2009年私的 文庫 Best10

2009年(1月〜翌年年始)に読んだ文庫のBest10。文庫以外の本ももちろん読むぞ。んでもここも文庫に限ったのだ。電車で立って読むには文庫が一番楽だからな。それからついでに言うと、発行年に関係なく読んだ年で選ぶことにしておるのだ。だからときどき、すごい古いものが入ってくることもある。10位が2つあるのは恒例のようなものだな。というか、今回は3つだ!

10
前夜 リー・チャイルド 講談社文庫

放浪の元憲兵少佐<ジャック・リーチャー>シリーズ。邦訳では3作目、元版では12作中の8作目。リーチャーの軍隊時代を扱った番外編的な作品。へらず口の主人公が軍に影を落とす邪な陰謀に立ち向かう。1990年という時代設定を生かした秀逸なサスペンスで、邦訳の前2作(そこそこ)とはあきらかにクオリティが違う。非常にネルソン・デミルっぽい味わい(←誉め言葉)。05年度バリー賞最優秀長篇賞受賞作。

10
風の墓碑銘 乃南アサ 新潮文庫

女刑事<音道貴子>シリーズ。音道と滝沢のコンビ復活。二人の視線で交互に語られる構成がいい。派手な展開はないが、捜査活動や人間自体の描き方がきめ細かく、一級の警察小説になっている。いつのまにやら傍若無人で下品なオヤジ丸出しの滝沢刑事が(多少)丸くなってて、ここらへんは「フロスト警視」の変化に通じるものがあるようなないような。

10
静かなる天使の叫び R・J・エロリー 集英社文庫

連続殺人犯に人生を奪われた男の生涯。少年時代〜青年期〜と語られる主人公の日々は悲惨で重苦しいが、決して読者を離さない。ものすごい力がある。もうミステリーとかサイコサスペンスではありません。純文学です。

9
獣の奏者 上橋菜穂子 講談社文庫

今や異世界ファンタジーの日本における第一人者である作者による「大人向け」ファンタジー、で、ハードな冒険小説で、少女の成長小説で、野獣と少女の交流を描く動物小説でもある。「バルサ」シリーズでは児童文学っぽくてもの足りない、という人は必読。

8
制服捜査 佐々木譲 新潮文庫

捜査官としての経歴を持ちながらも田舎の駐在所勤務となった警官が、職務ではない事件捜査に如何に関わるかという裏返しの警察小説。短編連作集。北海道郡部の小さな町での「事件」にストーリーテラーとしての巧さを感じさせられる。同じ作者の大河警察親子三代小説「警官の血」(新潮文庫)とどっちを入れようか迷ったけど、個人的な嗜好ということでこちらにしておきます。

7
犬の力 ドン・ウィンズロウ 角川文庫

麻薬捜査官と麻薬組織との30年にわたる激闘。苛烈で無情で容赦ない戦いの様が緻密に描かれる。作品全体が怒りの炎で熱く煮えたぎっている。09年度の各ベストテンで上位に必ず選出された【力作】。しかし桁外れに重たい。個人的には「ストリート・キッズ」時代の淡々としながら暖かかった頃のウィンズロウの方がいい。

6
一瞬の風になれ(1〜3) 佐藤多佳子 講談社文庫

3年前に大評判となった高校陸上部の三年間を描いた熱血青春スポーツ小説の文庫化。個人競技としての100mスプリント、団体競技としての100m×4リレー、それぞれを通して「走る」ことの魅力がひしひしと伝わってくる。男子高校生はもっとバカだよ、と思うが本当に感動的。

5
川は静かに流れ ジョン・ハート ハヤカワ・ミステリ文庫

本を開くと謝辞に「わたしが書くものはスリラーもしくはミステリの範疇に入るのだろうが、同時に家族をめぐる物語でもある」とある。そのまんまの作品。08年度のMWA賞最優秀長編賞受賞作。家族小説としてもミステリとしてもクオリティの高い非常に優れた作品だが、ただし恋愛関係の叙述だけはあんまり上手くない。前作「キングの死」の時もそう思ったなぁ。でもまだこれが2作目だからね。

4
ラスト・イニング あさのあつこ 角川文庫

「バッテリー」のエンディングにはがっかりさせられたが、こんな後日談を付け加えてきたとは!!! これを足したことで「バッテリー」シリーズは史上ナンバーワンの少年野球小説になったと断言するよ。この一作だけでも相当に質の高い小説だが、単体で読むのはもったいない。もし未読なら「バッテリー」第一巻からどうぞ。

3
オッド・トーマスの霊感 ディーン・クーンツ ハヤカワ文庫
オッド・トーマスの受難 ディーン・クーンツ ハヤカワ文庫

死者の霊を見る青年<オッド・トーマス>シリーズの1と2なのであるが、うわぁ、これはたまらん、近年のクーンツの最高傑作! 何を言ってもネタバレになってしまうので(以下略)

2
現代短編の名手たち1/コーパスへの道 デニス・ルヘイン ハヤカワ・ミステリ文庫
現代短編の名手たち2/貧者の晩餐会 イアン・ランキン ハヤカワ・ミステリ文庫
現代短編の名手たち3/泥棒が1ダース ドナルド・E・ウエストレイク ハヤカワ・ミステリ文庫
現代短編の名手たち4/ババ・ホ・テップ ジョー・R・ランズデール ハヤカワ・ミステリ文庫
現代短編の名手たち5/探偵學入門 マイケル・Z・リューイン ハヤカワ・ミステリ文庫
現代短編の名手たち6/心から愛するただひとりの人 ローラ・リップマン ハヤカワ・ミステリ文庫
現代短編の名手たち7/やさしい小さな手 ローレンス・ブロック ハヤカワ・ミステリ文庫

素晴らしいシリーズ。なにしろ好きな作家ばっかりがぞろぞろ並んでいるので1位にしてもよかったのだが、完結していないのと、「トールサイズ」とかいうふざけた版型になっているのと、以前出た短編集を文庫化したものが入ってたりする(読み始めて気付いたものが2冊!)ので、2位に落としました。いやしかしどれも傑作揃いで、どの本をどこから読んでも面白いという奇跡的なシリーズです。どこまで(誰まで)続くのかちょっと楽しみ。

1
砂漠の狐を狩れ スティーヴン・プレスフィールド 新潮文庫

砂漠の狐・ロンメル将軍が狩られなかったことは史実なのであんまり期待せずに読んだのだが、なんとびっくり、これはこの10年でも最高レベルの戦争冒険小説だ! ノンフィクション戦記タッチの叙述と緻密な戦闘シーンのバランスが絶妙。見事な人間ドラマになってるし、砂漠という特殊環境故の騎士道精神がけっこう心に染みる。なにより読んでて「ワクワク」したので1位!


さいですか。
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