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CONTAXの各製品群は京セラとツァイスとのやりとりによって企画立案されるという。
CONTAX G1の製品企画は京セラから行われたそうだが、レンズのラインナップを検討する段に来てホロゴンだけはツァイス側から提案されその熱意に京セラもラインナップに加えることにしたそうである。
もしかするとホロゴンだけがドイツ製造であるのはそれに関連があるのかもしれない。

それほどツァイス側がこだわった"ホロゴン"とは。

 

 

Hologon T* 16mm f8
の参考リンク

ツァイスの公開する
データシート



写真はすべてグラディエーションフィルタなし

 

 

"ホロゴン"というレンズ

ホロゴンと言う名前はどこか特別な響きがある。
その名前はギリシャ語のホロスから来ていて、それは全体をあらわす言葉だと言う。つまり全てをうつす究極の超広角レンズであるというわけだ。
ぼくが今手にしているホロゴンはG1用の交換レンズである16mm f8というスペックのものだ。そしてそれはわずか125gしかない。

専用のケースに収められた姿はレンズと言うより宝石を思いおこさせる。

ホロゴンはプラス志向のレンズである。
日本のように減点法で評価される文化とはまさに対極にあるといえる。

もし減点法でホロゴンを見ればどうなるだろう。周辺光量は著しく落ちるし、絞りはf8固定で変えることが出来ない。さらに指は写り込むし、これではダメだということになる。
そしてきれいな形をくずしたっていいし枚数が増えてもいいから平均的な良い子を作ろうとする。そしてどこといって特色はないけど悪いところもないものが出来る。

しかし、ホロゴンは違う。

加点法でみればどうなるだろう。世界にこれほど歪曲のない超広角レンズはない。シャープネスも高く、色のりやぬけの良さは定評あるGレンズの中でさえトップである。おそろしく軽量かつコンパクトであり、ボディ前面よりわずかしか張り出しがないためにレンズを付けたままでも抜群の携行性がある。
そしてなんといってもホロゴンはそれ自体美しい。まさにその個性に比肩するものはないのである。
別ページで書いているようにツァイスのレンズは単に焦点距離が違うと言うだけでなく、それぞれに個性豊かな描写を見せてくれる。ホロゴンはその代表格のひとつだ。

そう、これは単に焦点距離16mmのレンズではなく、まさに並ぶものなき"ホロゴン"というレンズなのである。






........



G1, Hologon, RDPIII



G1, Hologon, RVP

ホロゴンへの道

ホロゴンの美しさを代表するあの半球面へ至る道、まずそれをたどってみよう。

対称型レンズの典型とも見えるホロゴンが実はレトロフォーカスレンズの要素も併せ持つ、というと多くの人は多少戸惑うかもしれない。
そもそもレトロフォーカスとは逆望遠タイプのレンズの通称でもともとはホチキス(正しくはステイプラー)やセスナと同様に一般名ではなくある商品の固有名称である。
  *1

その逆望遠レンズのように前面に大きな凹レンズを置くと主点(レンズの光学的中心)が前方に移動しバックフォーカスを稼ぐことが出来る。 fig.1
これは一眼レフの登場によって逆望遠タイプのレンズが必要とされた要因である。
しかし逆望遠では15mmのような超広角をレトロタイプのレンズで作るときにはこれをさらに何段も多段式ロケットのように重ねてバックフォーカスを稼ぐ必要がありレンズは肥大化する。
  *2

他方、歪曲や他収差が効率よく補正される対称型レンズだが弱点もある。
たとえば原始的な超広角レンズであるハイパーゴンやトポゴンのようなボールタイプのレンズではコサイン4乗則といわれる収差をまともに受けて周辺では中心に比べてわずか数パーセントまで落ちるということがあげられる。   fig.2
その問題点を解決するために逆望遠レンズを背中合わせに対称に貼り付けるという発明がされた。
バックフォーカスが稼げると言うほかに、逆望遠タイプのレンズのもうひとつの利点として大型の前玉により開口効率があげられ周辺の光量を稼ぐことができるという利点もあるのである。これはロシアのルシノフが制作したリアー6というレンズが初めらしい。   fig.3

それをゾナーの父として有名な天才ベルテレが航空測量用のレンズとして応用し、アビオゴンというレンズに発展させた。それをハッセル用のレンズとして改良させたのがビオゴンである(1950年頃)。

lens-closeup.jpg (14923 バイト)

そしてビオゴンを究極的に洗練・単純化したものがホロゴンであると言える。
ホロゴンでは周辺光量は中心の約20%に落ちるが単純にコサイン4乗則にしたがうならもっと光量はおちるのである。それをある程度実用できるレベルに引き上げたのが上記の過程である。つまり巨大なホロゴンの半球面はそうした意味が
あるのだ。これが一見トリプレットのようにも見えながら、凸凹凸のトリプレットタイプとは反対に凹凸凹となっている理由といえる。
ホロゴンでは7枚から8枚もあったビオゴンの硝子を一気に3枚に減らした。中央の凸エレメントによって絞りを置くことができずに明るさはf8固定である。
まさに究極の進化・単純化が図られたわけだ。少ないレンズ、シンプルな構成、これがホロゴンの発色の良さをはじめとしたすばらしい描写力の秘密でもある。

ビオゴンからホロゴンまで10数年の月日があるが、この間レンズ設計は電子計算機の導入で劇的に発展した。ホロゴンの父であるグラッツェル博士は同時にレンズ設計に計算機を導入した功労もある。それが究極的なまでの洗練をもたらしたのだろう。

こうしてホロゴンは生まれた。


 

 

 

 


fig.1 レトロフォーカスタイプ

リタゴン f3.5
逆望遠タイプのレンズは現在では複雑化しているが、当時の逆望遠レンズを見るとその成り立ちがわかりやすい。
これは初期の逆望遠レンズだけれどもトリプレットそのままの主群の前に大型のメニスカス(三日月形状)レンズがおかれているのがわかる。


*1:シネ用のアンジェニュー・レトロ
(1945年頃)から来ているらしい
*2:たとえば後に出るグラッツェル博士の発明したディスタゴンの特許はUS特許3864026として登録されており、この実施例のひとつがヤシコンにもラインナップされているディスタゴン15mm f3.5である。

 

fig.2 初期の対称型レンズ

ハイパーゴン(画角135)
ハイパーゴンでは風車を回してグラディエーションフィルタのように光量を均一化していたという。

 

fig.3 近代的な対称型レンズ

リアー6 f5.6
これはその後ルサールという名前で改良され現在でもロシア製レンズの代表の一つとしてLマウントで入手することが出来る。

ビオゴンタイプ
これは現在でもSWC ビオゴン38mm f4.5という形で存続している。成功したビオゴンは90度画角のものを中心として大判の75mmから135用の21mmや35mmまで多種多様なものがある。
シュナイダーではこのタイプはスーパーアンギュロンと呼ばれる


 

enoshima.jpg (26767 バイト)

G1, Hologon, RVP

ホロゴンの歴史

ホロゴンはまず15mm f8(画角110度)として1966年のフォトキナで右のような単純な形のプロトタイプとして発表された。   fig.4

そして1968年のフォトキナでコンタレックスのボディにファインダーとともに組み込まれて発表された。これがホロゴンウルトラワイドである。これによりコンタレックスのアクセサリーでもある交換式マガジンなども使用できるようになり実用的なものとなった。絞りが変更できないことをこれによってカバーしようとしたのかもしれない。
ピント位置の変更はできずにパンフォーカスのみの使用である。また指の写り込みを防ぐためにハンドグリップもアクセサリーとして用意された。また科学記録用としての用途としても考えられていてライカMDのようにデータプレートの差込口も用意されていた。


その後、1972年のフォトキナにM型ライカの交換レンズとして登場し、約400本前後がその形態で発売されたらしい。このタイプからホロゴンにフォーカシング用ヘリコイドが付くようになった。M用ホロゴンでは20cmまで距離目盛がある。


そしてしばらくの空白期間があった。この間に時代は一眼レフのものとなり、極端にバックフォーカスが短くとても一眼レフには使用できないホロゴンは消え去ったかに、見えた。

しかし1994年のフォトキナでホロゴンはG1用の交換レンズとして蘇った。G1のフランジバックは29mmと短い。そしてレンズの光路とは独立した測距機構がつくレンジファインダータイプのため、内部にミラーなどの余計なものがなく極端に後玉の張り出すホロゴンやビオゴンが装着可能となったのだ。
こうして古く豊潤なワインはあたらしいグラスに注がれた。

このシステムにおいては16mm f8(画角106度)と変更されたがこれはシャッター位置との兼ね合いがあるらしい。またそれまでは3群3枚のシンプルな構成であったが前玉と中央のレンズが張り合わせとなった。これは製造上の理由らしく基本的な光学設計の考え方はほぼ同じである。   fig.5
またこのタイプからホロゴンはT*コーティングを得た。旧タイプはノンコートである。
ウルトラワイドは850gあったので、G1にホロゴンをつけるとファインダー込みでさえさらに軽量なカメラとなった。

こうして私の手元にいまホロゴンがある。

 


 

 

 

 

fig.4 ホロゴン・ウルトラワイド

ホロゴンウルトラワイド
(1966年発表のプロトタイプ)

後にファインダーの付く場所にはHOLOGONというロゴのみが見える。

 

ホロゴンウルトラワイド
(1968年発表の製品版)

ホロゴン・ウルトラワイドは2000年現在では約70万前後の市場価格がある。
またM用ホロゴンは約100万前後で取引されている。

 

fig.5 新旧のホロゴン
h15-lens.gif (3576 バイト)
初期の3枚レンズ構成
h16-lens.gif (3331 バイト)
G用の5枚構成

 

reala.jpg (38002 バイト)

G1, Hologon, Reala

 

ホロゴンのルール

ハッセルユーザーはシャッターを切ったらすぐチャージするというようなハッセルのルールを知らなければならないように、強い個性をもつホロゴンにもユーザーが知るべきルールがある。
こうした約束はユーザー固有の秘め事にも似て楽しいものでもある。

まず通常のレンズのように鏡胴がなく、レンズの先端がほとんどカメラの前面にあるため指の写りこみに注意することが第一のルールである。

特に右手のホールドに注意していると左手がわの指にすきが出来るので注意が必要だ。この辺のテクニックで各人各様の個性が発揮される。

case2.jpg (7346 バイト)
これを防ぐために市販グリップの使用などもあるが、コンタックスG1専用のアクセサリーとしてホロゴン専用のケースと言うのがある。
これはホロゴンとファインダーを装着したままケースに入れることが出来るものであるが、もう一つの特徴としては右側に指をからませるグリップ・ストラップがついていてこれを握ってホールドすると指の写り込みを効果的に防ぐことが出来る。
携帯性は抜群で厚みがほとんどG1と同じため、バッグにもするっと入る。
fig.6


次に後玉がフィルム面に極端に接近しているためのこのレンズ固有の事象を知っておいた方が良い。ちなみにホロゴンウルトラワイドではわずか4.5mmであったという。
このためホロゴンを装着したときはG1は自動的に外部測光に切り替わる。これで通常のTTL測光ができないホロゴンでさえAEの使用を可能にしている。これもGシリーズならではの有利な点だ。
しかし他のレンズのTTL測光の場合に比べて、この測光値がややオーバーにふれる傾向があるようだ。これはG2でホロゴンを使用したときも同様の傾向らしく意図的なもののようである。
理由としては露出がオーバー気味にはいると周辺減光が目立たなくなると言うのもある。また一般にホロゴンのような後玉がフィルム面に近接しているレンズではボディ内のフレアの影響を受けにくいため、コントラストが強くなりシャドー部が急に落ちる傾向にある。それを救う意味もあるのかもしれない。

また、後玉がフィルム面に近いためネガティブサイズ(露光サイズ)が135フォーマットの基準である24x36よりもやや広がる傾向もある。   fig.7
これは通常のレンズよりもレンズ後端からフィルムに光が届くときの角度が広くなることから来ているらしい。ウルトラワイドでは24.5x37.4とデータにあるが、ほぼコマ間がなくなる現象も起きるともいう。



フォーカスは目測のマニュアルフォーカスだが30cmまで可能である。これはホロゴンの撮影を広げてくれる。こうしたときでもフォーカスエイドとしてAFを使用できるのがG1らしい。AFが距離を表示してくれるのである。
ピントリングの移動はスムーズで気持ちが良い。これだけの超広角だとパンフォーカスでも60cmから無限まで合うが近接させるとそれなりに被写界深度が出てくる。ファインダーはクリアで見やすい。
レンズの目盛りでは1.5mにセットするとパンフォーカスができるようになっているけれども、以前私が計算したときには2.0mが過焦点距離だったのでこのスケールだとやや甘いかもしれない。


また記録的に撮りたいときなどのように周辺減光がどうしても気になるときには付属のグラディエーションフィルターを使うことになるが露出倍数が2段あるので手持ちのときはかなりつらくなる。 fig.8
しかしこれは絞り固定のホロゴンでシャッター速度をコントロールしたいときの手段の一つにもなる。



そして実写におけるホロゴンは真にすばらしい写りを見せる。基本的にはGレンズの線に沿った写りだが、構成枚数の少なさからか発色の濃さと透明感は発色のよいレンズばかりのGレンズの中でさえトップと言える。また対称型の特性としてシャープネスもまた高いレベルにある。ただし上述の通りコントラストはやや強めになる。

これほどの超広角にしては意外にもゴーストにも強く画面内に太陽をいれてもゴーストは出ない。しかし、画面外のある角度に光源をおくと簡単に発生するようになるのでこれも慣れておいたほうが良い。

 


 

 

 

 

fig.6 G1ホロゴンケース

withcase2.jpg (8111 バイト)

how2use2.jpg (5756 バイト)


 

fig.7 コマ間

(同縮尺)

S90コマ間

H16コマ間

komakan-s90-2.jpg (2059 バイト)

komakan-h16-2.jpg (2492 バイト)


 

fig.8 グラディエーション・フィルタ

filter-nashi2.jpg (6879 バイト)
フィルターなし

filter-ari2.jpg (7274 バイト)
フィルターあり

 



G1, Hologon, RVP



承前 "ホロゴン"というレンズ

一般に超広角レンズは鉛直に使用してあたかも28mmや35mmで撮ったかに見えるように超広角の匂いを消して撮るのが良いともされる。それも方法の一つではある。しかし、もし超広角が単に28mmでは引きが取れないところを広く写す為だけのものなら超広角とは用途がどんどん限定されていくように思える。
実際わたしは一眼レフ用に14mmなるレンズも持っているが、これの使い方はまさにそのとおりで必要なとき以外にもちあるくことはない。

上記に書いたような教科書的なルールは形をゆがませないで遠近感を生かすといった技術であって、学校ではないのだから技術自体が到達点というわけではないはずだ。
もし用途や撮影方法を限定しないならレンズの使用は標準や超広角というカテゴリーを越えてその可能性を探ることができるはずだ。

ホロゴンは一眼レフの超広角のように巨大ではない。
その携帯性のよさとあいまって常用して使いつつ、その独特の描写力でなにかドラマティックな別の世界を見せてくれるような気にさせるレンズである。


たしかに使いこなしは容易ではないけれども、単に16mmの超広角レンズと言うタグを越えた「ホロゴン」と言う名のレンズがここには、ある。



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