99年5月25日(火曜日)


 ふと、窓の外に目をやると、盛られた土と、その脇で埋もれそうになっている仮設トイレが、まだ若い広葉樹の木陰に、しかししっかりとその存在感を主張してたたずんでいるのが見える。最近になって出現したこの仮設トイレは、ここのところ見飽きていた高架の高速道路と田圃だけの風景に、いい感じでアクセントを加えてくれている。
 ……この土地に、新しくお隣さんがやってくるのだ。この調子だと、秋には家が出来上がるのだろうか。


日付け別indexに戻る

最初のページに戻る

まるのみに戻る



 流通

ジャンル:実話
危険度:中

 メーカーが作ったモノを広い地域で販売する。それが彼らの役割だ。
 流通業者がいるからこそ、北海道で作られた乳製品を大阪で食べたり、アメリカで作られたMIDIインターフェースが名古屋の小さな貿易商社と東京の大きな流通商社を経て千葉の大型(?)パソコンショップで購入できたり出来るのだ。

 「定価」を決めるのはメーカーだが、実売価を決めるのは最終的には小売店、ということになる。問屋という言い方は最近はあまりしなくなったようだが、今でもメーカーと小売店との流通の仲立ちをする業者というのは存在して、同じメーカーの商品でもその流通経路によって仕入れ値が変わってくる。その仕入れ値によって、どのくらいまでなら安く出来るか、というのもある程度決まってくる。
 もちろん、商品によってはメーカー直属の営業部門から直接仕入れる場合もある。そういう商品の場合も基本的には同じだが、前述の場合業者によっては「買い取り」というやり方を取らせるところもあり、そうなるとモデルチェンジの際の返品や損失補填が利かなくなってしまう。逆にメーカー直属の場合、販売方法を厳しく監視してくるところもあり一長一短だ。
 通常の家電製品やメーカー製のパソコンなんかは秋葉原よりもむしろM・バレーの方が安かったりもするがそれは要するにもはや秋葉原という地域が問屋街としては機能していないことを意味する。ましてや中央通り沿いの大型店舗なんかは細かいパーツや小物に至るまで地方の電気屋と値段が変わらなかったりする(むしろ高い)のは、どこも同じような流通ルートをたどって商品を仕入れてくるために仕切り値での格差がとれていないからではないか、と思うのだ(アキバ事情は私もよく知りませんが)。
 それを思うと某宗教系列のパーツ屋なんかは本当にスゲェなーとか思ってしまうのだが(-_-)..zzZZ

 もっとも、地域ごとに物価の格差が無いという状態は、それだけ流通が発展してきた証拠だ、ととらえることもできる。まぁ発展しすぎた流通のために、その土地ならではの名物というモノの価値が薄らいでしまうのは決して歓迎できることではないかもしれないが、「メーカーが作ったモノを広い地域で販売する」という観点から見れば、地元で買っても同じ値段で買えるということ(つまり、同じ買い物のためにわざわざ遠出する必要のないこと)は素晴らしいことだ、と私は思うのである。

 さて価格についての議論はこのぐらいにして、もう一度、流通の本来の役割について立ち戻って考えてみよう。
 何度も書いているが流通の役割とは、「メーカーが作ったモノを広い地域で販売する」ことだと私は考える。古くは物々交換に始まり、貨幣の登場を背景にめざましく発展してきた商業だが、交通機関の発達を境に、単一メーカーがその地域のみならず、国内全域、もしくは世界を市場の標的として販売が出来るようになった。その仲立ち役を務めるのが、流通の役割だ。
 つまり、流通、すなわち卸売業、小売店というのは、メーカーから商品を譲り受け、それを広い地域で販売するのが仕事なのである。

 商品によっては購入後のサポートも必要とするモノがある。例えば単品ではなくパッケージになっている製品の場合、ごく稀にメーカー側のミスで付属品の一部が欠けている、すなわち欠品していることがある。また、精密機械なんかは正しく使っていても予期せぬ故障が絶対にあり得ないとは言い切れない。
 そういったサポートは普通、すべてメーカー側が責任を持って果たしている。よっぽど怪しい小規模メーカーで3ヶ月で倒産するような(笑)ところでもない限り、メーカーにはサポートを扱う機関を設けており、電話口などで応対し、対応してくれる。また、そのようなサポートが必要な商品にはたいがいユーザー登録制度が設けられていて、登録はがきを送っておけば、ロット不良(同一時期に生産された製品すべてに同じ不具合があること。同じ製品でも常に細かいバージョンアップをくり返しながら生産は行われているのだ)があったときの出張修理や交換などといった対応もちゃんとしてくれる(ハズな)のだ。
 メーカーサポートに於いての流通の仕事というのは本来あり得ないのだが、メーカーから直で仕入れている製品に限ってはメーカーサポートの窓口として機能することはある。しかしそれはあくまで初期不良交換と故障修理のみであり、それ以外は受け付けていない。これにはちゃんと理由がある。
 初期不良交換というのは、現行商品でまだ生産が続けられているか、もしくは店に在庫がある場合にのみ行われる。生産期間はメーカーによってまちまちなので、もしすでに生産が行われていないということになればメーカーに直接問い合わせても交換できるモノがないということになる。販売店での対応ならばメーカー在庫の他に店在庫、さらには系列店在庫なども吟味することが出来る。販売店などの流通業者はメーカーと契約を交わす際、ちゃんとこの初期不良交換の際の扱いもとりきめており、大抵店で対応した初期不良交換は不良返品という形でメーカーに返却されている。
 故障修理の場合、店舗によっては独自のサービスとしてその場で本当に故障であるのかどうかを確認し、故障であってもその場で修理が可能な場合は有償もしくは無償で修理することが出来る。もちろんこれは商品の種類にもよるのだが、別段壊れてもいないモノを直接メーカーに送ってしまうよりはお店でまず診てもらってから、という形の方が能率的であり、消費者にとってもメーカーにとってもメリットは大きい。
 そしてどちらにしても言えることなのだが、「修理」や「交換」の場合、店で対応をとらなければ消費者は直接メーカーまでモノを送るか持っていかなければならず、現実的ではなくなってしまうという事情があることだ。遠く離れたメーカーに直接送るよりは、近くのお店に持っていった方がリスクは少なくて済むのだ。

 しかし、それ以外の場合はどうだろうか。
 例えば欠品の場合である。これは店にいくら問い合わせたところで、店側としてはどうにも対応の取りようがない。店にすべてのパッケージ製品のバラになったモノが用意されているわけではないからだ。そして欠品については店側からメーカーに問い合わせたところで取り繕ってくれない。もしそんなことが出来るなら私はもうとっくに大量の付属品をメーカーから横領しているだろう(笑)。店側からメーカーに問い合わせたところで、「お客様の方から直接お問い合わせ頂くようお伝え下さい」と断られてガチャンと切られるのがオチなのだ。

 先日、M・バレーでFMVを買ったという顧客から「Windowsのファーストステップガイドがない」という電話を受けた。「もしかしてアウトレットで購入されたものですか?」と聞いたら「そうです」と答えたので、リカバリーの時に紛失した可能性を考え、あとでこちらからかけ直しますということでいったん電話を切った。
 ところがよくよく調べてみると、その客が買ったという商品はバリバリ在庫の有り余っている現行商品であり、展示品もしっかり残っているし、これはどう考えても新品在庫を売ったとしか考えられないのである。それを売った日にリカバリーの仕事はなかった、と言うこともあり、これはどうしたものかと思案するうちに再び電話がかかってきた。
 出ると先程掛けてきた女性の声ではなく、おそらく旦那様と思われる男性の声だった。まぁ要するに男の俺が電話した方が脅しになるとか考えたんだろう。その時点で私は十分腹が立ったが、とにかくその時のやり取りを以下に掲載してみることにする。


男:「先程そちらに電話して欠品を探していただいていると思うんですけどー」
MURACHI:「あ、どうも、私が先程電話で応対いたしました村山と申します。えっと、一応確認したいんですけれども、お客様、こちらの商品新品で購入されていますよね?」
男:「はい、そうですけど」
MURACHI(心の叫び):
(以下、「心の叫び」)
(くぉんのヤロォ〜、やっぱりそうだったのか)
MURACHI:「あのー、非常に申し訳ないんですけれども、欠品についてはメーカーの方に直接お問い合わせ頂きたいんですけれども」
男:「何!? なんでっ!? あんたんところで売っている商品でしょ!? なんで保証できないの!?」
MURACHI:「いやそれはその、欠品に関しては当店の、その、お店の方ではどうにも対応できないものですから、一応メーカーさんの方で対応をしていただく形になっておりますので」
男:「なんだよそれーっ、それじゃあなにか、店屋は売ったら売りっぱなしっていうことですか」
心の叫び:(ふざけんな、売りっぱなしだったらハナっから貴様の電話なんか受けるかってんだバーロォ)
MURACHI:「うーですから、メーカーさんの方におかけいただければしっかり責任を持って対応していただけますので。うちではちょっと、欠品したもののみのお取り寄せは出来ませんので」
男:「じゃあいいよわかったよ、それじゃあどこに問い合わせたらいいか教えてよ」
心の叫び:(テメェで調べろアホ! 手間取らせやがって)
MURACHI:「えーっと、ただいまお調べいたしますので少々お待ち下さい」
(カタログを見てみるが顧客サポートの電話番号はのっておらず、仕方なく展示品の箱を開けて中から「困ったときのQ&A」という冊子を取り出す)
MURACHI:「すいませんお待たせいたしました、商品の付属品で、「困ったときのQ&A」という冊子があると思うんですけれども」
男:「え、ちょっと待って、今探すから」
MURACHI:「その中の、サポートのご案内、と言うところにお問い合わせ先の番号があるんです、いくつかあるんですけれどもその中の故障などに関するお問い合わせは、と書いてあるその、×××というところですね(×××がなんていう名前の期間だったか忘れた)、こちらの方にお問い合わせ頂きたいんですけれども」
男:「うーんと、ああ、何だかいろいろ電話番号が書いてあるねぇ、この千葉営業所ってところに掛ければいいの?」
MURACHI:「あ、いえ、それではなくて」(しばらくこんな感じのやり取りが続く)
心の叫び:(あーもうじれったいなぁ)
MURACHI:(結局番号そのものを教える)
男:「……でもさぁ、本当にそっちじゃどうにもならないの? ねぇ、店長とかに代わってもらえないの?
心の叫び:プチッ(-_-#)
(フザケんなよコラァ、キサマのためにこれから店長に1から事情を説明してお言葉を仰げってのかヨォ!!!(怒)(怒)(怒)
MURACHI:(半ば興奮状態で)「ですからうちの店の方ではどうにも対応がとれないんですっ、すべての商品の付属品がバラになって用意されているわけじゃないんですから、お客さんの方から直接メーカーに言っていただく以外にどうしようもないんです!!」
男:「そうなのぉ? でも店の責任としてさぁ、だいたいお店なのにメーカーの電話番号すらすぐにでてこないしさぁ」
心の叫び:(なんで店が欠品の責任取らされなきゃいかんのじゃい!!(#-_-)凸
男:「まぁいいや、ここにかければやってくれるわけね」
MURACHI:「非常に申し訳ないんですけれども、そういう形でお願いいたします」


 金さえ払えば何でもしてくれると思っている。そういう気持ちが、こういう間違った認識を生んでいるのではないだろうか。流通がなければあなたは、働いて稼いだお金を使うために地方や海外にあるメーカーまでわざわざ赴かなければならなくなるのだよ。
 その点をよく理解した上で、気持ちよく買い物をしていただきたいものである。