子宮頚ガンdiary
【その1】

〜発 見〜


5/7
不妊治療を開始しようと、J医大に初めて行く。生理は全く順調、何も問題なかったが、1年半前初めて近所の産婦人科でガン検診を受け、筋腫があること、排卵していないようであることを告げられ、大変ショックを受けた。筋腫は特にすぐ取らねばならないというものではなかったが。結局その産婦人科は不妊治療にはあまり積極的でない印象を受け、なんとなく行かなくなってしまっていたのだ。しかし、年齢的にも差し迫ってきたので、やっと重い腰をあげたというところだ。この日、ガン検診・内分泌検査・クラミジア検査をする。次は2週間後に来るように言われる。
5/24
先生は私のカルテを見て、ひどく慌てた様子。ガン検診の結果がクラス4で、明日にでも精密検査をした方がいいという。「あなたはガンです」「ガ〜ン」と心の中でひとりボケていたが、マジにすごいショック。結局精密検査は予約がいっぱいで、次の生理を考えて2週間後となる。あんなに慌てた様子だったのに、半月も先でいいの〜?と不安。この日は念のため、体ガンの検診をする。これは少し痛かった。帰り道、知らずに涙が溢れてきた。夫に報告しながら泣けてきた。その夜、インターネットで情報収集。この時は地方自治体の検診のお知らせだの、論文だのばかりで、体験者の声的なものは検索にひっかからなかった。うちの環境がmacでネスケのせいか、細胞診のクラス分類(ローマ数字)が文字化けしているものばかりで、イライラした。(だから私は算用数字で書く)どうやらクラス4というのはほぼ間違いなくガンらしい。絶望的な気持ちになる。そういえば、1年半前の検診でも再検査だった。確かそれは受けて、結果を聞きに行かなかったかも…(次は基礎体温を持ってこいと言われていて、なかなかつけるのが続かなかったせいだ)ごく近所の病院だったので、ガンだったら当然教えてくれると思っていたし。(その時は筋腫&不妊の方がショックだった)もしかしたら、あのとき既に…何て私ってバカなの!!と余計落ち込む。
6/2
精密検査。きょうから婦人外来でなく腫瘍外来になる。生理が予定より早く終わったので電話をしてみたら、キャンセルがあるとのことで、予約日より6日早く受けることができた。向こう側でコルポスコープを見ながら、「モザイク状の細胞がなんたらかんたら…」と話しているのが聞こえる。やっぱり絶対ヤバイ、と思った。
6/9
結果は高度異形成と0期のガン(上皮内ガン)の間くらいとのこと。レーザーによる円錐切除という方法が検査と治療を兼ねると説明を受ける。入院・手術に同意する。入院は大部屋指定だとだいぶ先になってしまうというので、どこでもOKで連絡を待つことにする。生理中を避けるので、1ヶ月から1ヶ月半くらい先になるであろうとのこと。この日は手術にあたっての血液検査を受ける。ガン保険に入っていると言うと、先生は、A社だったら上皮内ガンは対象外で、上皮内ガンまで支払っていたら保険会社が破産しちゃうと言う。それって、すごくポピュラーな病気ってこと?たいしたことないの?この一言で、少し気持ちが軽くなった。この日から保険の見直しを考える。というか、今まで全く保険などに対して無頓着だったので、初めて「あるじゃん」など買ってみて、いろいろ資料を集め始める。ガン保険は会社の団体契約で10年ほど前になんとなく加入していたのだが、こんな時に役に立たないなんてちょっと腹たつし、最近は女性特有の病気に篤い保険などもあるようだし。ついでに、全くどんぶりだった家計簿もつけてみることにする。そういえば、この日はどう見ても20代前半という女の子も母親同伴で同じ検査に来ていた。20代で検査を受けるのも珍しいが、こんなに若くてさぞやショックだろう。ここは2段構えの待合い室になっていて、内側だと中の話が結構もれてくる。彼女は細胞診が3-aだったらしい。3-aなら全然心配することないよって言ってあげたかった。この頃、インターネット検索でようやく体験者の方が作ったHPを見つけ、多くの生の声を知ることができた。これはとても励み、慰めになった。自分だけじゃないということ、これからどんなことが起こるのか大雑把でも知ることは、無知から来る落ち込みは不要だと言うことを認識できてよい。でも気持ちはコロコロ変わるけどね。
6/16
せめてかわいいパジャマでも買おうと友人と代官山キッドブルーのアトリエセールに出かける。入院のしおりの持ってくるものに「和式寝間着2枚」と書いてあったからだ。ひたすら前あきのネグリジェを探す。おまけにかわいい花柄のネグリもゲット。自分にお見舞いだ。
6/18
病院から電話。6/21入院の6/23手術でどうかという。思ったより早い。が次の生理がその頃始まりそうだし、6/23、24はハイロウズのライブがある。こんな状況ではあるが、最近よく見かける医療ミス報道から、もしかしたら死ぬかも、という思いが(大げさ)せめて最後にヒロトを見たいという気持ちになって、この日程はキャンセル。
6/23
血液検査の結果のみ聞きに行く。待ち時間が長いので、入院に備えて売店や病院界隈を探索する。前方不注意の車に危うくひかれそうになる。血液検査は何も問題なし。血は濃いと誉められた。今はそんな些細なことでもうれしい。血管は細いけど、濃い血が流れてるんだぜ、と心の中で歌う。(ブルーハーツの大好きな歌にそんなかんじのフレーズがあるのだ)その夜はライブを堪能する。もしかしたらヒロトを見るのはこれが最後になるかも、と思うと切なくなった。
6/27
病院から電話。入院が7/2、手術が7/5に決まる。土日が挟まるので1日余計な感じ。
6/29
入院に備えて(?)髪を切る。もともとベリーショートだけど。

入院までの6月は、1日1回はメソメソしていた。というのも、子宮頚ガンの原因は、ヒトパピローマウィルスによるもので、これはセックスでうつるから、この病気にかかる人はまるでヤリマンみたいな言い方をしている文献まであったからだ。先生に私はこのウィルスのキャリアなのか尋ねてみた。もしどこかで感染していてキャリアならば、夫にも何らかの危険があるかもしれない。先生が言うには、普通の検査ではキャリアか否かはわからない、手のかかるDNAレベルでの検査をしなければならないそうだ。夫に危険が、なんてそこまで心配することはないとおっしゃった。私が読んで結構傷ついた、子宮頚ガンはセックスでうつる、と断言していた本の著者は、豊富なDNAサンプルをもってして本を書いたのだろうか?きっぱりと全否定できないだけに、つらい。初体験が早いというのは全くあてはまらないし、風俗嬢でもないし、セックスをするのは基本的に恋人だけだが、若気の至り(?)でつい酔っぱらってやらんでいい人とやっちゃったってことはないでもないし、かといって不特定多数となんかはしないし、そのくらいは誰でもあることだろー、でもやっぱりあれが悪かったのか、ともう頭の中は堂々巡り。とにかく昔のこととはいえ、夫に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。これは罰が当たったのだ、などとも思えてくる。そんなに罪深いことはしていないはずだが。とにかく、ごく近しい人間にはそんな気持ちを吐露していたので、ひどく心配させた。堀江しのぶは乳ガンだっけ?清水クーコや安井かずみも子宮ガンじゃなかったっけ?と若くして女性特有の病気で亡くなった有名人がいろいろ思い出されてくる。平均寿命80歳と言われれば、自分もそのくらいは生きるんだろうな、と漠然と思っていたが、もしかしたらこの病気で来月には死ぬかもしれないと思ったら、なんだかびっくりだ。人の運命なんて一瞬先はわからないはずなのに、自分が死ぬという意識が全くなかったのだ。想像力の欠如。世界が少し違って見える。そういえば1999年7の月だ。なんだかいやな符号。遠い先のことだと思っていたのに…。病気の疑いを宣告されてから初めていろいろ調べて、子宮頚ガンは初期ならほとんど治る、決して死に至る病気ではないということがわかったにも関わらず、割とネガティブ思考な私は最悪の想像ばかりしては必要以上にメソメソしていた。0期だと思ったら病理検査で浸潤ガンだったので結局子宮全摘になってしまったとか…。そんな私に妹は神様はその人が耐えられない試練は与えないと言った。この言葉は結構救いになった。私も妹も無宗教だが。もっとたいへんな病気にがんばっている人も大勢いるのだ。小さな子どもでも。今まで子どもを作ることを先送りしてきたことが多少悔やまれる。生理は全く順調で、20代なら欲しければすぐ作れると思っていた。絶対欲しいという程ではないのだが、(自分が子どもみたいなものだからちょっと自信がない)こういう事態になってくると何がよかったのかわからなくなってくる。虐待で子どもを死なす若い親には非常に憤りを感じる。殺すならくれ!欲しくてもできない人たちがたくさんいるのに。日本もアメリカのように里親制度がもっとオープンな感じ(?)になればいいのに。

入院1週間前くらいから体調を整えるべく、なるべく2時までにはベッドに入るようにする。2年前に会社を辞めてから、私の生活は昼夜ひっくり返ってしまっていたのだ。macを使い始めると頭が冴えちゃって、朝まで全然眠くならない。IllustratorやPhotoshopを独学してきた。夫を始め私の周りの人たちは、若い頃からそういう仕事スタイルだ。30過ぎで私もそういう生活習慣に突入したわけだが、どもうそれがいけなかったのかもしれない、と勝手に自己分析。ガンの因子は誰でも持っている。それがガンになるかは遺伝的なものもあるが、生活習慣によるところも大きいのではないかと思うからだ。健康ならウィルスには負けない。だが、免疫力が低下しているとヤバイ。免疫力を強化するには、夜眠っている間に作られるメラトニンとかそういったものと、それらの働きが活発になる太陽の光を浴びることが大切らしい。(みのもんた的情報)私は全く逆のことをしている。おまけに体力が低下し始める30過ぎから…。そもそも無排卵になったのもこの頃からでは?20代後半で基礎体温をつけていたときは、ちゃんと2相になっていた。不妊の原因は環境ホルモンの影響とか、他にもいろいろ考えようと思えば考えられるが(先生はガンと不妊は関係ないと言ったが)、とにかく30過ぎてから私の体は確実に変化していったようだ。初潮が早かったから必然なのか?とにかくいろいろ考えた。周りからは考えすぎるなと言われた。ある日は人にカミングアウトしたくなり、ある日は恥ずかしい病気だから言えないという気持ちになり、6月の私の心はホントに千々に乱れていた。その度に夫に悲しい思いをさせてしまって申し訳なかったと思う。酔っぱらっては、これは罰が当たったんだ!と泣く。何の?誰も罰なんか当てやしない。でも30代も半ばになれば、私は清廉潔白です、なんて言えない。私はひどく怯えていたようだ。病気のことを告げた人には皆、検診を強く勧めた。今の私に出来ることはそのくらいしかない。今まで健康(というより丈夫)だったので、病気に関する知識がいかに乏しいか思い知らされた。女性誌などで病気の特集が組まれていても、意図的に目を背けてきたように思う。自分が当事者になって初めて知ったことの何と多いことか。保険には健康なうちに入っておくのと同様に、せめて検診を受けるなら、そのおおよその内容くらいは予め知っているべきだと思った。無知からくる余計な不安を取り除くためにも。