[読まなくてもいいようなところ]
むかしむかし、食べ物にとっても好き嫌いの多い子供がおりました。肉は食べない、魚は食べない、野菜は食べない。しかも、体質や環境に問題があったわけではありません。食わず嫌い、つまり単にわがままなだけだったのです。「食べたくないから、いらない」はたしてそんなことが許されるのでしょうか? そんなことで立派な大人になれるのでしょうか? 
1985年に行われたインタビューと、その後の追加取材で偏食皇帝と呼ばれる謎の人物の実像に迫ります。

偏食じまん episode1「偏食皇帝現わる」

聞き手(以下 : ) という訳で「偏食の王者」1985年当時はまだ皇帝と呼ばれるほどの権力を有していなかったにいろいろお聞きしたいんですが、嫌いなものってたとえば……
偏食の王者(以下 : ) それは言ってたらきりがない。魚介類はたいていだめだね。マグロタイヒラメカツオブリタラサンマアユタコイカエビサザエアワビアサリシジミハマグリコンブヒジキワカメウナギドジョウ、基本的に水の中いるものは嫌いだ。平気なのは焼き海苔と鮭の切り身とタラコ。練り物とか、ツナサンドも食べられるしかしどれもそまのままの姿で水中にいるものではない。あと、野菜ね。最近だいぶ食えるようになったけど、カボチャナスセロリブロッコリーアスパラゴボウニラハクサイダイコン、そのへんは今でもだめその後アスパラバターときんぴらごぼうとキムチと大根サラダは食べるようになった、もちろん居酒屋で覚えたもの。昔なんてキャベツとかキュウリとかレタスとか、普通のサラダだって食べられなかった。あ、もちろんキノコ類は今でも全然だめだし、マツタケなんて食ったことないよいまだにない。食いたいとも思わないいまだに思わない。ニンジン嫌う子供って多いけど、それは平気だった。カレーに入ってるから。カレーは大好き。
 ピーマンなんてどうですか?
 やっぱり嫌いだったけどね、いつのまにか小さく切ってあれば食えるようになった実は小さく切ってチャーハンに混ざってあったのでよけられなかったというのが真相らしい
 一部で有名なトマト嫌いについて。
 あー、トマトはね、今じゃ全然食べないけど、大昔に食べてた記憶はあるんだ。幼稚園行く前くらいでさ。だからトマトについては「食わず嫌い」じゃないね。うーん、わりとね、酸っぱいものって嫌いなんだよ。トマトが嫌だっていうのも、そういうとこはあるケチャップやトマトソースは平気らしい。あと、レモンとか夏みかんとか梅干しとか。酢がやだから、寿司も好きじゃない酢飯自体は食べられる。もちろんあれは魚がメインだからだけどねいまだに寿司は食べない、寿司屋には行かない。タマゴとカッパ巻は好きかもしれない
 肉類は?
 小学生の低学年の頃までほとんど食べてない。挽き肉はね、餃子とかハンバーグとかメンチカツとかで食ってたね。大きな肉って食べてなかった。食べたくなかったから。カツ丼でさえ好きじゃなかった。今でも好きってことはない焼き肉でさえも好きとは言えないとのこと。「あれば食うけどね」
 何で肉が嫌いだったんでしょう?
 うーん、わからない。生肉のぐちゃぐちゃな感覚が生理的に嫌いだったのかな? 焼いても煮てもその記憶が残ってたんじゃないかな。
 大好きなカレーにも肉が入ってるでしょう?
 うーん、どうしてたのかな? 残してた記憶はないから食べてたと思う。でもカレーをよそる時に自分でやれば肉はどけられるから。
 じゃ、カレーに入れたらなすでも食べられる?
 食べない。やっぱり、どうしても譲れない一線てのはあるよね。カレーに肉はまあ当然だけど、なすを入れるなんてルール違反だ。ジャガイモとニンジンとタマネギ、それ以外は認めたくない。もちろんシーフードカレーも嫌い。なすに関しては強烈な思い出があってね、子供の頃、旅館の食事で一見コロッケ風の揚げ物が出てきて、私はコロッケ好きの子供だったから今はコロッケ好きの大人食卓につくなり、もちろん何よりも、誰よりも先に当然コロッケだと思った物体を口にしたわけです。ところが、噛んだらグニャリとした食感が。その瞬間はその正体が何なのかはわからない、だってなす食べたことなんかないんだから。でも全身に「コレハチガウ! コレハキケンブツデス!」ってサイレンが鳴るんだよね。すぐ口から出したけど、その後、もう食事ができなかった。ああ、それがなすのフライだったんだよ。食わず嫌いってワガママ言ってるだけで本当は食べられるんじゃないかと言われるけど、やっぱり嫌いなものは食えないんだよ。まあ、その時は子供ながらに怒ったね。騙されたと思ってるからね。なすのくせにコロッケみたいな格好で出てくるな! って。
 それだけ偏食で、何食べて育ってきたんですか?
 ごはんです。米。それにタマゴとジャガイモと納豆とコロッケとおせんべいと牛乳です。とにかく牛乳はよく飲んだ今でもよく飲む。本人曰く「20才までは牛乳、20才過ぎてからはビールで育った」。パンもあまり好きじゃなかったし、うどんやそばもそんなに好きじゃなかった。ラーメンもちろんインスタント。店のラーメンはメンマとか何かへんなものが入ってるから要注意。は好きだった。でも味噌ラーメンはだめ、味噌汁も好きじゃなかったし今は平気。昔は緑茶も飲まなかった。麦茶だけ。くだものだと、苺とりんごとみかんと梨とバナナが好き。メロンは嫌いだね。
 給食はどうしてたんですか?
 転校もしてるけどどの担任の先生にも何か、強制されたことがなかったんだよね。居残りとかしたことない。残さずに食べるようにしなさい、とは言われたような気がするけど、それだけ。最初からよそってもらわないようにしたりとか、交換したりとか。ラッキーだった軽くすませているが、他の偏食者から見ればウルトラスーパーラッキー以外の何物でもないだろう。本人も「持田先生、小池先生、笹野先生ありがとうございました」と感謝している
 御両親は偏食について何と?
 みんなと同じものを食え、ってよく言われたけどね。食えないんだもんね。とりあえず、食べられるものだけ食べてた。だから、特別に食事作ってもらってたわけじゃないんだよしかし毎食たまご焼きがあるというのは特別なような気もするが。あるものの中から選択して食べてたんだからそれがわがままなのだ
 偏食って何だと思いますか?
 わがまま自覚はあるようだ。贅沢者。やっぱりね、家庭でも外食でも食卓における礼儀としては、出されたものはきちんと全部食べるべきだとは思う。でも食えないとか、食いたくないというのは仕方ないね。結局、「健康である」という前提において自分の食生活を自分で管理出来るんだったら、別に問題ない。誰が何を食わなかろうがかまわんと思うね、それで不健康じゃなきゃ。
 偏食は治りますか?
 うーん、自分自身、以前に比べたら食べられるものは増えてるけどね。他の人だって、例えば堀ちえみだって枕の位置を変えた日から突然納豆が食べられるようになったとかさ偏食皇帝本人は今でも「本当の話だ」と言いはっているのだが?、ある日突然治るってあるかもね。

その後、偏食の王者は偏食皇帝を自称、いまだ偏食道を行く。「間違いなく、食べられる物は増えておるし、嫌いではあっても口にできない物は少なくなった。食わず嫌いという領域は減少してきている。その一因は酒を飲むようになったからじゃ。酒の肴で食べられるようになった物は多い。酔っ払って何だかわからんうちに口にしておる物もあるかもしれん。しかし魚介類は相変わらずだめだし、キノコ系もだめ、トマトもどける。年をとっててだいぶ味覚や嗜好は変わったと思うが、だめなものはだめだ。このまま死ぬまで一生口にしない物は多くあるだろう。体調は普通である。頭がぼけてきたのは年のせいじゃ。一般的な尺度で言ってもずっと日々健康じゃのう。今でも毎日牛乳を飲んでおるからな。ビールもだが。ああ、最近少々心配なのは遺伝子組み替え食品。大豆は数少ないわしの主食のひとつだからな」


いい年していいかげんにしろ。
他の人の話もききたい。
ふりだしにもどる。