99年11月18日(木曜日)


 進路が落ち着いた私、最近になって、今更といいますか、VC++を独学で勉強したりしています。もっとも、あんまり時間が取れなくてそんなにははかどっていないのですが、一応目標としては、就職するまでには何とか窓枠の中で動くアプリが作れるようにするぞ、ということでやっています。
 就職してしまえば、ああいう会社なのだから、仕事をしていくうちに勉強できてしまうだろうという考え方もあるのですが、何とはなしに、出来ておいた方がいいなというか、面白いだろうな、と思って、やり始めています。

 やっぱり人間、何かしら目標を持ちながら生きるって、よいことだと思うのですよ。


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 危機意識

ジャンル:コラム
危険度:中

 「想定していなかった事故」が多発している、最近のマスコミはそんな風に言っています。西暦2,000年問題が取りざたされ、原発においてはそれによって被害を及ぼすような危険性はない、と専門家たちは言いますが、かつてはそれに素直に便乗していたマスコミも、今は果たして本当にそうとは言い切れるのか? といった意見に代わりつつあります。そして、「備蓄を蓄えるべきである」という政府発表にも信憑性を感じる、とある記者は口にしています。

 私は、このようなマスコミの認識の移り変わりは、決してただ単に危険をあおるだけのものではないと思っています。むしろ、このような危機意識を少しでももっておくこと、そしてそれに対処できる自分であることは、少なくとも「この不況だから就職活動は早め早めに動かなくちゃあ」みたいな危機意識なんかよりは、とても大切なことであると私は考えます。

 先日、横浜まで電車で行く用事があって、時間つぶしのための本をたまたま持っていなかった関係で、初めて「文芸春秋」なる雑誌を購入したのですが(横浜に着くとすぐに捨ててしまいましたが)、その中で連載していた小説に面白そうなのがありました。村上龍の小説で、タイトルはもうよく覚えていないのですが(確か幸運のナンタラ…)、その小説の中である少年が、「日本はリスクの計算ができない」という話をする場面があるのです。
 「日本の教育では、10%起こる可能性のある危険に対しては何らかの対処が取れるようになっているが、0.000001%起こる可能性のある危険に対しては何の対処を施すこともできない。僕たちはそういう日本の教育に浸かっていることはとても危険なことだと思ったのです。
 信仰宗教なんかではそういう危険に対して危機感をいたずらにあおり、そして最後には「しかしわれらが主はそんな危機からも皆を救ってくださるのです」みたいな感じで信者を獲得してきました。そういう団体が実は汚い金回りを作り出していることやとんでもない事件を起こしていたことなどが報じられるたび、多くの国民たちは危機感をあおられることに対して過度の危機感を覚えるようになってしまったのではないか、そんな風に感じることがあります。
 あれだけいたるところで報じられている、JCOの臨界事故での原発行政のずさんさ、そして2000年問題。そういうニュースを聞いても、私の周りにいる人間たちは、「よくわからないし」とか、「自分には関係ないよ」とか、「あんまりにも現実離れしすぎて、、、ねぇ」とか、「まぁそれでもどうにかなるでしょ」とか、そういう言葉を適当に並べ立てては、「自分だけは大丈夫」「日本は大丈夫」そんな気持ちを一生懸命心の中に保たせて生きていこうとしている。そんな風にさえ見受けられてしまうのです。

 私はといえば、本当はこの平和ボケして非常に危険な状態にある日本から、年の変わり目だけの間少し離れて、それこそ石垣島とかグァムとかハワイとか(できればパナマとかタヒチとか)、そういう安全そうな(かつ暖かそうな^_^;ところに旅行にでも行きたい気分なのですが(逃げるようにね)、それで本当に日本各地で原発事故や飛行機の落下や米軍基地の暴走やその他諸々が起こってしまったらなんだか家族や友達を置いて自分ひとりで逃げてきたことになってしまうのでっていうかへたすりゃ帰る国もないまま一人で生きていかなければならなくなるので、それだったらこの狭い日本の1億7千万人と運命を共にした方がまだ惨めではないかなぁなどと思ってしまうとあんまり実行に移そうという気概にはなれなくなってしまうのです。

 しかし本当にそういう事態になったら、案外ハワイがお好きな芸能人たちだけが生き残ることになるのかなぁなどと思うとそれはそれで悔しかったり(-_-)......*~●


 スペア

ジャンル:SF
危険度:小

 マグワニ共和国はフンバニロ勢力による王政復古の内戦によってぐちゃぐちゃになっていた。このご時世に王政復古もないだろうと思うかもしれないが、典型的共産主義国家における独裁政権の悪政をどうにかしようと立ち上がったのがたまたま数百年来にわたって生き長らえた同勢力の王家の血を継ぐものであったのだから必然といえば必然なのかもしれない。

 沖田斬滋郎はフンバニロ派の第1007小隊の1兵隊にすぎない。フンバニロ派の部隊は1から10までで構成され、さらに各部隊はその規模に応じて2桁番目までの小隊を持っていた。斬滋郎が所属する第10部隊は陸戦斬り込み役を主とするロボット部隊。そう、つまりは彼も作られた人間型マシン、アンドロイドだ。

「リペアにする? それともスペアに替えちまうか?」
 ロボット医師の前田閑銘は何かよくないものを口にしてしまったような苦い顔で聞いてきた。ロボット医師というのは彼がロボットだからそう呼ばれているのではなくて、つまりは動物を診る医師が獣医と呼ばれるのと同じように、ロボットを治療する職業だからそう呼ばれている。彼は第10部隊専属の医師の一人で、今目の前にいる沖田斬滋郎のように腕や胴の外郭をなす肉が引きちぎれて内部のひん曲がった合金骨格や数箇所ちぎれたエナメル配線が剥き出しになったような様にさらされたロボット兵士はたくさん見てきており、そんなものはとうの昔に慣れきってしまった。
「リペアして、だめならスペアを頼む。」
 斬滋郎は答えた。彼はロボットとしてこの世に生を受けたときから、やたらと自分の持ち物を大切にする人間であった。そして戦闘で負傷を受け、治療を受けるときには、他の連中とは違って必ずこう答えてきた。なるべく自分が作られたときの体でいたい。それが彼なりの、自分が自分であるという、ある種の自己主張であったのかもしれない。
「そうかい。しかし今回ばかりは、かなり難しいかも知れんぞぇ?」
 斬滋郎は今回の戦闘で敵の136mm実弾バズーカ砲を5発ほどまともに被弾し、受け止めた右腕の上腕からひじまでの損傷がことのほか激しかった。運搬にかさばる実弾兵器はレーザー兵器の登場で一時はほとんど使われなくなってしまっていたが、ロボットやモビル・スーツが頻繁に使われるようになってからその物理的破壊力が再評価され、最近ではまた実戦でも多く使われるようになったのである。
 前田は暫時蝋の右肩にメスをつきたてると、脇の下に手をまわして弧を描くように切り裂いた。関節の部分に球状の配線基盤があり、そこを接点に右肩から先のすべての運動および感覚神経系の配線が集中している。配線はしっかり束ねられているので剥き出しにさえしてしまえば簡単に取り外しが可能であるかに見える。もちろん、そんなに簡単に取り外されては困るので、抜き取ろうとすると球体基盤から高圧電流が流れるようにできている。そこで、治療などで抜き取る必要が生じた場合にはこの球体基盤のアース差込口にぶっといアース栓を差し込み、それから配線を取り外す。あとはボルトを一本抜いてしまえばそれで右腕一本を取り外せてしまえるのである。
 前田はここまでの作業を慣れた手つきで実に手際よくやってしまうと、その腕だけを治療テーブルに乗せ修理をはじめた。斬滋郎は何も語らない。せせこましく働く前田の姿を、ただ何とはなしに目で追っていた。
 しばらく時間が経って。
「とりあえず骨格矯正をやってみたが…こりゃだめだ。強度がもう限界までキちまっている。わしとしちゃあスペアに替えちまったほうが楽なんだが。」
 前田はいぶかしげにそう告げた。
「…方法はあるのか?」
「ないわけじゃない。要するに上腕骨格だけを新しいのに取り替えられりゃあいいんだ。でもそんな修理方法は普通やらないからね。上腕骨格だけのスペアなんてのは用意されちゃあいないんだよ。」
 前田は無理を言われているわけだからいくらか苛立っていたが、それでも何とか誠意を持って極力穏やかに説明を続けた。
「それにあんただけのためにそれだけのことをやっていたんじゃあこっちだって手が何本あったって足りやしない。治療が必要なロボットはごまんといるんだ。」
 斬滋郎はしばらく何も言わずに、何もくっついていない自分の右肩を見つめていたが、やがて「済まない。スペアにしてくれ。」と言った。それで前田はほっとため息をつき、奥の保管庫から新品の右腕を取り出してビニールを破った。

 フンバニロの王女はなぜ、戦闘用ロボットに「知性」を与えたのだろうか。戦闘に使うロボットであるならば、量産がしやすくてしかも指示に忠実に動き、絶対に裏切ることのないノイマン型のロボットの方が絶対に有利であったはずだ。事実、マグワニ共産党派の戦闘ロボットはノイマン型であったし、それも膨大な頭数を量産して戦争につぎ込むのである。
 理由として考えられることのひとつに、フンバニロ派の人間は戦争を知らないものばかりであったと言うことが挙げられる。戦争を知らない人間ばかりだから、指示に忠実に働くロボットを量産しても、彼らを操作できる人間がいないと言うのだ。しかし、戦うことに特化して作ったロボットに「知性」を持たせ、それもある程度戦闘に興味が沸くように作り上げれば、あとは戦闘の中で彼らが戦い方を学び、少数精鋭でも最大限の戦力を発揮できるということを期待したからではないか、という説がもっとも有力視されているのである。
 そしてそういった構図は実際にもしっかり出来上がっていたようだった。戦闘になればまずこの第10部隊が全体の前を行き、手合わせしながら相手の出方を伺う。第1、第2部隊はそれぞれ陸・空のスパイ工作部隊なのだが、彼らは相手軍隊の規模と様子を観察したあと、それを陸軍兵力の総指揮である第7部隊と空軍の第8部隊、そして第10部隊に報告するのである。陸戦においては前線で戦闘を繰り広げている第10部隊の方がより的確な判断を下すことができるので、陣形の取り方や大型兵器の出すタイミングなどは彼らが判断し、第7部隊はどちらかと言うと軍全体の伝達機能として働いている、そんな感じになっているのである。
 もしこの第7部隊が戦争のプロフェッショナル集団であったならば、第10部隊はノイマン型ロボットでも何ら問題はなかったであろう。しかし実際にはこの第7部隊は必ずしも戦争のプロフェッショナル集団と言うわけではなかったから、考えて戦いを繰り広げるロボットたちの存在は非常にありがたいものであったのである。

 しかし苦悩するのはロボットたちであった。
 人間と同じように考える頭を持たされた彼らは、まずそのような思考回路を与えられたことに苦悩した。誰も反発して裏切ろうとはしなかったがしかし、彼らはいつでもフンバニロの軍隊を裏切ることができた。そして何より彼らは、フンバニロ派の人間たちは、ロボット主導のロボット社会を覆し、国から一切のロボットたるを廃絶するために立ち上がった連中なのである。つまり彼らと共に戦いそして勝利することは、同時に自分たちアンドロイドの絶滅をも意味していたのである。
 しかしかといってフンバニロを裏切ってマグワニの部隊に混じってしまえば、彼らはきっと自分たちの思考回路から「知性」を取り除いてしまうだろうと言うこともわかっていた。マグワニ共産党が勝てばロボットは生き残る。しかしそれは自分たちの勝利ではない。ロボットは生き残っても、自分たちの意志は生き残らないのである。
 自分たちの意志は正しいものである。そう自分に思い込ませ、それ以上考えないようにしている人間たちと違って、半ば「意思」などと言うものを持ってしまっただけに、ロボットたちは苦悩することになったのである。そして斬滋郎などは、自分と言う存在を主張しようとするあまり、なおさら自分の戦いに苦悩し、そして、自分の存在に苦悩するのであった。

 すべての治療が終了し、前田閑銘は暑苦しそうに間接照明を落とした。
「どれ。ちょっと動かしてみなさい。」
 斬滋郎は言われるままに右腕を上に振り上げ、ぐるぐる回してみせたり、手を握ったり広げてみせたりした。
「思っていたより調子は悪くないな。」
 それでもやっぱり納得がいかない、そんな表情を作って見せながら、斬滋郎は答えた。
「あんたも相当の強がりだね。同じロボットでもあんたほど…」
 言いかけて腰に手を当て、そのまま伸びのようなものをしてから、作業台の椅子に腰掛け、前田は続けた。
「…強情で、自分ってモノにこだわるやつはそうそういたもんじゃあない。」
「そうか?」
 そういうものなのだろうか。斬次郎は冗談ではなく、本気でそんなことを考えた。考えながら、腰に身につけていたサーベルを手にとると、握りを確かめながら、一振り「ヒュッ」と空を斬ってみた。
「ああ、そうだ。」
 斬滋郎の空を斬る一振りとほぼ同時に、前田は強く声を張り上げてそう答えた。
「なぜあそこまで自分の作られたときの体にこだわる? 義足をあてがわられる人間ならとにかく。わしらロボットの場合なら腕も足も胴体も、この頭だってまったく同じものだろう。」
「ああそうだ。」
 今度は斬滋郎がすぐに、強い調子で答えた。答えながら、剣をさやに収めた。
「だからこそ俺は。」
 そこまで言いかけて。斬次郎は言葉を選んだ。少し考えて。そして続けた。
「この体に意味を見出す必要がないなら、何も俺が戦いつづける必要はないんだ。」
 そして、さらに言葉を捜して、少し考えて。
「俺がスペアを。スペアの体を求めるくらいなら。」
 慎重に言葉を選びながら。そのつもりだった。しかし彼の口調は、間を置きながらも、確実に熱を帯びていった。
「俺がスペアの体を求めるくらいなら、俺の経験と知識をコピーした新品のスペアが変わりに戦えばいい。あちこちガタが来てる俺みたいなのをしぶとく使いつづける必要なんてないんだ!」
 ぐがんっ!!
 言ってしまうと同時に斬滋郎は、右手のこぶしを強く握り締めて、自分の座っていた診療椅子の背もたれを思いっきり叩いて壊してしまった。前田はその迫力に少し圧倒されながらも、しかし深くため息をついた。
「…右腕はどうやら調子はいいようだの。」
 そう言うと前田はカルテを一通り書き上げ、さあもう次の患者がお待ちかねだからさっさと出て行ってくれ、と斬滋郎を追い出した。