99年5月11日(火曜日)


 私がこれを書いている今日は、朝からしっとりと曇り空です。
 5月に入った関係で日増しに暖かくなってきました。慌ててつい先日まで着ていたセーターや上着をクリーニングに出し、毛布を押入にしまい込み。部屋はちっとも片づける気になれなくて、石油ストーブがまだ出しっぱなしだったりしますが(^_^;)、窓を開けっ放しで1枚の掛け布団で足なんかをはみ出させて寝てみたりすると、いよいよ春なんだなぁ、と今更ながら実感したりしてしまうのです。
 そんなわけで、今日の曇りは気温も少し和らげて、むしろ安心するくらいの平和さを感じます。

 5月といえば、田圃に苗がもうすでに植え込まれているような季節、新緑の候というよりは、緑もいよいよ深まり、というくらいで、自然の植物も小動物たちも、それから農家のみなさまも、活発に活動をはじめる季節です。
 学生やサラリーマンたちにはなんで、5月病だなんてやっかいなものがついて回るんでしょうね!?


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 ドリアン

ジャンル:実話
危険度:っていうか危険です、あの果物わ(;_;)/

 インドネシアから帰ってきた親父のお土産は、まだ完熟していない青いドリアンだった。

 まだ若いそいつは話に聞くような強い異臭は発しておらず、しかしながらトゲトゲだらけのその巨大な果実はまさに「悪魔の実」と呼ぶにふさわしい容貌だった。
 現地で詳しい人間に「これなら今日持ち帰ってすぐ食べられる」といわれてきた親父は早速鉈を持ってきてこの実をかち割ろうと奮闘を始めた。しかし小振りの鉈ではうまく割ることが出来ず、包丁で切り目をつけて何とか房一つの半分だけの実を取り出すことに成功した。この時初めて気がついたのだがドリアンという実は芯の周りに6つぐらいの房を作るような構造になっているのだ。
 切り出した実はまだ硬く、かじるとまだ熟していない南国果物特有の青臭い匂いがした。そしてリンゴのような甘みがあり、噛んでいるうちにニンニクに似たきつい臭いが充満しはじめた。何より実がまだ若くてポサポサしており、ちっともおいしくなかった。
 これには現地で食べ慣れていた親父もさすがにがっかりしていたが、懲りずに彼は「熟すまでこのまま置いておこう!」と言い出した。母親は露骨に厭な顔をしたが、私達兄弟にはコワイもの見たさ、まずいもの食べたさの好奇心があり、とりあえずこのまま放置してみることで一致した。

 はじめ一週間は特に問題はなかった。問題は一週間が過ぎたぐらいの頃からだった。熟してきたドリアンが、予想通り異臭を放ちはじめたのだ。始めはそれもかすかに甘い南国果物らしい薫りだったのが、だんだん日が経つにつれ、強く甘ったるい、独特の癖のある、どちらかというと動物性の酸がなにかに反応したような(つまり、腐ったような)匂いへと変貌して行き、さらにその匂いを強めていった。
 結局、父親が持ち帰ってきて二週間になる前日ぐらいに母親の指示によってそいつは段ボール箱に封印され、玄関の外に放り出された。そしてさらに一週間が過ぎた。

 買ってきてから三週間目ぐらいの日に、程良く熟したそいつの実を2房ほど切り出し、朝食のデザートとして食卓に並べられた。しばらく平穏の空気に包まれていたダイニングは再び特有の刺激臭によって充満していた。
 突然のことで驚いてしまった私だが、本当に驚いてしまったのはこのドリアンというヤツの味である。
 はじめ、口に含むと、まるでカマンベールのような舌触りと濃厚な甘みに感動すら覚えるのだが、口に含んで数秒でその感覚は強烈な刺激臭の体内循環によって踏みつぶされ、飲み下すと得も言えぬ嘔吐感が体中を痺れさせる。っていうか、本当に吐き出したい、否、とことん吐き出させたくなるような味なのである。
 そんな訳で与えられた1/2房分のうち半分も喰いきれないまま残し、アルバイトが早番で急いでいるからなどと言い訳しながらとっとと逃げ出してきてしまった次第なのである。お粗末。

 ちなみにこのドリアン、栄養価が偉く高く、この実一房分を食べただけで3日は何も食べずに過ごせてしまえるらしい。でも本当は、正確にはこれを一房分も食べてしまったら3日は何も咽を通らなくなってしまう、の間違いではないかと思う。
 そしてその栄養価の高さ故か、酒と一緒に食べてしまうと胃の中でとんでもなく膨張し、胃を破裂させて死に至らしめるというとんでもない能力を秘めている。間違っても酔っぱらっているお父さんをだまして食べさせるようなことをしてはいけない。
 さらにはこの実は現地では木になっているらしく、この偉くでかくて重くて棘が厳ついドリアンの実は完熟して落下してきて真下にいた人間の脳天に直撃し即死させるという事故が頻繁に起こっているらしい。
 こんなにも死ぬ要素がぎっしりと詰め込まれた果物というのも、珍しいのではないだろうか。