店主の一族は「紅后」。戦記の題名は「闘神紅后伝」です。
初代当主を女にしました。ちなみに男で始めるなら「白王」にしようと思います。
 名前は、各キャラクターの髪の色や雰囲気などから連想して、焔の燃える色または宝石や貴石のイメージなどを中心につけています(ちっとも人の名前らしくないのですが)。

 当主の職業は2代目からはずっと弓遣いです。序盤から前半戦の出撃隊構成は弓・槍・薙刀、の3人。より高い奉納点の神と交神するためにあえて少子化戦略。前半のヤマ場「○○○○打倒」(これからプレイする方のためにネタは明かしませんが)も3人で果たしました。

 しかし子供の訓練のために1人が残り、あとの2人で出撃する状況は不便な上、中盤戦レベルアップした敵に対して不利なので、一人増やしました。職業をどうしようかと迷ったのですが、この頃の戦闘では後列の敵の数を減らしたい事が多かったので前列しかも単体の攻撃しかできない剣士はあまり欲しくなかったし、弓遣いは常に出撃可能な者が欲しかったので、2人目の弓遣いにすることにしました。


〜青の巻〜

 母は偉大な弓遣いだった。

 青輝珠は、母の顔を知らない。大きな脅威であった強大な敵を倒した討伐隊の隊長であった母。凱旋後、兄の清晶珠を産み育て上げ、その初陣には母子揃って出陣もし、はや老境に入る歳となった母、紅鋼珠が、「もう一人、子が欲しい。」と言い出した時、誰も反対する者はいなかったという。一子相伝、自分の血をひく子供は一人、というのが不文律であった紅后の家にあってさえ、母だけは例外だった。

 その第二子、青輝珠をこの世に送り出すのと引き換えのようにして母は亡くなった。「青輝珠」の名は、母の母「青晶焔」から「青」の字を、生き生きとした彼女の瞳の輝きから「輝」、そして紅后家の始祖の頃から連綿と続く当主の血筋を示す「珠」の文字から成っている。
「それに、清晶珠坊っちゃまは澄んだ瞳ですがいかにもおとなしそうだったのに比べて、青輝珠様の瞳はいつもいろんな物をくるくる追いかけて、きらきら輝いてらっしゃったんですよ。」
侍女長のイツ花は、お転婆だった青輝珠の子供時代を振り返って言ったものだ。
 そのイツ花から、一族の者たちから、彼女は母の武勇伝を何度となく繰り返し聞いて育った。

 兄清晶珠は、彼女が物心ついた頃にはもう立派な若武者に育っていた。母ゆずりの青い髪、白い肌。名前の通り澄んだ瞳はさざ波一つ立てぬ清冽な水を思わせる。口数は少なくもの静かな兄だったが、弓の鍛錬に励む姿には、静かに燃える焔のような闘志があった。
 「お兄様はお強いのかしら。」
厳しい武術の訓練の合間、青輝珠はふと聞いてみた事がある。
「ええ。あの子は、母君より強くなるわ。」
青輝珠の訓練にあたっている薙刀師、緑藻姫は、その名の通りの豊かなみどりの髪をきりりと束ね直しながらそう答えた。
一族の、なんといっても最大の英雄であった母、その母を越えるだろうと言われる兄とはどんなに強いのだろう。同じ血をひく自分も、強くなれるだろうか。
(今は、訓練に励むだけだ。)
青輝珠は自分にそう言い聞かせてまた、訓練に没頭した。



 「当主様がお帰りになりましたぁっ」
イツ花が兄たちの帰還を告げる。
青輝珠と緑藻姫は訓練を切り上げ、急いで着物を改めて迎えに出る。
2人の着替えを手伝いながら侍女たちはかしましく喋りたてる。
「きっとまたたくさんの手柄をお立てになったことでしょう」
「どんな宝物をお持ちになったのかしら」
「あの若さで当主様..ご立派だわぁ」

「..ちょっとちょっとぉっ、凱旋のお姿を、私、見てきちゃったぁ!」
買い物に出かけていた侍女が転がるようにして駆け込んでくる。
2人がいるのを見てはっとする。
「あっ..すみません御前なのに..」
だが、周りの侍女たちがもう黙っていられない。
「きゃーっ」「いいなぁっ」「ずるーい」
「いいわよ、姫様方だってお聞きになりたいかもしれないわヨ、ねっ、緑藻姫様っ」
緑藻姫が目元を和らげ、何もたしなめようとしないのを見るや、侍女は一気に喋り出す。
「それがもう、ステキったらないのよっ、あの青いおぐしが汗にまみれて乱れたところがまた、青白い炎が燃えあがってるみたいで」
きゃぁっ、と侍女たちの歓声があがる。
「..おケガは、まさかおケガはなかったんでしょうねっ」
「大丈夫、おケガをされている様子はなかったわ。少し肩で息をされていたようだけど、いくさの余韻かしらね、あの物静かなお方が、まだ興奮冷めやらぬ、って感じで目をらんらんと輝かせて。..あの目でキッと睨まれたら、鬼どもだってたじろぐはずだわっ」
「カッコイイっ〜」「私も睨まれてみたいわぁ」
きゃぁきゃぁと、侍女たちにも興奮が移ってしまったようである。
結局そのままお祭りの山車のように、興奮した侍女たちに担がれるようにして青輝珠は兄を迎えに行ったのだった。



 「暗くなって参りました、続きは明日になさっては。」
イツ花が倉のあちこちの窓を戸締まりしながら青輝珠に声をかける。夢中で読んでいた術の巻き物から顔を上げると、日はすっかり暮れようとしている。
「読み物をしていると時間がたつのが早いわね。武術の稽古の時は早く終わらないかなぁ、って思うのに。」
「おや、青輝珠様は鍛錬がお嫌いですか?」
「嫌い、なんて言ったら怒られそうだけど、私は術の方が好きだわ。だって、勉強すればどんどん新しい術を覚えられるんですもの。だって、弓で射るよりもずっと多くの敵を一度に倒せたり、お薬を使わなくても傷を治せたり..術ってすごいわ。」
生き生きと話す青輝珠の顔を見て、イツ花も笑顔になる。
「もっといろんな術を覚えたいわ...ねぇ、イツ花、そっちにしまってある巻き物はなぁに?私、見たいわ。」
無邪気に訊く青輝珠に、イツ花は表情を固くする。
「どうかしたの、イツ花。」
「青輝珠様..いずれお話しなくてはと思っていました、あれは青輝珠様のお母様がお書きになった奥義の書です。」
「母様が編み出した奥義..すごいわ、ねぇ、..」
見せて、と言いかける青輝珠を素早くさえぎってイツ花は言葉を継ぐ。
「これは、お兄様である清晶珠様にしかお見せできません。」
「えぇっ、だって、私だって弓遣いよ、母様の子なのよ」
「第一子の清晶珠様だけが、奥義を受け継ぐのです。清晶珠様が亡くなる前に、今度はそのお子が..代々そうして受け継がれて行くものなのです。」
「第一子だけが...」
その言葉が、青輝珠を打ちのめした。

 兄と自分は髪も目も肌の色も同じだ。同じ母から生まれて、父神は違うけれどどちらもひけをとらない立派な神様だと聞いている。弓の威力の伸びが今一つなのは兄との腕力の差でしかなく、その代り術は、この前の戦の時に「青輝珠、すごいな、私が先月覚えたばかりの術をその若さでもう使いこなすのか」と兄が皆の前で褒めたたえてくれたほどに伸びているではないか。
 いずれ兄のように強くなるんだ、兄と同じように、..と、ひたすらそれだけを思って今日まで鍛錬に耐え、恐ろしい鬼や幽鬼どもに向かって戦いを挑んできた。兄と自分を別け隔てする条件など何も無いと信じて疑わなかった。どこまでもどこまでも、何に阻まれる事なく強くなれると思っていた。自分は自由だと、思っていた...。



「青輝珠、入るぞ、よいか。」
青輝珠は泣き疲れた顔をはっと上げた。
そこに、静かに兄がたたずんでいた。
「兄様..」
小さな灯り一つの部屋で、兄の顔は美しく輝くようだった。その額に、約束された者だけの持つ誇りを、青輝珠は見たように思った。涙がまた、こみ上げる。
「青輝珠、私はお前がうらやましい。」
「うらやましい、ですって...?」
あまりにも以外な事を言われ、青輝珠は涙も、兄や母に対する怒りも忘れ、ぽかんと兄の顔を見つめた。

「お前は、母上を知らずに育ったのだったな。母上は、..よくため息をついていたよ。」
清晶珠は、青輝珠のそばにあぐらをかいて座ると、話し始めた。

「母上は、もっと強くなりたい、といつも言っておられた。父神と交神の儀のために1ヶ月、そして私を育てるため2ヶ月も出撃出来なかった事が、実は口惜しかった、と、私の初陣の前夜、そう言われたよ。
 私は、驚いた。優しく時に厳しく、私だけを愛してくれている母だと思っていたのに、本当は私のことを邪魔に思っていたのか、と思った。私は..泣いたよ。」
青輝珠は目を見張った。この完璧な兄が、母にそのように言われて悔しさに泣いた夜があったなんて..まるで今日の自分のように打ちのめされて。
「翌日は私の初いくさだった。だが一晩泣き明かした私が力を出せるはずもなく、私はただ皆のお荷物だった。だがいくさはそんなに甘くない。そんな私を狙って、雑魚の小鬼が襲ってきた。」
青輝珠は、素晴らしい活躍だとばかり思っていた兄の初陣の話に驚くばかりだった。
「小鬼に私は殺されそうになったよ。向こうも死に物狂いでかかって来るのだ。どちらかがどちらかの命を取るまで終わらない、という事がはっきり判った。そして私は死ぬのはいやだった。無我夢中で相手を殺した。...やっと我に返った時、私は気付いたんだ。母上が弓に矢をつがえ、いつでも放てるよう構えて、私の戦いを見守っていたことを。」
母上...。
青輝珠は自分の初陣の時、庇ってくれた兄の背中を思い出していた。
「私はたった一人で生き抜かなくてはならない事を、母上は教えたかったのだ。私は、私をこうして初陣で生きていられるまでにきちんと育ててくれた母上に感謝し、そうしてわかったよ。母上は私を愛してくれているのだ、自分が強くなりたい気持ちと同じだけ、私を。」
清晶珠は話を続けた。
「母上は晩年に、お前を産みたい、と言った。交神の儀から帰った母上は、翌月にお倒れになった。来月のお前の来訪まで自分の命が保たないと覚悟を決めた母上は、看病に立つ私に様々な事を話されたよ。
『私の今度の子は、お前よりいっそう私に似ているかもしれない。』ともおっしゃった。
『お前は律儀な気質だから、奥義を確実に子供に伝えるために早めに結婚し、能力のいちばん高い時期を子供の訓練に費やす事も第一子の務めだから、と黙って果たすだろう。だが今度生まれて来る子はのびのびと戦わせてやりなさい、伝える奥義が無いというのは有利なことなのだ、力が衰えて来るまで交神しないでいいのだから。
清晶珠、その子に伝えておくれ、強くなるだけ強くなりなさい、お前は自由なのだ、と。』
...青輝珠、母上はそう言ったのだ。お前は、母上が送ってみたかった人生の後継者だ。だから私は、お前がうらやましい。」



「当主様、ごしゅつじ〜んッ」
新しい戦だ。青輝珠は弓を肩にかけ、兄に続いて晴れ晴れと出陣する。もう何も悲しむことはない。
(私は、自由なのだ。)
青輝珠は大きく一つ深呼吸して、歩き始めた。







 後に、青輝珠は氏神となります。歴代当主の務めと弓の奥義を守って来た兄の血筋が絶えた後、弓遣いの奥義を復活させるのは彼女の血筋になるのですが、そのお話はまたの機会に。










関連のある他の巻:朱雀大路の巻(紅鋼珠)

【オレシカメニューへ戻る】



野うさぎ茶房のメニューへ