「バベル」と「かもめ食堂」 -2005.02.18(旧暦の元旦)Up

 菊地凛子さんで話題の映画「バベル」を観ました。「カモメ食堂」は以前に観て、たまたま記録をしていたので、今回合わせて紹介することにします。どちらも良い映画ですが、両極端といっても良い感じですね。

【バベル】

 映画のタイトル「バベル」は、旧約聖書に記述のある「バベルの塔」のバベルとのことだ。人が天まで届く塔を建設しているのを見た神は、人々が違う言葉を話すようにすることで、建設を止めさせたとのエピソードである。世界にさまざまな言語が存在する理由とのことだ。

 さて、先ずは映画について、(ネタバレあるので注意

  • 先ず最初に!公式ページ等の宣伝文句に惑わされないこと!(だからボクはここでリンクは張らない
  • モロッコ、メキシコ(アメリカ)、日本での出来事が入り乱れて進行していくのだが、見ていて気分の良い映画ではないし、いわゆる面白い映画ではない。
    • 【モロッコ】 父親からオオカミ対策の為にライフルをもらった兄弟が、些細な諍いから遠くを走って来るバスに向かって発砲する。お互いの心を癒すために何故かモロッコ旅行にくるアメリカ人夫婦(ブラッド・ピット、ケイト・ブランシェット)。一発の銃弾が偶然夫人に命中してしまう。
    • 【メキシコ(アメリカ)】 子守のメキシコ人女性(アドリアナ・バラッザ)は、メキシコにいる息子の結婚式に出席するため、子供達の預かり先を探すが見つからない。しかたなく子連れでメキシコにもどって結婚式に出席するが、帰りのアメリカ入国時にトラブルになる。
    • 【日本】 母を亡くした聾唖の女子高生チエコ(菊地凛子)は、聾唖者ゆえの葛藤に加え父(役所浩二)との関係もしっくりいってない。そんな思春期の彼女は特異な行動にでる。
  • このように、世界三カ所で同時に進行する何の脈絡も無いような事件には、実は関連があることが徐々に分かってくるという内容の映画だ。
  • 気分の良い映画ではなく2時間以上の長い映画だが、何故か引きつけられる不思議な魅力がある。そして、確かに菊地凛子さんの存在感は凄いものがある。ボクには、監督が彼女に惚れ込んで特にフィーチャーしたようにも思える。
  • 子守役のアドリアナ・バラッザも迫真の演技で素晴らしい。凛子さんと同じくノミネートされている。
  • どうして気分が良くないのかというと、登場人物皆それぞれが、とにかく愚かな判断や行動を次々としていくのである。観客であるボク等は、ある意味「神の視点」でもあるのだが、おいおい何でそうするの?という行動の連続である。
  • バベルというタイトルから、言葉の違いによるコミュニケーション不全という捉え方があるようだが、言葉の違いというよりも、そもそも根本的に意志疎通の難しさや誤解と捉えた方が良さそうだ。しかし、それより何より、ボクには「人の愚かさ」が主題であると感じられた。
  • この映画、評価はかなり分かれるだろう。が、ボクには斬新にも思えたし、いろいろと考えさせられるのも確かで、良くできた映画だと思った。
  • ところで、未だに釈然としないで整理できてないところが一点ある。それは、刑事とチエコのやり取りの辺りの解釈だ。チエコは刑事に、母の自殺はべランダからの飛び降りだと告げたが、実は銃によるものだった。帰宅した父と刑事は階下で会って、チエコが嘘を話していたことが分かる。その父が部屋に行ってチエコを探すと、ベランダで外を見つめるチエコがいる。そこで、父と娘の抱擁シーンで映画のエンディングとなるのだが、ここの辺りの意味合いがなんだか良く分からないのだ。
    • 何故、そのような嘘をついたのか?
    • 自らの行動の予告、または潜在願望を告げたのか?
    • 聾唖者故に単なる誤解があったのか?
    • 父をかばうために嘘をついたのか?
    • 反抗ばかりだった娘がそんな嘘をついたことを知って、娘の気持ちを察して愛おしく抱擁したことで、お互いの心が通い合ったということか?
  • このようにいろいろ推理できるのだが、ボクの気持ちは今ひとつ釈然としないのだ。制作者や監督の意図がどこにあったのかはどうでも良いことで、要は観客として自分勝手に理解すればよいことだが、どうもハッキリしないということである。

 さて、以下は関連して思ったことなど雑雑と書く。

  • バベルの塔の話にかかわらず、様々な神話(神の諸行)を知ると、なんと神様は傲慢で不遜で、独りよがりで、モラル欠如なのかと思う。神の世界の共通点である。自分は別格だから何でもOKなのに、ヒトの些細な過ちを咎めたり、いろいろと酷いことをしたりする。ユダヤ・キリスト・イスラムの神は特にそうだ。
  • 「神」といえば、「2001年宇宙の旅」という「神の存在」を主題にした超有名な映画がある。映画史史上の不朽の名作のひとつである。スタンリー・キューブリック監督が、アーサー・C・クラーク氏を科学顧問(?)にして作った映画だ。1968年の公開で、何故か文部省特選だった。ここでいう「神」とは、この宇宙に極めて高度に発達した生命体が存在すれば人間にとっては神に等しいという意味だ。ボクはこれを聞いたとき大いに納得した。例えば箱庭を作ってそこに蟻さんを飼うと、そこには蟻さんの生活圏ができる。蟻さんにとってはその箱庭が世界の全てである。生かすも殺すも、またその世界を破壊するのも思いのままだ。蟻さんにとっては神の所行である。
  • ついでに。その後、「2010年宇宙の旅」という続編ができた。あの黒いモノリスの正体が明かされる。モノリス集合体はもう一つの太陽になるのだが、それは高度生命体から人類への贈り物であることがわかる。
  • さらについでに、スタンリー・キューブリック監督といえば、「2001年宇宙の旅」の他には「時計仕掛けのオレンジ」「シャイニング」「フルメタルジャケット」「アイズ・ワイド・シャット」等がある。いずれも、何というか・・・インパクトのある映画だ。
    • 時計仕掛けのオレンジ」−これほど胸くそ悪い映画は無い。とにかくイライラさせられるのだ。
    • シャイニング」−スティーヴン・キング原作のホラーだ。キューブリックが作るホラーということで公開前からかなり話題だった。さすがキューブリックで、もの凄く怖いです。ホラー映画の最高峰でしょう。精神的に怖さが迫ってくるホラーはこれぐらいではないでしょうか。。。ジャックニコルソンの狂気、怖いですね〜。
    • アイズ・ワイド・シャット」−遺作となった話題作。評価はかなり分かれたけど、ボクは名作だと思います。もっとも、キューブリック本人は、トム・クルーズとニコール・キッドマンを使ったことを悔いていたようで、不満足だったようです。
  • かなり脱線してしまった。
    さて、映画「バベル」の舞台の一つはメキシコのティファナ市だ。アメリカ・サンディエゴ市から国境を越えたところにある街だ。かつて、一度だけ行ったことがある。サンディエゴの市電に乗って国境まで行き、歩いてすぐ行ける。行きはフリーパスだ。しかし、国境を越えたとたんにその風景や雰囲気が一変するのだ。富める国と貧しい国の違いをまざまざと見せつけられた思いだった。買い物や食事などした後、帰りも歩きでアメリカ入国である。しかし、この時はパスポートチェックなど厳しい。まさに、「行きはよいよい帰りはこわい」の状況だった。
  • モロッコって、どこにあるのだろう?
    (外務省HPより)ここでした。。。
    ところで映画にもどりますが・・・、なんで?夫婦の関係改善の旅行でモロッコへ行くんだよ!ましてや奥さんはいやだというのに・・・。

【かもめ食堂】 2006.11.08記載に加筆してUp。

 昨年の10月に「かもめ食堂」を見ました。Aquariuaさんのお勧めでした。フィンランド・ヘルシンキへ行っているボクらにとっては観るっきゃない!という感じでしたが。。。とっても良かったです。ここ最近見た日本映画では一番でした。(といっても日本映画はほとんど見ないのですが。。)

 以下、感想など思ったこと。(たいしたネタばれではないですが、ご注意を!)

  • 淡々と物語が進むが決して緩むことがないので、全く飽きない。
  • 含蓄のあるセリフが沢山ある。押しつけがましくないところに好感がもてる。
  • 俳優さん皆芸達者である。若い日本人俳優を使ってないのが良いのだろう。
  • 小林聡美さん(主演)というと、ボクにとっては大昔見た「転校生」の女優さんだ。年取ったなあ〜と思った(いい意味ですけど)。「転校生」は、尾道を舞台に、とある男子生徒と女子生徒の心が入れ替わってしまってすったもんだする物語です。尾道に行った時、ちょっと寄り道して、あぁ〜ここがあの神社や階段のシーンのとこか〜などと思った。「かもめ食堂」でも、とってもいい味出してました。「いらっしゃい!」
  • フィンランド・ヘルシンキへは一昨年の7月末に行った際に良く歩いたので、海辺や街並みなどとっても親しみがあった。市場でエンドウ豆(HERNEといい、莢を向いて生で食べるのだ)が出てきたが、これこれ!っという感じ!
     エンドウ豆(HERNE)は、こんな感じで市場で売っている。
  • 間(ま)を上手く使っていた。最近のTVドラマなどには見られない質の高さを感じる。
  • 食器がいろいろ出てくるが、みんなピカピカ!フィンランドのアラビア社のものだろうか。。。服はマリメッコ
     アラビア社工場で、ここにアウトレットがある。
  • 舞台劇の映画化のような感じだ。原作はあるが、映画のために書き下ろしたとのことだった。作者も監督もいい感性してるな〜と思った。
  • ヘルシンキの物価はとっても高い。レストランのメニューなど値段は高めだ。おにぎり5.5ユーロ(梅・鮭・おかか3個で770円は高い)も、しかたないかな〜〜。
     (かもめ食堂HPより)
  • フィンランドの人口はなんとたったの500万人。人が少ないことが心地よさの一つなのだろう。映画の登場人物も少ないし。。。
  • 映画の登場人物の皆さん、なにか背負ってフィンランドに来たのだろうが、お金には心配ないようだな〜。
  • 出てきたトランクの中身が全てアンズ茸というのは、さすがにそれはないだろう。かなりの違和感!
  • どう終わらせるかな〜と思いつつ観たが、エンディングは見事に爽やかでした。お見事!

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