常設展示@

                    少女マンガで見る戦後史について


@ 展示テーマとした理由

A 博物館の視点で見る本の世界
 

  本展示では、女性とストーリーマンガとの出会いを「貸本マンガ」という舞台に着目して描写しています。

  貸本マンガは、@ 地理的多様性(大阪などの諸都市にも出版社があり、東京所在の大手出版社と比較すると、より身近に存在した。)

  A 社会的低評価(赤本出版から発展した出版社が多く、社会的評価は低く、その分、マンガ家志望者にとっては敷居が低く、手軽につきあえた)
  という二つの特徴を持っていました。牧美也子さんのデビューの経過は、このような事情を端的に語っています。

  形として女性解放が実現しても、現実の社会でそれを実のあるものにするためには、ねばり強い努力の過程が必要でした。貸本マンガは、ストーリーマンガに出会い創作の意欲を燃やす萌芽したばかりの女性のエネルギーが発揮される舞台として、極めて重要な役割をになったといえるでしょう。いまさら貸本でもあるまい、ということになるかもしれませんが、今日の女性マンガの隆盛を語る時、貸本マンガの果たした役割はもっと評価されてしかるべきではないか、という感を否めません。このような思いが、常設展示のテーマとして「少女マンガで見る戦後史」を選ばせたということができるでしょう。






 


  

  別の角度から常設展示を考えてみましょう。
  博物館は、いうまでもなく、資料の展示によって観る方とのコミュニケーションをとる所です。本物(第一次資料)との出会いという体験的性格が強く、観る側の個性的アプローチが可能で、ともすれば間接情報に傾斜しがちな昨今の状況で、社会的に果たす役割は、これからますます高まるのではないかと思われます。
  個性的アプローチが確保されたシステムは、見せる側の一方的情報提供ではない、つまり観る側が展示資料から独自に情報を引き出すことができるというフェアな、民主的ともいえる性格を持っています。
  情報が氾濫する中で、博物館のこの働きは、言葉だけで知っているつもりになっている危うさや、自分自身の五感でとらえることの意義、自立した判断力の涵養などの次元で博物館が果たすべき可能性を物語っています。

  現代マンガ資料館では、このような観点から、常設展示以外に、広く本の世界を紹介する活動を行っています。たとえば、「化石」としう存在を本や映像からの情報として知っている場合よりも、化石の実物に接したり、化石の実際の発掘体験から得た情報を加えてみるならば、化石としう存在がずっと立体的に見えるのではないでしょうか。「本」の世界も今までと違って見える可能性があります。本の力をもっと引き出すうえで、博物館の働きは大変重要であるといわねばなりません。
  図書館の働きと重なる点があるでしょうが、あくまで博物館の視点から行う本の紹介方法です。
  常設展示「少女マンガで見る戦後史」も博物館による「マンガ」のひとつの切り口で、歴史民俗資料としてマンガをどう扱うことができるか、という一例として扱ったものです。