このズミクロン35ASPHはその非球面ズミルックスの直接の流れを汲むレンズであり、97年に登場した。
プッツ氏のLHASAでの文によると前出の初代非球面ズミルックスは設計に2年ほどかかったがこのズミクロンは1年かかっていないそうでそのデータが有効に活用されたことがうかがえる。
このズミクロンASPHは他の世代レンズと比べて「非球面」と区別されるように非球面が一面使われていることが特徴である。非球面の効果はさまざまあるが、このズミクロンにおいては絞りに近接して非球面が設けられているので主に球面収差の除去に用いられていることがうかがえる。
ズミクロン(F2.0)は今日的にはさほど大口径とはいえないので、これは口径比などに起因する球面収差を小さくするために用いられると言うよりはさきの特許の文面から考えると、周辺の収差を抑えるため両端に凹面を増やしたことなどにより球面収差が副次的に増えるのでそれを抑えるために非球面を組み合わせた、と考えられる。
おそらく最初期の二枚非球面タイプのズミルックス35では周辺画質を向上させるために直接的に非球面を用いようとしたので絞りからやや離して二枚の非球面を配置したが、両凹面の効果が十分だったので非球面ズミルックス35(現行型)からはコストを考えて一枚のみに減らしたのだろう。
そして上記の分担を考慮して絞りに近接配置にしたのではないだろうか。非球面ズミクロンはその考え方を引き継いだものと推測される。
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非球面ズミルックスから変わった大きな点はコンパクト化に苦心しているということだ。ブライトフレーム式のRFの場合レンズが大きいとファインダー視野がけられるためにコンパクトなレンズ外形が要求される。
RFではレンズ設計に制約が無いともよく言われるがこうした制約は存在すると思う。ちなみにAFズームファインダーのCONTAX G1が有利なのはこの点であろう。
非球面ズミルックスは先代のズミルックス35から比べてもかなり大型化したが、レトロと同様に凹リードのタイプは必然的にレンズが長くなるのでいたしかたないかもしれない。
ただズミクロンの場合は常用性が求められるため、コンパクト化は必須の命題だったのだろう。そのためレンズの最後部はかなり大きな凹レンズ(マイナスのパワー)になってテレタイプ化が計られいるようだ。またレンズ後端自体もかなりマウント面からでっぱったものになっている。
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広角でテレタイプというと不思議な感じもするが、テレタイプは望遠を表すというよりレトロフォーカスの逆(レトロが逆望遠と呼ばれることを思い出してほしい)でありレンズの全長を小さくするための凹面が後端についた構成を指す。たとえば現行のエルマリートM90は凸で終わっているが、わざわざ「テレ」を冠されたテレエルマリート90(thin)は凹で終わっている。またコンパクトカメラにおいてはテレタイプの広角は珍しくはない。
この一つ前の7枚玉とも呼ばれる先代ズミクロン35はかなりコンパクトなレンズだったので大型化したように感じられるかもしれないが、非球面にはこうした工夫がされている。
そうした工夫によってもこのレンズはやや大きくて付属の角型フードをつけるとファインダーが少しけられてしまう。
旧タイプの12504フードをつけてみるとやや改善されるがやはり繰り出すとややけられてしまう。
わたしは12504フードを使用しているが、この場合はキャップがつかないので晴天下では幕焼けに少し気を配る必要があるのだろう。
このレンズを実際に手にとって見ると昔のツァイスレンズのように大きさの割りにずっしりと重く感じられる。この重さからかなりの高屈折率ガラスを使っていることがうかがい知れるようだ。
写りはさすがに開放でも全域で文句の無いシャープネスを持っている。ただ少し光量落ちはあるようだ。
またこのレンズは単にシャープネスが高いというよりも、諧調再現性にすぐれていてとても立体感のある丸みのある像を作ってくれる。またボケ味もとてもライカらしくなだらかで、ピント面からスムーズにつながっていく描写はまことに美しい。単に最新のシャープネスのみ追求したものではなくライカの美点を現代に移し替えたようにも思える。
さきのプッツ氏のLHSAでの文を借りるとライカでは現在においてもひとつのレンズ設計は主にひとりの設計者の主導の下で行われるそうで、設計者の技量が生かされやすいのではないかということだ。
そうした点がこの非球面ズミクロンでも現代的な写りの中にもライカらしさの残るゆえんであり、ライカ社が現代でも最新の技術を生かしながらもライカユーザーのことを考えていてくれることを示しているのかもしれない。
(2003/10/7)
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