〜 面構の巻 〜

 「..さぁ、もっとよく顔を見せておくれ。」
お輪に促され、4人の戦士達はおずおずと一歩進み出た。
壊し屋の当主・岩石王、大筒士の菊玉、拳法家の鶴丸、槍遣いの亀丸。
朱点を倒し、やっと悲願を果たすことが出来た。
これが、初代当主の生みの親、お輪との本当の対面なのだ。
「あぁ、お前たちが、私の可愛いあの子の..子孫...」
涙にむせぶお輪の言葉が、途中で途切れた。





 話はさかのぼる。
この月の始まりの事。
当主岩石王の健康は思わしくなかった。
いかに高価な薬を用いようとも、その場しのぎに過ぎない。討伐に出ようが屋敷で静養しようが、月が変わればおそらくもう生きられまい。
「次の当主はお前、菊玉だ。わかっているな。」
「父上...。」
菊玉が整った眉を寄せ、うつ向く。生まれた時はてっきり女の子だと皆から思われた、優しく美しい顔立ちが、悲しみに曇る。
手先が器用で機械や道具いじりが好きな菊玉は父の職業を継がず、大筒士となっていた。

「フフ、お前は誰に似たのか几帳面だから、俺よりもずっと良い当主になるさ。」
岩石王は、この歳になっても豪放な戦いぶりで生傷が絶えない。その歴戦の傷跡に負けない程多くの戦勝点を稼ぎ「成長終了」となった能力は一族随一だ。
年若い菊玉は、体力も攻撃力も、とうてい父にはるか及ばない。
「そんな、父上..。鶴丸も亀丸も、まだやっと一人前になったばかりなのに...。」
鶴丸・ 亀丸の双子は、先月の初陣でめきめきと強くなったとはいえ、やはりまだ若輩だ。たった一ケ月の戦いで、体力こそ菊玉に一気に追いついたが、さまざまな術はやっと覚えたばかり、経験はまだ浅い。

「うむ、確かに、俺が死んだらお前たち3人で朱点打倒に臨むのはちとキツいだろうな。」
岩石王の存命中に、4人で最終決戦に臨むか。それとも、新たな子供が育つまで先送りにするのか。
 素質の高い菊玉が子供を作れば、一族はもっと強くなるだろうが、交神、訓練、初陣と、合わせると何カ月もかかる。

「鶴、亀、お前達は、どうだ。今月すぐに、最後の戦いに出たいか。」
「もちろんです、父上!」
兄の鶴丸が、座ってなどいられないというように跳ねるように立ち上がり、拳を打ち合わせる。
小柄で身ごなしの素早い鶴丸は、拳法家になるために生まれてきたような若者だ。肌までもがつるりと滑らかで、格闘になれば相手に手がかりを与えない。弟の亀丸は、重さでは兄の倍近くあるのに、何度も相撲を取っては兄に負かされていた。
「お前は、どうだ、亀。」
「..もちろん私も。」
本当に双子かと思うほど印象の違う亀丸は、畳に手を付き、実直な瞳でひたと父を見据えている。
その名の通り、時に鈍重にさえ思える彼は、だが兄よりも強力な攻撃力を持つ槍の名手に育ちつつあった。

「そうか。...ならば、..」
そんな双子の息子たちの様子を満足げに眺め、それから、長子・菊玉に視線を移すと、岩石王は、ゆっくりと口を開いた。
「紅后家は、今月今より、朱点打倒の最後の戦いに向かう。」





 「菊玉、道具の選別をお前に任せる。決まったら声をかけてくれ、俺が見よう。」
「はい、父上。」
 さまざまなアイテムに対する菊玉の知識と、それらを使った戦略は岩石王も一目置いている。

 蔵に入り、菊玉は一人じっくりと考え始めた。
(普通に一ケ月進んだだけではとうてい朱点のもとにたどり着けまい。「時登りの笛」は必要だ、それも複数..)
「時登りの笛」を効果的に使い、双子たちをたった1ケ月間の初陣で一人前の体力値にまで育てあげたのは、菊玉のアイディアだ。
(「養老水」は緊急時のために最小限持って行くにとどめよう。父上の寿命では、どんなに養老水を使ったところで2ヶ月にまたがる遠征は駄目だ。体力の衰えは防げない。「時登りの笛」を複数使って1ヶ月以内で朱点を倒さねば..。)
父の事を思うと菊玉の胸は痛んだ。
あの強い父が死んでしまう。父は菊玉にとって力の象徴だ。そのまさしく鬼神のような戦いぶり、凄まじいまでの破壊力。
菊玉の持っている中で最強の大筒の威力も、父の大槌の前ではオモチャみたいなものだ。
(父上...。)





 こうして、紅后一族4人の男たちは、最後の戦いにおもむいた。

率いるは、一族一の力を誇る破壊神、当主岩石王。
続くは、様々な武器を道具を自在にあやつる知将、菊玉。
はやる心を抑えきれない、華麗な舞の如き疾風の速さを誇る、鶴丸。
しんがりを守るは、最も年少ながらすでに一族の重鎮、亀丸。



 そして、ついに彼らは朱点を倒した。

 長き苦難の果て、朱点のいましめを解かれた天女お輪は、こうしてようやく我が子の末裔たちの面ざしを心ゆくまで眺める事が出来るのだ。

 「..さぁ、もっとよく顔を見せておくれ。」
お輪に促され、4人の戦士達はおずおずと一歩進み出た。
これが、初代当主の生みの親、お輪との本当の対面なのだ。
「あぁ、お前たちが、私の可愛いあの子の..子孫...」
涙にむせぶお輪の言葉が、途中で途切れた。

絶句したままのお輪の視線が、岩石王から4つの顔を順ぐりに動いてゆき、亀丸で止まるとまた、順ぐりに戻ってゆく。
その目は大きく見開かれ、驚きに言葉も出ないようだ。
そして。

「うぷっ...ぷぷぷぷぷっっ!..」
お輪は吹き出した。
「お、鬼!!」
笑いながら、岩石王の額からにょっきりと生えた角を指さす。
「ツル..つるっぱげ!!」
これは鶴丸の事だ。
「ハハハ、河童ハゲの上に、ナマズ髭まで生やして..」
亀丸は点になった目をしばたたいた。
「私の、..かわいい子孫が..鬼と一休さんとナマズ河童だなんて..ハハハハ、なんて面構えだ!!」
顔に似合わず、お輪は男のように豪快な笑い方をする。
なまじ人並み以上の美貌の菊玉が間に混じっているだけに、他の3人の異様な風貌がいっそう引きたってしまうのだ。

「は、母上...。」
唖然とする4人の中で、菊玉がやっと立ち直り、なんとか言葉を継ぐ。
「母上、..確かに父は角が生えていますし、弟たちは、確かに、鶴丸はハゲていますし亀丸も河童ハゲにナマズ髭を生やしてはいますが..た、確かに..鬼と一休さんと..う..うぷぷ...ホ、ホントだ..」
憤然と抗議するつもりが、菊玉はとうとう途中で陥落してしまった。

「ヒドイよ、菊玉兄さんまで..だけど..亀よぉ、お前..『ナマズ河童』だって..俺だってそこまで言わなかったのに..ぷぷぷ..」
「..そっ、そう言う鶴だって..ハハハ..」
鶴丸・亀丸の兄弟も、互いを指さして腹を抱え笑ってしまった。
「..家では気を使って、誰もお互い面と向かって言わなかったのに..。母上って..口が悪いんですねぇ。」
菊玉が笑い涙にまみれ、息も絶え絶えになりながら言った。

「オニ。..鬼だとぅ。」
一人不満そうな岩石王が、いかにも鬼然として目をぎょろつかせる様子に、それを見る者たちはまたついつい笑いを誘われてしまうのだった。

 不謹慎にゲラゲラと笑い続ける彼らの態度が、一度は倒したはずの朱点を逆撫でしたのかもしれない。
朱点はこの後復活し「阿修羅」となり、彼らはもう一度、しなくても良かったかもしれない戦いをしなくてはならなかった。

















 これは「実話」です。面白くしようと思って作ったわけではなく、本当に、ゲーム上でこの顔ぶれが最後の決戦メンバーだったんです。俺屍、おそるべし(笑)。






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