何故ぼくは、ザンジバルの総選挙に関心を持つのか?


今回の総選挙は、西側諸国の援助を盾にした、つまり一党独裁制では援助は出来 ないということが発端で行われることになりました。そのこと自体は悪いことだ とは思いません。実際30年に及ぼうとしていた社会主義政権が日本の自民党のよ うに利権と結びついて堕落していたのは、すでに複数政党制が始まっていた、ぼ くが赴任した92年の段階でも顕著だったからです。しかし一方で、冷戦構造がな くなり、東側からの援助が望めなくなった段階で、西側諸国が強圧的になったこ とは否めません。92年のケニヤの総選挙もその結果行われたわけです。外国から の援助という経済的な理由で、ある国の政治体制が変わるというのは、その国の 人たちに屈辱的であることは誰にでも分かるだろうし、植民地主義と紙一重では ないかとも思います(ここで、注意しなければならないのは、何故彼等が、援助 を必要とするかです。冷静に考えれば、長い植民地支配の中で、原料の生産地、 製品の消費地として、自分たちの文化を持つことも経済を自律的に行えなうことも 出来なかった人たちが、30年という短い期間に西側諸国に対抗できる文化と経済を持つことができるでしょうか。例えば、植民地ではなかった日本が明治30年にどういう国家 だったでしょうか?)。そして、日本政府はODAについて、その国の民主主義度を 基準にしているのも、この西側諸国の動向に沿ったものです。そういう、一歩間違 えば内政干渉、あるいはその国の自律性を脅かす微妙な立場に西側諸国はあります。 しかしながら、日本は総選挙が行われる今年のはじめに、ザンジバルの国営テレビ 局に巨額の援助を行いました。これは長い間の調査の末に決まったことです。 しかし、そのタイミングは非常にまずかった。選挙後まで凍結すべきだったとぼくは考 えています。ぼくが、滞在した94年の段階ですらザンジバルの国営放送は連日与党CCM の政見放送や集会を映し出し、野党CUFへの誹謗中傷、デマゴーグを流し続けていました(当然CUFの意見は放送で取り上げられることはない)。その上に日本から最新の機材が入るということはどういうことになるのか? 最悪の場合機材の横流しで自分たちの選挙資金を作り出すということも考えられるはずです(まさかと思われるかもしれませんが、CCM= 政府は今年に入って国営資産を次々と売却していきました)。 そこまでしなくてもテレビ局に入った自動車やヴィデオ機材はテレビ局以外の政治 運動に使われ、その上テレビでは質の高いCCMの政治放送が行えるようになったでしょう。 つまり、これは一体何かということです。そして、今回ザンジバルの総選挙の結果に 対して17カ国の援助国が異議を申し立てましたが、日本はそこに参加しているのか?  それすらも今のところ分かりません。日本では、選挙の結果さえまだマスコミでは 報道されていないようですから。一体誰が、ザンジバルやタンザニアでの日本の方針 を立て、対応しているのか? からしてはっきりしないし、それを報道するところもない。 その一方で誰の意思かはっきりしないところで、誰からも監視されず日本の援助が行 われ、我々自身が援助国の運命に荷担しているというのは、おかしいのではないかと いうことです。例えば、この間朝日新聞でのタンザニア、ザンジバルの選挙の報道は以下の通りです。 ザンジバルの選挙に至っては、その結果さえ報道されていません。
27.Nov.'95         荒井真一
▼95/11/21 東京朝刊 11 頁 1外面
やり直し投票、与党の勝利に タンザニア
 【ナイロビ20日=川崎剛】タンザニアで初の複数政党制による大統領、議会 選挙のやり直し投票が十九日、首都ダルエスサラームで行われ、先月下旬以来続 いていた選挙をめぐる混乱がやっと終わったようだ。大統領、議会選ともに独立 以来の与党タンザニア革命党の勝利が確定、与党候補のベンジャミン・ムカパ元 外相が二期十年の任期を終えたムウィニ現大統領を継ぐことになっている。 [朝日新聞社]
▼95/11/02 東京朝刊 11 頁 1外面
12日に再選挙 タンザニア・ダルエスサラーム(地球24時)
 【ヨハネスブルク1日=川崎剛】タンザニアの選挙管理委員会は31日、29 日投票の初の複数政党制による大統領・議会議員選挙で投票所が開かなかったな どの混乱が起きた最大の都市ダルエスサラームで12日に、やり直し選挙を行う と発表した。他の混乱地域では30日(一部で31日)まで投票が延長されて終 了している。
 これに対し与党タンザニア革命党に対抗する野党6党が31日、「混乱は与党 側の選挙妨害であり、全国で選挙人登録からすべての選挙過程をやり直すべきだ 」と反対を表明、今後の選挙結果の発表を中止するよう要求した。 [朝日新聞社]
▼95/10/30 東京朝刊
【 ヨハネスブルク29日=川崎剛】東アフリカのタンザニアで29日、196 1年の独立以来、初めての複数政党制による大統領、議会選挙の投票が行われた 。これまで強力な一党独裁体制を続けてきた与党タンザニア革命党(CCM)を 、野党側が政権の腐敗問題などで厳しく追及している。大統領選で与党候補が敗 れる可能性も出ている。
 大統領選に候補を擁立しているのは4党だが、事実上CCMのムカパ元外相と 、野党再建改革国民会議(NCCR)のムレマ元内相の争い。ムレマ陣営は政権 の汚職や腐敗、貧困などの過去の失政をきびしく批判し、都市部で支持を広げて いる。 [朝日新聞社]
▼95/10/23 東京朝刊 7 頁
民主化めざし複数政党による大統領選挙と議会選挙始まる タンザニア
 【ザンジバル(タンザニア)22日=川崎剛】アフリカ型社会主義からの脱皮 を図るタンザニアで初めての複数政党制による大統領選挙と議会選挙が二十二日 、ザンジバル島の投票で始まった。本土では二十九日に投票される。ザンジバル 自治政府と連邦の両方の大統領選挙で、一九九二年六月まで一党独裁だった与党 タンザニア革命党(CCM)を野党候補が破る可能性があり、対立感情が高まっ ている。東アフリカ民主化のテストケースとして注目され、二百五十人の国際選 挙監視団が展開している。  アフリカの複数政党制は、東西対立が終わり、西側援助国がそれまでの軍事独 裁や社会主義独裁国への援助を渋り始めたことによって、アフリカ側がしぶしぶ 受け入れ始めたもの。タンザニアの場合、初代ニエレレ大統領は八五年に引退し 、社会主義から脱皮し始めたが、政治の方は最近まで自由にならなかった。 [朝日新聞社]
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