落語はろー・落語速記編

『将棋の殿様』解説


 江戸時代から演じられていた噺で、初代三笑亭可楽(1777〜1833)が十一代将軍家斉(いえなり)の前で演じたのがこの『将棋の殿様』という言い伝えもあるとのこと。速記本も様々でており、百花園(明治22年9月5日号・演者:二代目禽語楼小さん)、富士(昭和13年6月増刊号・演者:三代目三遊亭金馬)などといろいろある。しかし、最近となると演り手は少なく、五代目柳家小さんがたまに演じたくらい。現在では柳家喜多八が演じているが、他では聴いたことが無い。
 殿様が将棋でインチキをするというだけの噺で、将軍と御家来方のやり取りをいかに巧く面白く演じるかが勝負となる。内容としては意外性に乏しく、ストーリー重視の現代には向かないというのが、なかなか演じられない理由かもしれない。
 CDはコロムビアから五代目柳家小さんの録音が発売されており、とぼけた味わいが面白い(が、音が悪い!)。また最近の録音ではワザオギから柳家喜多八が演じたものが発売されている。

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<語句について>
蘭麺(らんめん)
 マクラの蕎麦の殿様の部分。金弥が「(殿様が)お蕎麦のお振る舞いだ。更科か蘭麺(らんめん)か」と尋ねる場面がある。検索すると「卵(らん)めんは元々、蘭麺と書いたそうである。長崎から落ちのびたキリシタンが、オランダ人に習った麺だからだそうだ。250年の伝統を持ちJALの機内食にも採用されているそうだ…」とある。卵めんを製造している吉田製麺のページ。250年の伝統があるなら古典落語に出てきてもオカシクはないが、卵を使った麺料理というと何か「ラーメン」のようなものを想像してしまい、どうもシックリこない。
でっちる
 漢字で書くと“捏ちる”。殿様が「蕎麦粉を木鉢の中へ入れ、水を入れましてでっちます」。関西地方の方言で、『こねる』『混ぜ合わす』の意があるとのこと。信州などの蕎麦の本場でもこの言葉は使われているらしい。
瘤衝心(こぶしょうしん)
 将棋に負け、将軍様に鉄扇で叩かれ、頭に瘤を沢山作った御家来たちが、愚痴をこぼし合う場面で「事によったら瘤衝心かもしれぬ」とある。“衝心”だけではなかなか分からないが、脚気衝心(かっけしょうしん)となると、脚気による症状の一種のことで、下肢のむくみとともに心臓の機能が低下し、心不全を引き起こすこともあるそうだ。徳川家の15人の将軍のうち3人がこの病気で死亡したともあり、昔はポピュラーな病気だったようだ。この脚気衝心になぞらえて、瘤衝心という語を噺家が拵えたのであろう。なお、前に記した五代目柳家小さんのCDにも『瘤衝心』をいう語がでてくる。“コブショウシン”と聞いてピンと来る方いますか? こうやって調べないと分からないよなぁ…。


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