2011年私的 文庫 Best10

2011年(1月〜翌年年始)に読んだ文庫のBest10。文庫以外の本ももちろん読むぞ。んでもここも文庫に限ったのだ。電車で立って読むには文庫が一番楽だからな。それからついでに言うと、発行年に関係なく読んだ年で選ぶことにしておるのだ。だからときどき、すごい古いものが入ってくることもある。10位が複数あるのは毎年恒例のようなものだな。今回なんて4つだ!

10
殺し屋 最後の仕事 ローレンス・ブロック 二見文庫

殺し屋<ケラー>シリーズの締めくくりとなる長編。苦境に陥ったケラーの逃走と潜伏と転生の物語。短篇ばかりのシリーズだったが、長編にしたことでケラー自身の「淡々とした普通の人間」ぶりがより濃く出ていると思う。殺し屋が「普通」かというと、そういうことではないが。シリーズ終了記念の10位。

10
ブラッド・ブラザー ジャック・カーリィ 文春文庫

猟奇事件専門刑事<カーソン・ライダー>シリーズ4。今回はアラバマの地方都市からNYでの怪事件に引っ張り出される。シリーズ第一作では「あんまりなオチ」故にトンデモ系ミステリと言われた作者ジャック・カーリィだが、今やディーヴァーやコナリーらに比肩するようなストーリーテラーとも言われるようになったのだから大したものである。まあそれはちょっと誉めすぎだとは思う。個人的には好きだが。

10
夜明けのパトロール ドン・ウィズロウ 角川文庫

サーフィンこそ人生そのもの、という元警官を主人公にしたシリーズ第1作。ウィンズロウ特有の表面的なゆるさと芯の揺るぎなさは前作「フランキー・マシーン」に近い。波と友情と気のいい連中(でも極悪な奴もいる)の物語。

10
フランケンシュタイン/野望 ディーン・クーンツ ハヤカワ文庫
フランケンシュタイン/支配 ディーン・クーンツ ハヤカワ文庫
フランケンシュタイン/対決 ディーン・クーンツ ハヤカワ文庫

フランケンシュタイン(怪物の方じゃなくて作った博士)が200年生き続けて現代のニューオリンズで悪企みをしているというサイコホラー。こんなバカネタをきちんと一級の作品として仕上げているところはさすがにクーンツ。ただし珍しく、続けて読んでないとわからない構成になってる。ほんとはこの3部構成で終わる予定だったらしい。ラストもそんな感じになってる。というか、例によって「もうページがないなので全部カタをつけます」的な都合のいいエンディングにはちょっと笑った。でもまだ5巻まで続く。

9
シャンハイ・ムーン S・J・ローザン 創元推理文庫

NYの探偵コンビ<ビル・スミス&リディア・チン>シリーズ9。中国系女子・リディア編。リディア編はビル編と比べて面白さが半減する(※それでも秀逸)と思っていたのだけれど、今作は素晴らしい。過去と現在の継ぎ方、人間関係の構築、その技術的な完成度の高さにびっくり。もちろん物語としての面白さも一級品。

8
探偵術マニュアル ジェデダイア・ベリー 創元推理文庫

ミステリ小説界ではハメット賞受賞、ファンタジー小説界ではクロフォード賞受賞、SF小説界ではローガン賞長編部門第三位というへんてこりんな作品で、クロスジャンルというよりは、ジャンル分け不能な小説。モヤモヤとした夢の中のような舞台で探偵活動をやらされている事務員のモヤモヤとした物語。主人公に主体性がないので読んでる途中ちょっとモヤモヤした感は受けるが、読後感は意外とスッキリしてる。他とは比べようがないという希少性での評価。

7
ムーンライト・マイル デニス・レヘイン 角川文庫

ボストンの私立探偵<アンジー&パトリック>! なんとシリーズ中絶から11年たっての完結編! 作中時間も11年が過ぎている。時間の経過は皆に平等に降りかかっていて、それもまた切ない。哀愁と愛情と矜持に溢れた真正のハードボイルド。それはそれとして……角川のときはレヘイン。ハヤカワのときはルヘイン。統一しなくていいのか?

6
緋色の十字架/警察署長ブルーノ マーティン・ウォーカー 創元推理文庫

フランスの田舎を舞台に警察署長(実質は駐在治安官)の奮闘を描く、ちょっと変わったミステリ。主人公を通じて語られる村の風景や生活、人々がこの上なく美しく愛おしい。でもまぁ、そんなところにも忌まわしい殺人事件は起こるのであった。というローカリティ溢れる真摯な名品。

5
渾身 川上健一 集英社文庫

隠岐島の伝統相撲に挑む2人の男の戦いと、見守る人々。感動の相撲小説! 一番の勝負に全員の人生が凝縮されている。スポーツ小説としてもひとつの頂点だなあ。

4
エージェント6 トム・ロブ・スミス 新潮文庫

「チャイルド44」「グラーグ57」に続いたレオ・デミトドフ三部作完結編。なんと上下巻の前半と後半で全然違う話になっている。もちろん一貫した背景はあるのだが、ちょっとびっくり。あまりにも苛酷で想像を絶するような人生が骨太で密度の濃い文章で綴られる物語(このシリーズは全部そうなのだが)。

3
卵をめぐる祖父たちの戦争 デイヴッド・ベニオフ ハヤカワ・ミステリ文庫

戦争の悲惨さと無意味さが実録風ホラ話のように語られる冒険(?)青春(??)小説。深刻な状態をあっさりした口調で語ることで、人間的な感情を際立たせてもいる。感動的な良質の一作です。ポケミスで出たときにスルーしてたので、今回ランクインすることになってしまった(ポケミスだと対象外)。

2
天と地の守り人 −第一部 ロタ王国編−上橋菜穂子 新潮文庫
天と地の守り人 −第二部 カンバル王国編−上橋菜穂子 新潮文庫
天と地の守り人 −第三部 新ヨゴ皇国編−上橋菜穂子 新潮文庫

国産・異世界ファンタジーの最高峰と言っても差し支えない「守り人」シリーズ完結編三部作。「指輪物語」とかと比べて箱庭的に狭い気はしないでもないが、「天と地があって、人がいる」という根本の世界観はまるで揺らぎがない。そこが魅力。いつの間にかシリーズの主役は●●ではなく●●になっていて、終わってみればその人の成長物語だったというのはちょっとびっくり。シリーズ全体としての評価含めて年度2位。

1
ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 スティーグ・ラーソン ハヤカワ・ミステリ文庫
ミレニアム2 火と戯れる女 スティーグ・ラーソン ハヤカワ・ミステリ文庫
ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士 スティーグ・ラーソン ハヤカワ・ミステリ文庫

いまさら1位にするのもお恥ずかしいような名作。読んだのが文庫になってからなので。しかしこれは評判に違わぬ傑作だ。第一作なんてタイトルから勝手に世紀末のドロドロしたサイコ物語かと思っていたのだが、実にまっとうなジャーナリスティック・ミステリ(←なんか他にイメージできる呼び名がない)。謎解きとしても面白いが、それ以上に「ドラゴン・タトゥーの女」リスベット・サランデルの人物造形が素晴らしい。精神病質の天才調査員。凄い。続けて読めば1は謎解きミステリ、2はスパイアクション、3は謀略リーガルスリラー。というか、そんな括り方では収まらない超絶的なハイクオリティの三部作。リスベット・サランデルという完全にして欠点だらけのキャラに出会えたことは読書家として幸福である。4作目執筆の途中に作者が早逝したことは本当に残念でならない。ぐらいの大傑作!

特別賞/ハヤカワ・ポケット・ミステリの名品の数々
2011年のポケミスのラインナップは凄かった。どれもおすすめ。特に上の2作!
解錠師 スティーヴ・ハミルトン
二流小説家 デイヴッド・ゴードン
特捜部Q ユッシ・エーズラ・オールスン
特捜部Q −キジ殺し− ユッシ・エーズラ・オールスン
記者魂 ブルース・ダシルヴァ ハヤカワ・ポケット・ミステリ


さいですか。
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