2000年6月8日(木曜日)


 今日は時間外にすべき仕事が入ってしまってとても遅くなった。だから近所のパン屋で菓子パンを買った。
 私はもっとほかのパン屋を研究すべきであると思う。今日あそこのパンを食して特に実感した。特別安いわけでもなく、特別うまいわけでもない。おまけに時間的な理由なのか、どのパンも湿気てしまっていて、その割には時間サービスということをしない。しかも私は億劫なときはとことん億劫でお湯すら沸かさないものだから、なんとも言えず不完全な夕食になってしまった。

 今度パンを買って買えるときは、いっしょにお湯で溶かして飲めるようなインスタントのスープを買おうと思う。

 ところで↓の文章、いったい誰が書いたんですかね。私こんな文章書いた覚え全然無いんですけど。


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 僕*現在

ジャンル:フィクション?
危険度:??

 夕食を食べてしまった。
 夕食を食べれば、頭が回らなくなることぐらいわかっていた。
 でもそれ以前に、頭が回るだけでは曲を作る気にもなれないことも、よくわかっていた。
 僕は夕食を食べた。
 豚肉と野菜を油でいためて、塩、こしょうして、さらに無意味にバターまで絡めておかずにした。朝飲んだ味噌汁の残りをすすった。冷凍庫から凍ったご飯を出して、レンジで暖めて食べた。おかずが足りなくて、キムチなんか引っ張り出してすべてたいらげた。
 だから現在、僕は何も考えられないでいる。
 おまけに僕と言う人間は、性懲りも無く酒に手を伸ばしている。手にとったウイスキーのボトルは、中身がもうあとわずかではあったが、酒が弱い僕にはまだ十分すぎる量だった。
 でも僕は酒が弱いくせに、強い酒をあおるのが大好きだ。僕はそいつのビンの口を自分の口に含ませると、確かな一口をしっかりと咽の奥に注いだ。躊躇することなくそれを飲み込むと、一瞬頭がスーッとして、回らないはずの頭が回っているような錯覚を、楽しむことが出来る。そしてそのすぐあとに、今度は胸が猛烈に熱くなり、そして胃袋が縮み上がって、上半身全体が歓喜に燃え上がるのだ。
 だから僕はうれしくなって、そんなときには文章を書きたくなる。思い立つと急いで使っていないほうのパソコンの電源を入れ、椅子に座った。曲を作るのに使っていたパソコンの、電源を落として。
 しかしウインドウズが起動するころには僕の上半身に沸き立っていた情熱はすっかり衰え、代わりに後頭部を締め付けるような透きとおった酔いが、指先をにわかに痺れさせているのがわかった。おまけに母親譲りの酒を飲むと蕁麻疹が出ると言う遺伝が、早くも肩の辺りに痒みをもたらし始めた。
 だから僕は苦しくなって、もう一口、ウイスキーをあおるのだ。
 そして自分の酔いを確かめながら、一口、また一口、ウイスキーをあおりながら、この文章を書いている。

 誰に書いているわけでもないけれど。お元気ですか?
 僕はどうやら、体が青春を受け付けないほど乾いた人間になりつつあるようです。
 仕事のせいではありません。仕事はむしろ、自分が望んだ職種ですから、それはそれは情熱的に精魂振り絞ってがんばっているつもりです。今一番青春しているのは、むしろ職場にいるときの自分なのかもしれません。
 一番悲しいのは、やはり人間に出会うと言う機会が少なくなってしまったことでしょうか。もちろん、職場で出会う人間の数は計り知れません。いまだに顔と名前が一致しない先輩はたくさんいます。でも、フィーリングで言葉が交わせる人間は、めっきり少なくなってしまったような気がします。
 その証拠に、昨日の夜は涙を流せませんでした。
 時々頭が重く痛いときがあって、そんな時は涙を流せば頭がすっきりしてよく眠れることを経験的に心得ていますから、寝るときに天井を瞬きせずにじっと見つめて、涙を流してから眠るようにしているんです。
 電気を消して、天井を眺めていました。
 天井には闇があって、見つめていると闇というのは、確かな存在感をアピールし始めるんです。そして、闇は僕の視界に、青い複雑な網目模様を作り始めます。それをずっと見つめているうちに、大概の場合は何かの形、それもそのほとんどが誰かの顔に見えてくるんです。でも昨日は、窓からもれるかすかな街の明かりと、玄関口からもれるかすかな光のおかげで、あっさりと目が慣れて、天井そのものが僕の視界に映ってしまったんです。そうしたらなんだか白けてしまって、流せるはずの涙も流せませんでした。でも、もしあのまま天井が闇を保ちつづけてくれたとしても、僕の瞳には何も映らなかったでしょう。青い複雑な縞模様は、何もかたどってくれなかったでしょう。

 怖いのは、音楽を楽しんでいたころの自分が、そのころどんな人間と接していたのか、その人間の顔が、特に親しかった人ほど、思い出しにくくなっていることなんです。
 思い出の潤いが乾ききってしまわないように、あのころの写真もいくつか部屋に持ってきています。でも、忘れてしまった顔は、写真を見返して見てもいまいちピンとこなくて、それがますます自分の心を寂しいものにするのです。

 誰かに会いたい……。
 それが誰なのかはよくわからないけれど。
 そして怖いのは、もし出会っても、自分が気付くことが出来ないような気がして。
 それでも。
 僕*現在。
 会いたいです。
 僕に、僕の中の潤いに気付かせてくれる人。
 そして、思いっきり涙したい。

 そうすれば、これだけ酒をあおってもまだ夜更かしをするような、そんな不健康な生活くらいは改善できるような気がするんです。

 …………。
 そして僕は、また一口、ウイスキーをあおる。
 そろそろアルコールは僕の体をいい感じに蝕んで、僕の体はいい感じで自由を失いつつあった。
 アルコールは僕の首を熱く柔らかく締め上げている。だから僕は息が苦しくて、また一口、ウイスキーを胸にあおるのだ。
 そして、だんだん何がなんだかよくわからなくなって、今こうやって文章を書いていることとか、そういえばまだ風呂に入っていなくて体中痒いこととか、窓はあいているのに蚊取り線香のスイッチもついていないこととかがどうでもよくなってくるのだ。
 誰かに会いたいだって。
 ふふふふ。
 僕はいつだって孤独が好きな人なのに。
 そのくせどこかで、ふれあいやぬくもりに甘えたい自分がいたりする。
 この身勝手はいつまで続くんだろう。
 僕は独り。誰といても独りだ。
 そこに自分はいなくて。
 それは自分を守るため?
 それでも、俺の前では自分を出してくれとか言って真正面から接してくれることばかりを望む人がいて。
 そして僕はそう言う人間が一番許せなくて。

 だめだ。
 今日ばかりは、自分でも何を書いているんだか、わからない。
 本当にわからない。
 大体これ、フィクションだって?
 さっきから、自分のことを実況中継して、自分の中の本音をさらけ出して、好き勝手なことを書いているだけじゃないか。
 こんな支離滅裂な文章、いったい誰が読むって言うんだ。
 いったい何が、僕にこんな文章を書かせているんだろう。
 否、そもそもそうやって、まるで自分の意思がそこには無いような、無責任な考え方自体が間違っているんじゃないのか? 僕は今時分の意志で、この文章を書いているんじゃないのか?
 わからなくなってきた。
 こんな日は、だらだらと書いてしまったこの文章をさっさと証拠隠滅して、情けない画像や映像や動画像を眺めながら自分のを自分で慰めて、ますますわけがわからなくなってさっさと布団にもぐりこんでしまうのが一番自分らしいのかもしれない。
 でも、今日書いたこの文章は、我慢して残しておこうと思う。
 そして、いつもこれを読みにくる数少ない人間にも、これを読ませてやろうと思う。
 それで、僕の叫びが少しでも誰かの心に届いてくれたら、なんて甘い期待を寄せながら。
 そして、今日もそうやって自分のエゴのために、自分の都合のよい部分ばかりをさらけ出そうとするのだ。