2012年私的 文庫 Best10

2012年(1月〜12月)に読んだ文庫のBest10。文庫以外の本ももちろん読むぞ。んでもここも文庫に限ったのだ。電車で立って読むには文庫が一番楽だからな。それからついでに言うと、発行年に関係なく読んだ年で選ぶことにしておるのだ。だからときどき、すごい古いものが入ってくることもある。10位が複数あるのは毎年恒例のようなものだな。気にしないでよい。

10
ファイアーウォール ヘニング・マンケル 創元推理文庫

もはや北欧ミステリ界の雄<クルト・ヴァランダー>シリーズの8。今回はIT絡みの犯罪と陰謀。スウェーデンの小都市イースタの捜査官なのになぜか国際的事件と対峙してしまうという、前にもあったパターンでもある。ヴァランダーのITオンチ故の情報漏洩のクダリはちょっともの哀しい。というか、これ1998年の作品なんだよ。それで現在にも顕在する問題を描いているって凄いな。

10
羆撃ち 久保俊治 小学館文庫

伝説の羆猟師の自伝。どのように伝説なのかは読めばわかります。アウトドアライフなんていう甘っちょろい生き方ではない、本物の自然と対峙しつつ生きる男と犬と熊。ちょっと憧れる。ちょっとだけ。

10
冷たい川が呼ぶ マイクル・コリータ 創元推理文庫

しまった、ホラーだ! でもとりあえず読んだ。クーンツより怖かった(クーンツについては各自調査のこと)。でもまあ、やっぱりコリータ作品にハズレはないな。これもちゃんと面白かった。

10
この声が届く先 S・J・ローザン 創元推理文庫

NYの探偵コンビ<ビル・スミス&リディア・チン>シリーズ10。おおお、タイムリミット・サスペンス! ディーヴァー的なケレンやどんでん返しはないが、それはそれでいかにもローザンのスタイルで好ましい。でもシリーズ愛読者としては、こういうのは一回だけでいいと言っておこう。

9
紳士の盟約 ドン・ウィンズロウ 角川文庫

サンディエゴのサーファー探偵<ブーン・ダニエルズ&ドーン・パトロール>シリーズ2。ほんとにウィンズロウは大人になれない大人(あるいは大人にならない大人)を描くと巧いんだよな。しかもこのシリーズは登場人物の大半がそんな人間なので、読後感も爽やかだったりする。

8
獅子の血戦 ネルソン・デミル 講談社文庫

NYの対テロリスト捜査官<ジョン・コーリー>シリーズ5。ついに「王者のゲーム」のアサド・ハリールとの決着戦。最後に主人公が勝つのは分かっているのだが、ハラハラドキドキの構成はさすが。いつもながら分厚い上下巻一気読み。

7
吊るされた女 キャロル・オコンネル 創元推理文庫

冷血美女刑事<マロリー>シリーズ6。連続殺人事件のベースに隠されたマロリーの幼少期。マロリーのサディスト描写が少なくてマニアとしては少々もの足りないのだが、とりあえず訳出が続いたことだけでも評価。まあ内容的には(これでも)おとなしいので7位。

6
廃墟に乞う 佐々木譲 文春文庫

直木賞受賞作である表題作を含む連作短編。休職中の道警刑事・仙道孝司を探偵役にしたローカル事件簿。精神的なダメージで休職中という背景が効果的。なんというか、ひたすら地味だけど心に染みるものがある。

5
償いの報酬 ローレンス・ブロック 二見文庫

元酔いどれ探偵<マット・スカダー>シリーズ作品! 新作なのだが新作と言いづらいのは、酔いどれ時代の回顧談だから。過去を振り返るというのはちょっとずるい気もしないでもないが、この先もスカダーの物語が読めるのならそれもよしとしておこう。

4
追撃の森 ジェフリー・ディーヴァー 文春文庫

ノンシリーズの逃亡追撃サスペンス。ディーヴァーらしい引っかけとひっくり返しの連続ジェットコースター。まあ、ただそれだけなのだけれど、その豪腕な名人芸が凡百のサスペンス小説とのレベルの差を際立たせる。ノンシリーズだからこその佳作。

3
桐島、部活やめるってよ 浅井リョウ 集英社文庫

ああ、これはよくできた青春小説だ。「桐島」の同級生たちのどうでもいい(?)日常を綴る連作短編。一作ごとに完成度の落差があるのと全体の構成にはちょっと疑問もあるが、全体のトータリティを損なうものではないな。期待しないで読んだわりには面白かったよ。映画は見ない。

2
評伝シャア・アズナブル≪赤い彗星≫の軌跡 皆川ゆか 講談社文庫

シャアの評伝だよ! キャスバル・レム・ダイクン〜シャア・アズナブル〜クワトロ・バジーナ、そして、宇宙世紀0093年までのシャア・アズナブル。彼の行動と発言をベースに人物像を描き出した力作だよ。個人的にはZZまでは追いかけていたのでほぼ全部理解できたよ。シャア好きガンダム好きなら絶対読んでおけよ。わからない人にはまるでわからないし、あまりにオタクっぽいので2位に留めておくよ。

1
獣の奏者 III探求編 上橋菜穂子 講談社文庫
獣の奏者 IV完結編 上橋菜穂子 講談社文庫

これで全四部完結。いろんな意味で第二部までの読者には予想し得ない導入と展開と結末。これで和製ファンタジーの最高峰に立ってしまったと言ってもぜんぜん過言ではない。というか、ファンタジーという枠で他の作品と一緒にしたくない名作。自然界のあるべき姿を歪める人間のエゴと、その責任の取り方。I−II部と合わせた「獣の奏者」シリーズ全体での評価としての1位ということで。


さいですか。
ふりだしにもどる。