向井千恵インタヴュー

小坂圭司:最初は何故自分で企画して、パースペクティヴ・エモーションのようなイベントを立ち上げてみようと思われたのか、その辺りからお聞きしたいのですが。

向井千恵:それはやっぱりもう、何かやらなくてはいけないと思ったんですよ。うーん、MMACのフェスティバル(注1)を98年8月に見て、それに少し刺激されたというのもあると思うんですけど。それがすごく全部面白かったわけじゃないんですけれど。おもしろいのもあったし、おもしろくないのもあったりして‥‥。

小坂:それは向井さんが東京に出て来られたことと関係があるというか、関西ではそういうものはあんまりなかったんですか?

向井:そう、フェスティバルみたいなものはほとんどないですね。でも、ヨシダミノルという美術家が京都にいて、彼が京大西部講堂でAGA FESTIVAL(アガ フェスティバル)というイベントを、91年位だったかなぁ、それから10年間毎年やるという企画を立てて、私も実行委員をやったんですよ。東京から知っている人を呼んだりしたんですけど、2回目はすごく盛り上がって楽しかったんですね。3回目はあまりパッとしなかったんです。それでもう立ち消えになって。
でも、もっと前から、やってたといえばやってたんですよ。大阪にいたときも、テルプシコールやキッドアイラックホールとかで、1日だけの小規模なイベントみたいなものは何度かやってたんです。

小坂:東京なんかでも、そういうフェスティバルというか、イベントのようなものはそんなに数多くあるわけじゃないですけど。
でも、そういった、例えばパフォーマンスがあって、音楽があって、今回美術とかそういったものも一緒にやるっていう発想は、それは、MMACとかの影響もあると思うんですけど、その辺というのは皆同時代的に一緒に動いているというか、仲間みたいな意識があるわけですか。
 ジャンルの違う人達を呼ぶという事に関して、何かこだわりっていうか、その方が単純に面白いとか?

向井:それはそうなんですよ。んで、私は音楽にそれほど興味がないんですよ。

小坂:え? ほんとに?(笑) いいことを聞いた(笑)。

向井:音楽だけのイベントっていうのはつまらないんですよ。自分も映像の人とか舞踏の人とかとコラボレーションするとか、そういうことは昔からやってきたことで好きなんで、それを大規模にやってみたいということなのかなぁ。
それはやっぱり、この時期に、世紀末といわれるすごい時代にね、そういうイベントをやる意義っていうのが、やっぱ、あるというか、やらなければならないという使命感みたいなものもあったんですね。それで室野井さんと石川さんに持ちかけて、やろうということになって‥‥。

小坂:その、やらなければならないというのは、なにか、それが今の世界に必要だからということなのかなぁ、何故そのようなイベントが必要とされると考えられるのでしょうか。

向井:一つは、はっきり言って浄化。
自分が即興で演奏したりパフォーマンスをしたりすることっていうのは、まず自分の浄化のためなんですね。で、同時にそれが世界の浄化というものに繋がっていると思うんです。それで、ここ数年自分のパフォーマンスのテーマに情動の解放というのがあって、パフォーマンスに自分のエモーショナルな部分を出して‥‥、出すっていうことがテーマになってるんですよね。それをもっと大規模に‥‥。

小坂:そうすると、パースペクティブ・エモーションというタイトル自体も、けっこうその辺から来ていて、重い意味があるわけなんですね。

向井:不思議なんですけど、タイトルを何か考えなくっちゃいけないっていう時に、パースペクティブという言葉がひらめいたんですよ。でも、意味がわからない‥‥(笑)‥‥、それで辞書を引いたら、透視的とか遠近法という意味で、これいいなぁと思って、石川(雷太)さんも横文字の言葉がいいと言ってたんで、じゃこれいいかもしれない。それにエモーションという言葉が出てきたんでつけたんですよ。こじつけるとね、情動を解放するんだけれども、単にタレ流しじゃなくてちゃんと透視的であるっていうような。

小坂:とてもいいタイトルです。

向井:意味も、意味になるなと思ったんですよね。
パースペクティブという言葉はそんなに一般的には使われてないんですよね。建築とか美術とかの人は普通に使う言葉らしいんですね。

小坂:で、去年一年やってみて、色々な評判悪かったとか、そういうことは抜きにして(笑)、どうだったんでしょう? 一年やってみて。

向井:うん、やってよかったと思いますよ。

小坂:お客さんはたくさん入ったみたいですね。

向井:そうですね。(1日)100人は入ってほしいと思っていたんですが、それ以上に入って‥‥。

小坂:それで、今年が2回目で、来年以降も多分続いていくんだろうと思うんですけど、今回はこういう感じという風に、毎年内容を変えていくのか、ある程度毎年同じようなイベントとして立ち上げていくのか、どうなんですか?

向井:去年は、音が私自身すごくしんどかったんで。やっぱり私が呼びかけたい人を。見たい人、好きな人を呼ぶということでやっていきたいんです。

小坂:それが基本なわけですね。

向井:基本的にそういう人たちを呼んだんですよね。だから、いいと思う人であっても、その時にもう何回も見たからいいという人は呼んでいないんです。知らないけれども興味はある人は呼んでるし、ほんとに私のわがままで人選したんですけど。
で、話がずれるかもしれませんけど、最後の2時間半を即興的なコラボレーションの時間にしようと決めて、2日間それをやったんですけど、結果はやっぱりあんまり纏まりがなくて、しんどいものになったんですけどね。それは結果であって、やろうとしたこと、やったことに意義があると思うので、後悔はしてないんですけど。
 今年は音を少し減らしてパフォーマンス、美術中心にやりたいというふうにしたんですけど。

小坂:ちょっと戻るんですけど、即興というのは、毎回メインとして、集団での即興はやってゆきたいということなんですね?

向井:そうですね、はい。まったくなにも決めないでやるかどうかはちょっとわかりませんけども。やっぱり、これだけの人が集まっているんだから、個々のパフォーマンスの提示だけではもったいないと思うんです。そこで、その場に集まって初めて起こり得ることっていうのを見てみたいというのがあって。

小坂:そうすると、よけい毎回メンバーが違ったほうが面白いですね。同じメンバーで固まると、ちょっと馴れ合いになる‥‥。

向井:そうですね。うーん。

小坂:僕なんか、最近即興っていうものに、音楽にしろ、ダンスにしろ、少し疑問を持ってきているのですが。

向井:そうですか?

小坂:ちょっとね、もうどん詰まりなんじゃないのかな。さんざん皆即興ということでやってきて、もちろん個々の人の中で、もう一度即興ということで自分の中で構築していく作業は必要だと思うけれども。
70年代の終わり頃から、即興っていうのが盛んになってきて、十年二十年位、そういう動きが続いてきて、いい加減、何かこう‥‥、もうちょっと違う展開が見たいんですけど、安易な方に流れて行きやすい感じがするんですよね。
 完璧な即興、何をやっても許されるというのじゃなく、何らかの制約、約束事みたいなものが一つでもあったほうが、展開していくにしても面白いものが出て来るんじゃないのかな。

向井:それはね、経験としてありますね。一つの決まり事を作った方がよりアナーキーに展開していくって事はあると思うんです。でも、やっぱりある程度のレベルの人が集まってやると、そんなにぐしゃぐしゃにはならないし、いい方向に行くと思うし、私はどん詰まりになっているとは思っていないんです。

小坂:昔、イギリスで『カンパニー』を主宰しているデレク・ベイリーの所へ、日本からアーティストが行って。その日本のアーティストが、約束事抜きで全部完璧な即興でやろうって持ちかけて、デレク・ベイリーは、いくら自分たちが即興集団だといっても、最低限の約束なしではやらないし、やってもうまくいかないものだと言ったらしいんですけど。

向井:そうですか。

小坂:まあ、あのデレク・ベイリーでもそういうふうに思っているんだ、みたいな‥‥。

向井:でも‥‥、全然、本当に即興をやる時は、ほとんどそういう決まり事はなにも作らないけれども、うまくいく時はいきますよね。私はそういう‥‥、賭けるのが好きなんですよね(笑)。ほんとに去年2時間半も何も決めないでやるという無謀なことをよくやったなと思うんですけどね(笑)、でも私はそういう賭けが好きなんで‥‥(笑)。

小坂:やりましょう、それは(笑)。

向井:時間は短く1時間とかにするかもしれないけれど。それやらなくちゃねえ、おもしろくないと思うんですよ。

小坂:そうですね、ある程度こう‥‥。

向井:何が起こるかわからないというような状態を設定しておくことが大切だと思うんです。

小坂:そういうのが定着してゆけば、面白いイベントになっていくような気がしますね。なんだか、楽しみですね。

向井:ミュージシャンだけじゃなくて色んなものを取り入れて、パフォーマンスとか踊りとかともやってみたい。即興的なパフォーマンスはあまりないと思うんです。音同志だと割とあるんですけど。

小坂:他のフェスティバル〜MMACにしてもNIPAF(注2)にしても、一人一人の持ち時間があって、一人一人がやってそれでお終いっていう感じで、コマ切れの出し物って感じですよね。

向井:そうなんですよね。何かもったいない感じがするんですよね。せっかくいろいろな人たちが集まっているのに。zz
そういうふうに集まってやると、別の部分が引き出されたりすることがあり得ると思うんですよね。

小坂:例えば、美術の方でも、共作っていうのは難しいかもしれないけれど、一つの場を使って、何か、共振〜共に振れ合うような、そういった場ができると本当は一番いいだろうなと思うんですけれどね。
あと、いろんなジャンルから参加アーティストを選ぶのって、なかなか大変だと思うんですけど、これから積極的にパースペクティブ・エモーションに取り入れていきたいというジャンルって‥‥。

向井:パフォーマンスがおもしろいですね。制限なくいろんな事が出来るし、ものすごく個性が出てくるし。自分も舞台に立って、演奏しないで動き廻ったりしてパフォーマンスのレベルに入る――そういうのがすごくおもしろいんですよね。偶発的に出てくる動きとかパフォーマンスが。

小坂:そうですね。向井さんがシンバルを使ったような即興も、あれはほとんどパフォーマンスですよね。

向井:でも、あれはまだ音楽としてやっているんだけど、そうじゃない――音を出さないパフォーマンスに入っていく瞬間が一番楽しいですね、最近。

小坂:じゃあ、近いうちにパフォーマー向井千恵誕生?

向井:うん、でもパフォーマンスと銘打ってあらかじめ決めたパフォーマンスをやるっていうふうにはまだならない。ほんとに偶発的な動きが一番おもしろい。他の人を見てもそうだし。
予測できないパフォーマンスをするっていうのが即興表現の一つの醍醐味だと思うんですよね。

小坂:なるほど、そうするとパースペクティブ・エモーションの最後の即興セッションには、是非パフォーマーも入って一緒に‥‥。

向井:うん、去年はあまり入って来ませんでしたね。

小坂:今年は期待できそうですね。

(注1)MMAC:Mixed Media Art Comminucationsの略称。毎年国際交流イベント『MMAC FESTIVAL IN TOKKYO』を劇場、画廊などで並行して開催。パフォーマンスのみならず、ダンス・音楽・演劇・映像・美術といった様々なメディアをクロスオーバーさせながら展開。代表・星野共。

(注2)NIPAF:Nippon International Performance Art Festivalの略称。霜田誠二主宰。海外からも多くのパフォーマーを招聘し、若手パフォーマーを中心に、海外を含め毎年各地でイベントを開催。最近は東南アジアからのパフォーマーの紹介に力をいれている。



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