2013年極私的 文庫 Best10

2013年(1月〜12月)に読んだ文庫のBest10。文庫以外の本ももちろん読むぞ。んでもここも文庫に限ったのだ。電車で立って読むには文庫が一番楽だからな。それからついでに言うと、発行年に関係なく読んだ年で選ぶことにしておるのだ。だからときどき、すごい古いものが入ってくることもある。10作以上あるのは毎年恒例のようなものだな。気にしないでよい。

10
泥棒は几帳面であるべし マシュー・ディックス 創元推理文庫

「ぼくはどろぼうだよ でもわるいにんげんじゃないんだよ あんしんしてね」という、ほどほどにゆったりした仕事系ミステリ。こと細かい泥棒の技術描写と心象描写が目新しい。一種のおとぎ話なので安心して読める。

9
永久に刻まれて S・J・ローザン 創元推理文庫

NYの探偵コンビ<リディア・チン&ビル・スミス>シリーズの短編集(日本版オリジナル)。上質。どこから読んでもはずれなし。

8
極夜/カーモス ジェイムズ・トンプソン 集英社文庫

フィンランド北部の小村を舞台にした警察小説。また北欧ものか、しかも作者はアメリカ人か。期待していなかったのだが、びっくりするぐらい面白かった。事件の特異性から暴かれる人種問題と宗教的呪縛や、ローカルコミュニティにおける精神疾患の多発には福祉国家というフィンランドのイメージを覆す衝撃さえある。いやべつに貶めているわけではないよ。小説としての背景の描き方が巧いということだ。そしてまた風土の凍え感には寒冷地マニアとしても満足。

7
逆転立証 ゴードン・キャンベル RHブックス+プラス

70年代のアリゾナ、敗訴確実な裁判に直面した若手弁護士を語り手にしたリーガル・スリラー。前半と後半で弁論要旨が逆転するプロットやそこに発生する弁護士倫理の問題が面白い。相手側(検察)がマヌケにしか思えないのはちょっと残念だが。第一稿が書かれたのが79年とのことなので、その後の法廷物ブームを予見するような作品でもある。

6
キング・オブ・クール ドン・ウィンズロウ 角川文庫

南カリフォルニアのドラッグ抗争を扱った「野蛮なやつら」の前日譚。青春と友情と家族と転落の物語でもあり、ドラッグ年代記としても成立している。カメオ的にいろんなキャラが登場し、ウィンズロウ近年の南加シリーズの集約として重要(?)な一作。

5
冬のフロスト R・D・ウィングフィールド 創元推理文庫

ワーカーホリックだがべつに有能というわけでもなく、気の入らない用事を回避するためには努力を惜しまないくたびれた捜査官<フロスト警部>5。シリーズ始めのころよりだいぶ「実はいいオヤジ」な人間味が滲み出ているので小説としてのクオリティは高くなっていると言える。ただ、その反面、フロストの傍若無人なデタラメぶりが少なくなっているのはファンとしては残念。で、作者は死んじゃったのでシリーズ未訳はあと1巻しかない。

4
サトリ ドン・ウィンズロウ ハヤカワ文庫

なんとまあ伝説のスパイアクション「シブミ」(トレヴェニアン作)の前日譚。それをウィンズロウが書いたという奇蹟のような作品。冷戦前夜のアジアを舞台に、日本育ちのロシア人暗殺者ニコライ・ヘルがひっそりと大活躍する(なにしろ隠密行動なので)。実をいうとシブミはなにしろ30年前に読んだ作品なのでほぼ憶えていないのだが、でもこれは前日譚なので問題はないのだ。あ、今、アップする直前に気付いたがこのリストでウィンズロウ2作目だ。

3
獣の奏者 外伝 刹那 上橋菜穂子 講談社文庫
流れ行く者−守り人短編集− 上橋菜穂子 新潮文庫

【獣】中編2作の前後に短編を加えた4作。本編の空白部分を埋めるようなエピソードではあるが、「獣の奏者」の完成度を考えるとなくてもよかった気がしないでもない。だがしかしそれぞれが普通に短編小説として面白い。
【流】<守り人>のその前の話。若き日のバルサとタンダを描いた連作短編。派手さは皆無だが淡々と美しい掌編の数々。

2
<氷と炎の歌>
1 七王国の玉座 ジョージ・R・R・マーティン ハヤカワ文庫SF
2 王狼たちの戦旗 ジョージ・R・R・マーティン ハヤカワ文庫SF 
3 剣風の大地 ジョージ・R・R・マーティン ハヤカワ文庫SF
4 乱鴉の饗宴 ジョージ・R・R・マーティン ハヤカワ文庫SF 

好評なシリーズであることだけは知っていて、文庫版で完結したら読もうと思っていて、そして三部作だと勝手に思い込んでいたので、3巻目が出た時点で読み始めてしまいました。その第三部の途中で気付いた……まだまだ「つづく」じゃないか!という剣と陰謀と魔法と歩く死者とドラゴンの中世英国風超絶ウルトラ大河冒険活劇。主要人物だけで20人以上いる。章ごとに場面転換するので人名も地名も覚えきれない。次作を読むときには物語のディテールなんて絶対忘れていると思う。とりあえずとんでもなく面白い冒険謀略暴虐物語なので満足は満足なのですが、物語的にはやっぱり途中でぶった切られてしまうのです。早く続きを(だがなんと全七部作の予定だとか)。というわけで継続中なので2位。あ、総じて女性の扱いが乱暴なので、そこに抵抗はちょっとある。

1
待ってる あさのあつこ 講談社文庫
グラウンドの空 あさのあつこ 角川文庫
火群のごとく あさのあつこ 文春文庫

今回は3作まとめての一位評価。こういうときもある。
【待っ】
江戸の料理茶屋橘屋を舞台にした時代人情ものの連作短編。奉公人ひとりひとりの事情が切なかったり哀しかったり、でも暖かかったり。通して読めばまたそれぞれの成長物語でもある。
【グ】
ただ田舎の中学生が野球する話なのになんでこんなに感動的なんだろう。もうひとつの「バッテリー」。もともとサブに置く大人の配置がうまいのだけれど、今作ではいじわる婆さんの設定が超絶に素晴らしい。
【火】
藤沢周平の話を情景や筋立てそのままにハイティーンの少年に置き換えるとこうなります。淡々としみじみと揺れる心の青春時代剣術小説。


さいですか。
ふりだしにもどる。