を短縮できるという意味では、この発想は素晴らしいものだと感じます。しかし時として人は、そのような冗長な作業に喜びを感じたりします。子供が戦争ごっこのためにダンボール箱を解体して、はさみで切ってガムテープで繋ぎ合わせて城を造るという作業を純粋に楽しむように、ありがちなリズムパターンをリズムエディターに書き込んで、コピー&ペーストで繰り返しを作るという冗長な作業に、平穏な喜びを感じ得るのではないかなぁとも思うのです。

 過ぎたる発想の解釈は、間違った常識を定着させ、それに反発する世の愉快な反乱分子たちが、元の発想の素晴らしさを余計に曇らせる事もしばしあります。版権フリーな素材の商品化が進む一方で、著作権に対する先進各国の考え方はより陰鬱さを増す一方です。パロディー悪。人が考え、編み出した、名前つきのメロディーや模様やキャラクターは、創作者の固有財産となり、もはや誰もが自由に解釈し、あるいは妄想し、自分のオリジナルに取り入れることさえ許されない時代になってしまいました(相変わらず、コミケ周りの人たちは元気なようではありますが。。。)
 前置きが長くなってしまいましたが、今回のお話はあくまで私のオリジナルだと、私自身は解釈しています。しかしそれが繰り広げる世界は、皆さんがよく知っている世界と非常に似通っているかもしれません。まずはそのことをお断りするべく、ここに、私の発想と想像に力を貸してくださった、その似通った世界の原始著作権者の方々に、平にお礼を申し上げたいと思う次第なのであります。


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 はぐれメタル

ジャンル:フィクション
危険度:小(ほんとですってば)

 活気に溢れた街だった。私たちはその集落の灯を見つけると、だんだんと石が敷き詰められて道らしい道になってゆく通りへと逃げ込むように入っていった。
 魔族の力の影響で異常繁殖した怪物どもは、この辺はまだそれほど脅威でもなかったが、しかしここに来るまでに遭遇した数はあまりに多すぎた。怪物を倒したところで金にはならない。私たちは、そんな怪物どもの羽や角を抜き、甲羅を剥ぎ、目玉をえぐり取り、珍しいものは弱った状態で生け捕りにし、それらを街の骨董屋などに売りつけることで何とかやりくりしている。今回のような遠出をするにはそれなりの資金がかかるし、何より道中で殺した怪物の、そうした品をいくらでもいっぺんに持ち歩ける訳でもない。そして何より運の悪いことに、街についたのは骨董屋も道具屋も武器屋も閉まった真夜中の事だった。
 パーティーは疲弊していた。どうしても宿に泊まる必要があったが、金がない。宿屋の人間というのはこのような事態に陥った冒険家の足元を見るもので、結局交渉の末、後払いを認めるかわりに本来の泊まり賃である1人辺り20ゴルドンの3倍割りまし60ゴルドンで宿泊することを約束されてしまった。7人パーティーで420ゴルドンという出費は手持ちのアイテムから捻出すれば無理ではない金額だったが、今後の生活のことを考えるとかなり痛い出費でもあった。
 私がそのことをパーティーのみなに報告すると、一人、特に残念そうな表情を見せる男がいた。剣豪であり、そして同時に武器マニアでもあるジョージだった。実はこの街への遠出も彼の発案であり、そして彼が一番到着の時を待ちわびていた。加えて彼はこの街へ来るまでにたくさんの怪物の、金になりそうな物品を回収しては手荷物を増やした。今回の冒険に一番貢献したのは彼だが、到着を遅らせた要因を作ったのもまた彼だった。
 この街には、武器マニアとしての彼の憧れである、武器防具工房の最大手、羽呉メタル社があるのだ。

 キメラの翼、キラーエイプの皮、死霊の騎士の呪われた剣、生け捕りにしたホイミスライム。キングスライムの王冠なんてモノもあったが、寄せ集めてもやっと500ゴルドンにしかならなかった。もともと手元に余っていた金はわずか25ゴルドン、宿代で消えると今手元に残るのは105ゴルドン。これでは安物の銅の剣さえろくに買えやしない。この辺で狩りをすればある程度まとまった資金を作ることは可能だが、パーティーの士気を高めるという意味でもとりあえず今日は冒険はお休みにして、羽呉メタル社の工場を見学しに行くことにした。
 街の北西を流れるシーダスの河。その河のほとりに、羽呉メタルの工場はある。入り口は自由に出入りできるようになっていて、入って行くと奥に受付があり、人柄のよさそうな老人がにっこりと笑って出迎えてくれた。受付で見学料の14ゴルドン(一人2ゴルドン)を払うと、老人は「7名様ゴアンナァ〜イ」としなびた声で案内係を呼びつけた。
 展示室には羽呉メタル社製のさまざまな武器・防具が並べられていた。ごくオーソドックスなダガー、ショートソード、両手用のロングソードから、つばが盾になる特殊な短剣マンゴーシュや、片手でも両手でも使えるバスタード、巨大な諸刃のブロードソード、仕込み杖、旧式のフランベルジュ、ショーテルと呼ばれる三日月形をした剣など、単純に剣だけで見てもかなりの種類がある。それらの武器を、案内係の若い男が一つひとつ丁寧に説明してくれた。「これは、はるか南東の島国で使われているカタナという武器をモデルにした新作で、細く長い、切れ味のよい刃と、突き刺すようにも使える鋭い剣先が特徴です。」
「羽呉さんの武器や防具にはみな同じ素材を使っているんですか?」俺は案内係に聞いた。一通り剣を見て回り、次の展示室へ移動しようというときだった。「そうそうスコット、僕もそれを聞こう聞こうと思っていたんだ」と、ジョージも話に乗ってきた。次の展示室には剣以外の武器が並べられているようだ。珍しい金属製の石弓、投げるのももったいなくなるようなチャクラム(フリスビーのような武器)、いろんなサイズのバトルアックス、それから旅の侍僧ご用達のウォー・ハンマーやヘビーメイス、悪者が喜んで使いそうなモーニングスターなど、バラエティー溢れる品揃えとなっている。
「わが社の商品は基本的に…」移動しながら案内係が説明をはじめた。「…シーダス河の上流で採取できる砂鉄を原料としています。」
「砂鉄?砂鉄だけでこれだけいろいろな武器が作れるんですか。」ジョージが目を丸くして唸った。
「シーダス河の上流は砂鉄がとても豊富に採取できるんです。」案内係は答えた。「砂鉄の精錬ではどうしても不純物が混入してしまいやすく、結果いろんな性質の素材が出来上がってしまいます。わが社ではそのような砂鉄の性質を逆に利用することで、切れ味重視の剣や軽い素材が求められるレイピア、逆にコンパクトでも重いものが求められる鈍器などを作り分けることが出来るのです。」
 展示室を抜けると外に出た。前方には白い湯煙を大量に吐き出す巨大な建物がある。案内係に付いてゆくまま、その建物の脇の階段を上がってゆくと、建物の上の方から見下ろすように中を望める、恐らく見学に来る人間のためだけに用意された場所に出た。建物の中には思ったとおり巨大な溶鉱炉があり、そしてたくさんの職人が、朱く燃えるように光る鉄の延べ板を賢明に槌で打ち付けて鍛えている。
「あの、隅の方で山を作ってる黒いものはなんですか?」闇魔術師のメリーが案内係に聞いた。「あれはシーダス河の上流付近で採れる特殊な土で、炭素という物質を多く含んでいるものです。あれを少量だけ炉の中の鉄に混ぜると、強度は落ちますが軽くて硬い鉄にすることが出来るのです。」ジョージはそれを聞いてまた更に目を丸くして唸っていた。
 この案内係はなかなか話が面白い人間で、彼の説明は聞いていて飽きなかった。「鉄の繊維は複雑にしっかりと編み込まれていますから、通常の刃を持つ武器ならこれでも十分に防げるのです。その上軽くて身動きが取りやすい。強度だけなら遥かに群を抜く通常の胸当てとチェイン・メイルが値段的にほとんど変わらないのはその為なのです。矢の雨から逃れるような場面ではむしろチェイン・メイルのほうが生存率は高いといわれています。もっとも、矢の雨が降ってきてから慌ててチェイン・メイルに着替える訳にも行かないでしょうけどね。」
 あのあと更に鎧や盾、脛当てなどの防具を飾った展示室をぐるりと回り、非常に有意義な見学を終えた。最後の展示室を抜けるとそこは武器・防具の直売店になっており、武器屋での小売価格より若干安い値段で商品が並べられていた。中にはまだ世に売り出していない試作品なども置いてあった。
 俺たちは案内係に礼を言い、羽呉メタル社をあとにした。

 宿に泊まる金のないパーティー一行はその日は町のはずれで野営を営み、翌日、羽呉メタル社の砂鉄採掘所があるはずの、シーダス河の上流へと出発した。川を遡ること約半日、日も暮れかかろうかという時間になって、やっとその採掘所は見えてきた。見張りの護衛と思しき男に見学させて欲しいと告げると、男は俺たちの素性を聞いてきたので、出身国アムダハムのこと、そこの王が近年のモンスターの異常繁殖の要因を突き止め見事解決した者に多額の賞金を出すという勅令を出していること、そして自分たちがその要因である魔族の存在を一番に突き止めたスコット・モーガンパーティーであることを順を追って説明すると、男は快く採掘所の中へと俺たちを案内してくれた。
 採掘所にはこの会社の棟梁、羽呉ウォルフォード氏が視察に来ていた。武器マニアでミーハーのジョージがウォルフォード氏を見つけると目をきらきらと輝かせて感激したのだ。
 ウォルフォード氏は俺たちを歓迎し、「採掘所だけ見ても面白くないでしょうから、もっと面白い素敵な場所へとご案内しましょう。」と言って、俺たちをある場所へと案内してくれた。
 河を更に上流へと上がる。「私有地に付き、立ち入り禁止」と書かれた札、そして魔力によって結界の張られた、洞窟と呼ぶにはやや規模の小さい洞穴があった。中は明かりがなく、発明家のシンディーがウォルフォード氏に許可をもらってランタンに火を灯した。奥の、泉が湧き出る部屋がぼんやりと視界に浮き上がり、そしてパーティーの全員が、自らの眼を疑った。
 部屋には無数のはぐれメタルが生息していた。しかも彼らは俺たち人間を見てもまったく動じず、逃げる気配も放電する気配も見られない。
 いや、彼らははぐれメタルそっくりなのではあるが、よくよく見ると彼らは、スライム種特有の、愛らしい瞳を持っていなかった。それらは単なるメタリックな色をした、ぶよぶよの、動く液体金属だ。
「すごい。。。はぐれメタルがこんなに。。。」光魔法を使う盗賊ニックが涎を垂らしそうになりながら言葉を溢した。彼は早くも指を折って金勘定を始めている。
「ははは、勘弁してください。この子たちははぐれメタルではないし、あなた方が見つけた魔族の魔力の影響を受けていない。それにこの子たちは、わが国の指定保護種に認定されているんです。それを手にかけようだなんて。」
「はぐれメタルではない。やはりそうですか…。ミュータント種の絶滅の話は聞いたことがありますが、まさかそのミュータント種にメタル属性の生き残りがいたなんて。。。」俺は唸った。ウォルフォード氏は感心した様子で、「そのとおり。ミュータント種を良くぞご存知で。」と相槌を打ってくれた。
 話についていけないメリーが「どういうこと?」と聞いて来たので俺は説明を始めた。「かつてスライムって生き物には目なんかついていなかったんだ。本来のスライムはドロドロのアメーバー状の、石以外のものを何でも溶かす強い酸で出来た生き物で、沼地の沼に擬態して水牛や一角うさぎやキラーエイプみたいな獣を好んで捕食する、かなり獰猛な生き物だったんだよ。」
「ま、ここに居るメタルスライムたちは鉱物しか喰わんがな。」ウォルフォード氏が付け加えた。
「バブルスライムっているだろ?あれは酸性のミュータント種を殲滅するために人間が作ったアルカリ性のソープ種のなれの果てなんだ。」
「ふ〜ん。。。」メリーが感心したように唸った。
「今草原にころころ転がっておる、いわゆるスライムとかスライムベスとか呼ばれている生き物も人間が作ったものなんじゃよ。」とウォルフォード氏も応戦する。
「今のスライムはもともと、マウンテン・ライトバードという人が愛玩用にミュータント種を特殊な薬品で品種改良したものなんだ。」
「愛玩用スライムは爆発的な大流行を生んだ。多くの人間が番犬のかわりにスライムを飼うようになった。調子に乗ったライトバードはスニエック社と手を組んでさまざまな属性のペットスライムを作った。その中には、放電という強い攻撃能力と全身金属の硬い防御力を持ちながら、臆病ですぐ逃げるという不思議な属性のものも居った。」
「それが、今一般的に言われるところのメタルスライム、というわけですね。」いつのまにか主導権をウォルフォード氏に握られ、今度は俺がそれに対して相槌を打った。
「…人間はあまりにも多くの生き物を創りすぎた。人間は生き物をもてあそび、そして自然をももてあそぶ。」ウォルフォード氏の表情に、悲しみの色が表れてきた。ウォルフォード氏は続けた。「私はね、魔族の正体は実は人間ではないかと踏んでいる。こんな不愉快な悪ふざけを考えつくのは人間ぐらいのものだ。そうは思わないかね?スコット君。」
 俺は、少し考えてしまった。この人がそう考えてしまうのも無理はないように思えた。
「この子たちはね、シーダス河の自然の恵みの、証しなのだよ。私はこの河の、この豊富な自然の恵みにあやかって商売を営んでいる。だからこそ、私はこの子達のためにも、このきれいな河をいつまでも守って行きたいと思っておるのだ。」

 冒険の旅は、いろんな人間との出会いを生む。そして、いろんな考え方に触れる。
 俺たちは、そんな人間たち一つひとつの思いのためにも、なんとかして魔族の正体を暴き、そしてこの世界に再び平和を取り戻したい。ウォルフォード氏のような強い、優しい信念に出会うたびに、その気持ちはよりいっそう強くなるのだ。
 珍しいはぐれメタル、もとい、元祖(?)メタルスライムの洞窟を後にした俺たちは、ウォルフォード氏に別れを告げた。別れ際ウォルフォード氏に、俺は言った。「俺はあなたのような人間が他にも何人もいることを知っています。魔族の正体を暴くまでは、俺はもう少し人間を信じてみたいと思っています。」
 ウォルフォード氏は俺たちに紹介状を託した。「会社のほうにも時々遊びにきてくれ。武器が欲しければ試作品を提供しよう。」とまで言ってくれた。
 俺たちは羽呉メタルの砂鉄採掘所をあとにし、街がある下流へと、川を下っていった。