衛星AO-40 の軌道の変化 [by JF6BCC]


● (No.315) 衛星AO-40 の軌道の変化 [by JF6BCC] (2002年 3月14日)
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Date: Thu, 14 Mar 2002 15:04:04 +0900
From: Yoshihiro Imaishi JF6BCC [imaishi@syd.odn.ne.jp]
To: [jamsat-bb@jamsat.or.jp]
Subject: [jamsat-bb:11070] AO-40の軌道の変化

JF6BCC 今石です。

# 今日はあの日です。皆さん、お返しはしましたか? (^^;)。

  さて素人の頭で考えますと、推進機構が使えなくなって、軌道変更ができな
い AO-40 では、その軌道は宇宙空間に固定されていて、楕円軌道長径(Major_
Axis) の方向は季節が変わっても変化しない、と言うことになります。
図にすると、こんな感じでしょうか。

昨年 11 月に作った図
http://www.geocities.co.jp/SiliconValley/4703/temp/ao-40-cycle.gif

  この通りだとすると、AO-40 は毎年 1〜3 月と 7〜9 月には、太陽との角度
の関係で通信が困難になり、その間の期間はフルに通信ができるようになる、
というのをずっと繰り返していくことになります。でも、本当にそれで正しい
のでしょうか?。AO-40 の初心者にそう説明して構わないのでしょうか?。

  そこで、AO-40 の軌道変更が終了した昨年 2001 年1月以降、AO-40 の長径
方向が変化していないかどうか、古い軌道要素と CALSAT32 で調べてみました。
  方法は、それぞれの軌道要素の発行された日の AO-40 の遠地点(MA=128) 時
の方向と、その時の太陽の方向との差を、それぞれのサブサテライトポイント
の経度で取得し (CALSAT32 から GL で取得し変換) て求め、また 地球の公転
によって太陽の方向がズレていく量も合わせて補正する、と言うものです。

  日          太陽  AO-40  差   方向補正 結果 (単位:度)
  2002/03/07  116E  100E  - 16   + 64    +48 
  2002/02/07   70E   76E  +  6   + 37    +43 
  2002/01/03   78E  118E  + 40   +  2    +42 
  2001/12/06   28E   92E  + 64   - 25    +39 
  2001/11/01   38E  132E  + 94   - 60    +34 
  2001/10/04  350E  108E  +118   - 87    +31 
  2001/09/07   20E  156E  +136   -114    +22 
  2001/08/02  320E  122E  +162   -150    +12 
  2001/07/05  198E   26E  -172   -178    +10 
  2001/06/07   70E  280E  -150   +155    + 5 
  2001/05/03  300E  178E  -122   +120    - 2 
  2001/04/05   68E  324E  -104   + 93    -11 
  2001/03/07  120E   40E  - 80   + 64    -16 
  2001/02/01   76E   20E  - 56   + 31    -25 
  2001/01/04  204E  172E  - 32   +  3    -29 

  この表で、「差」は太陽方向に対する長径方向の角度差を、北半球地上から
みて東(左)方向を+、西(右)方向を−にしたものです。また「方向補正」
は、元日をゼロとして、公転にそって太陽の方向が東にズレていく分を補正す
るためのものです。「差」と「補正」を加算することで、元日の太陽の方向と
AO-40 の軌道の長径方向との差がわかることになります。

# 本当は、これを表現する専門用語があるんだと思いますが (^^;)。

  結果、精度が雑なので細かな数値はアテになりませんが (^^;)、ご覧の通り
長径方向は、東方向へと大きく変化しています ('o')。昨年3月からの1年間
で実に 64 度も変わっています。原因としては、地球大気によるドラグや、月
・太陽・他の惑星からの引力などがあるのでしょうが、そのあたりはよくわか
りません (^^;)。
  もし、今後も同じように変化していくとすれば、今年の冬は早朝に使えた 
AO-40 は、3年後の冬には夕刻に使えるようになる訳です。…これでは、前述
の図は「大嘘」ってことになりますね。うわぁ、危ない危ない (^^;)。偉そう
に説明してたら大恥をかくところでした。

  軌道の長径方向が固定なら、AO-40 の使用可能な時間帯は 1週間ごとに 28
分ずつ早まっていく事になる訳ですが、長径方向が今後も年 60 度ほどの割合
で東方向に変化していくともし仮定すれば、AO-40 の使用可能時間帯の早まり
方は1週間ごとに 23 分と「鈍く」なることになります。
  現在、AO-40 が遠地点にある時のサブサテライトポイントの時刻は 10:30頃
ですから、地上から AO-40 が見える時間帯は 5:30〜15:30 あたりです。これ
が、運用に適当な 20:00 を中心とした 14:00〜2:00 の時間帯にまで変化する
のは 45 週間後、約 10 ヶ月後(2003年1月頃)と言うことになりますね (--;)。

  …夜間、のんびりと AO-40 を楽しめるようになるには、あと 10 ヶ月もかか
るのかぁ… (-o-;)。

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Date: Fri, 15 Mar 2002 12:00:27 +0900
From: Yoshihiro Imaishi JF6BCC [imaishi@syd.odn.ne.jp]
To: jamsat-bb@jamsat.or.jp
Subject: [jamsat-bb:11074] Re: AO-40の軌道の変化 

JF6BCC 今石です。

At 2002/03/15 09:17:40 you wrote:
>  軌道要素で言うと昇交点赤経と近地点引数が変化しないと言うことを
> 言いたいのだと思います。

  そうです。

>  しかし、二つの値は軌道長半径、地球赤道半径、軌道傾斜角、離心率と
> 関係してゆっくりと変化します。

 この点は他の方からも指摘されましたが、「昇交点赤経と近地点引数が変化
する(=軌道面がズレる)のは、他の要素の変化に伴うものだ」という説明で
は、疑問は解消しません。それらの軌道要素が変化するような、衛星にかかる
外的応力は、どのようなものなのだろうか、それが疑問の根幹なんです (^^)。

  書籍などで「地球が赤道付近にわずかに膨らんでいること」や「月や太陽の
重力の影響」と簡潔に説明されてはいますが、それをもっと具体的なイメージ
で理解できないかなあ、と思っている訳です。でないと、自信を持って人に説
明できませんから…。

# 詳細に、あるいは論理的に、って意味ではありません。数式で説明できても
# ビギナーの方には理解してもらえないでしょうし (^^;)。

> (コマの回転軸がゆっくりと首振り運動をする感じで)

  これは「際差運動」と呼ばれるものですよね。地球の自転軸の傾きが数万年
の周期で変わる(いずれ夏と冬とは逆転する)などと、Web 検索では出てきま
すが、天体の自転に現れる現象が、衛星軌道の変動と同じ理由に基づくものな
のかどうか、と言うあたりがよくわかりません (^^;)。

>  たとえば、常に軌道面が太陽に向いている太陽同期軌道や遠地点を北半球
> に固定するためのモルニア軌道が特殊な条件であることを理解されていると
> 思います。

  太陽同期軌道については、

http://alos.nasda.go.jp/2/orbit.html
http://spaceboy.nasda.go.jp/note/eisei/J/EIs06b_j.html

  などに割と分かり易い記述がありますね。軌道傾斜角が 90 +α の極軌道で
は、地球が赤道付近でわずかに膨らんでいることによる 「重力の歪み」 で、
その軌道面が地球の自転方向に引っ張られる、大雑把に言ってしまえばそうい
うことだそうで…。この変化率が1年で1周するような値になるのが、太陽同
期軌道だと。ただ、どんな具合に「重力の歪み」が働いて、軌道面が回転する
のかは、まだ理解できていませんが (^^;)。

  モルニア軌道については、うまい解説記事を見つけられませんが、ある特定
の軌道傾斜角に置くことで、月や太陽などの重力からくる軌道傾斜角を変動さ
せようとする力を相殺して、その角度を保つ(=北半球側に遠地点を維持でき
る)ことができる、とか、そういう説明だったことを覚えています。

  いずれも「特殊な条件」であることはわかるのですが、では「特殊でない条
件」にあたる AO-40 の軌道の場合、年 60 度の変動の原因は 主に何なのだろ
うか、と言うのが疑問点です。

  夕べ便所で考えた (^^;) ところでは、自転/公転と同じ方向に長径が引きず
られて行くのは、赤道の膨らみによって、近地点付近に来た衛星が強めの重力
を受け、近地点後の軌道が少しずつ「内側」に引っ張られることが主要因では
ないか、などと想像しています。

  太陽や月の重力だとすると、通年で考えれば逆方向の場合もあって相殺され
るでしょうから、いつの方向に継続変化している説明には使いにくくて…。

# 考え事をするのに便所は最高です (^^;)。私が仕事中にトイレに行くのは
# 決してサボっている訳では…。

>  計算で長い将来を予測できるかというと難しくて、軌道傾斜角や離心率も
> 月や太陽、太陽光圧で変わるため、これによって昇交点赤経と近地点引数も
> 変化を受けることになります。

  実際のアマチュア衛星通信では「軌道は様々な事情で変化するから、将来の
予測は難しいので、常に最新の軌道要素を使って衛星の正しい位置を予測する」
ことだけを心がけていればいいのでしょうが…、私がなんで、このようなこと
を急に気にするようになったのか、それについては こちらの Web BBS に参加
するようになったからです (^^;)。

7N4IUR 福田さんの「新衛星企画掲示板」
http://www.7n4iur.com/ns_bbs/yybbs.cgi

  皆さんも企画に参加して、まずは基礎知識を積みませんか? (^^;)。

  そう言えば、先の投稿では軌道傾斜角の変動については考えていませんでし
たね (^^;)。軌道要素から引っ張り出した数値変化はこうなってます。

日付      軌道傾斜角
2002/03/07  7.2171 +
2002/02/07  6.9923 +
2002/01/03  6.7642 +
2001/12/06  6.5626 +
2001/11/01  6.2627 +
2001/09/07  5.7929 +
2001/08/02  5.5413 +
2001/07/05  5.3717 +
2001/06/07  5.2384 +
2001/05/03  5.2203 -
2001/04/05  5.3060 -
2001/03/01  5.5180 -
2001/02/01  5.8370 -
2001/01/04  6.0402 ↑

  なるほど…単純な変化ではありませんね (^^;)。

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Yoshihiro Imaishi 今石良寛 - 福岡県北九州市
JF6BCC/KH2GR
jf6bcc@jarl.com
http://plaza16.mbn.or.jp/~palau/
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