2008年私的 文庫 Best10
2008年(1月〜翌年年始)に読んだ文庫のBest10。文庫以外の本ももちろん読むぞ。んでもここも文庫に限ったのだ。電車で立って読むには文庫が一番楽だからな。それからついでに言うと、発行年に関係なく読んだ年で選ぶことにしておるのだ。だからときどき、すごい古いものが入ってくることもある。
10
サッカーボーイズ はらだみずき 角川文庫
ぱっと見、子供向けのようではあるが、そんなことはない。立派な大人向けの「サッカーを題材にした、子供たちとおっさんたちの青春物語」。サッカーを文字で表す難しさはよく言われることだが、試合自体を自然にスルーすることでその命題をうまく回避してある。いい小説です。コーチングについて考えさせられるところも多い。ただし、物語にただの一人も女の子が出てこないというのはいかがなものか。(個人的嗜好)9
最高の銀行強盗のための47ヶ条 トロイ・クック 創元推理文庫
疾走するバカ青春犯罪小説。順番としては「バカ」が一番になる。こういうものは大好きだ!8
ブルーヘヴン C・J・ボックス ハヤカワ・ミステリ文庫
ノンシリーズ。アイダホ北西部の田舎町、殺人を目撃したために追われる幼い姐弟と、それを助ける老牧場主。物語の推移、登場人物たちの所作、自然描写、すべてが完璧と言っていい。一言一句たりとも無駄がない。都会的な無機質な感覚とは無縁の、現代の西部劇とも呼ぶべき優れたアクション小説。当然ながら映画化されることでしょう(決まったらしい)。7
震えるスパイ ウィリアム・ボイド ハヤカワ文庫
66才の母親が突然周囲を警戒し始め、かつて自分がスパイであったと娘に語り始める……。交互に描かれる母の過去、娘の現代のバランスが見事。決着の付け方も秀逸。久々にちゃんとしたスパイ小説を読んだような気がする。6
チャイルド44 トム・ロブ・スミス 新潮文庫
08年度の各ベスト10では軒並み上位入り。スターリン独裁下のソ連で政治的に「存在し得ない」連続殺人に遭遇した捜査官による犯人逮捕と自信の生存を掛けた苦闘。政治体制と極寒に閉ざされた国の不条理感と閉塞感と無常感が余すところなく読み手に襲いかかる。量的にはそれほどではないが、質的にはものすごく濃くて重い。読み応えはあるけど陰気なので6位くらいにしとく。作者はまだ29才でこれがデビュー作。それも凄い。ちなみに、ロシアでは発禁書扱いだとのこと。5
壊れた海辺 ピーター・テンプル ランダムハウス講談社文庫
豪州南部(つまり下側)の田舎町の刑事を主人公にしたまことに秀逸なミステリー。淡泊な語り口と緻密な人物描写で人種問題、環境問題、そして事件の真相が綴られる。シリーズ物の味わいがありながら(意識的にそうなっている)単発作品というのがびっくり。物語の舞台が目新しいということもあり、新鮮な感覚。オーストラリア人作家が初めてCWA賞を受賞した作品でもある。4
深海のYrr(イール) フランク・シェッツイング ハヤカワ文庫
ドイツで大ベストセラーとなり、様々な文学賞を総なめにしたという海洋ミステリ冒険サスペンスSFエコロジー小説。イールってウナギか? 巨大ウナギが暴れる話か? と思ったらそうではなかった。そうではなかったが、実はそんなに間違った判断でもなかった。まぁ読んでみなさい。文庫で全3巻、とにかく厚くて長くて重くて刺激的で理知的で破壊的で無慈悲で虚無的な物語だが、とてつもなく面白い。映画化されるようだが、こんなにアメリカ人に対して悪意のある話はハリウッドでは無理だろう。3
ナイチンゲールの沈黙 海堂尊 宝島文庫
螺鈿迷宮 海堂尊 角川文庫
ジェネラル・ルージュの凱旋 海堂尊 宝島社文庫
いまや日本を代表する医療ミステリー<田口&白鳥>シリーズ2と番外編と3。東城大付属病院だけでなく桜宮市を舞台にした物語ということで全部まとめて<桜宮サーガ>ともいう。「ナイチンゲール」「ジェネラル」はほぼ同時進行の話で「螺鈿」はその直後の話。どれもやっぱり「理系の人が書いた話」っぽくて、すべて理詰め。その芯にある堅さ冷たさを「へんなエキセントリックな人間」でコーティングしてある感じ。それで物語がちょぅどいい柔らかさと温度になってます。登場人物ほぼ全員が饒舌というのが気にならないでもないが、登場人物全てのキャラが立っているところが凄い! 実は「ジェネラル・ルージュ」の発行が09年1月7日なので08年ぶんに入れるのは反則なのだが、3冊セットでないと意味がないのでここに入れておきます。読む順番としては「ナ」「螺」「ジ」でいいと思います。2
ザ・テラー−極北の恐怖− ダン・シモンズ ハヤカワ文庫
北極探検史上最悪の惨事といわれる1845年の史実をベースにした歴史冒険ホラー。過酷な大自然と超自然的な恐怖が人々を「食い尽くしていく」描写が凄まじい。前半はホラー色が強くて個人的には好みではないのだが、後半に入るとエスキモー神話とと絡ませて見事に「決着」をつけている。ストーリー・テラーとしてのシモンズの力量に感服。剛腕。寒冷地マニアとしても充分に堪能できる。ただし登場人物が次々とものすごい勢いで理不尽に死んでいくので、そういうものが苦手な人は読んではいけません。1
フロスト気質 R・D・ウィングフィールド 創元推理文庫
あえて俺が押すまでもないのだが、1位はこれで。邦訳登場以来、根強い人気と高評価を得続けている刑事<フロスト>シリーズ4作目。相変わらずズボラで強引で行き当たりばったりのフロストだが、初期の頃の本物のクソ親爺ぶりに比べて今作ではかなり「人情」が濃くなってる。個人的にはこっちの方向が好きです。シリーズ中最高作。
番外編
思わぬ拾いもの大賞(2作)揺さぶり マイク・ハリソン ヴィレッジブックス
カルガリーの探偵<エディ・ダンサー>シリーズ1。カルガリーという舞台以外に目新しさはないのだが、冒頭からラストまで一気呵成に突っ走るプロットと、どこかで見たようだがそれなりにオリジナリティ溢れる登場人物たちには高い評価を与えたい。実は相当に暴力的な話なのだが、それを感じさせない語り口の軽さもちょうどいい。老検察官シリ先生がゆく コリン・コッタリル ヴレッジブックス
舞台は30年前のラオス(!!)。主人公のシリ先生は72才にして国内ただ一人の検屍官(!!)。そのシリ先生が殺人事件の謎を解く……。これはもう設定の勝利ですね。時の流れのゆる〜い、ちょっといい話。途中唐突に出てくる「霊的事象」は、日本人にはなんの違和感もなく受け入れられる。著者はイギリス人、04年の作品。
ベストテンに入れたかったんだけどなんとなくこぼれちゃった連中(順番は順位にあらず)。大量。
おかけになった犯行は エレイン・ヴィエッツ 創元推理文庫
嘆きの橋 オレン・スタインハウアー 文春文庫
極限捜査 オレン・スタインハウアー 文春文庫
うそうそ 畠中恵 新潮文庫
タナーと謎のナチ老人 ローレンス・ブロック 創元推理文庫
赤い夏の日 オーサ・ラーソン ハヤカワ・ミステリ文庫
蒼火 北重人 文春文庫
魔術師 ジェフリー・ディーヴァー 文春文庫
哀国者 グレッグ・ルッカ 講談社文庫
虚空の旅人 上橋菜穂子 新潮文庫
永遠の三人 ローラ・リップマン ハヤカワ・ミステリ文庫
女たちの真実 ローラ・リップマン ハヤカワ・ミステリ文庫
バスルームから気合いをこめて ジャネット・イヴァノヴィッチ 集英社文庫
カスに向かって撃て! ジャネット・イヴァノヴィッチ 集英社文庫
ロミオ ロバート・エリス ハヤカワ・ミステリ文庫
冬そして夜 S・J・ローザン 創元推理文庫
タンゴステップ ヘニング・マンケル 創元推理文庫
凍える海 ヴァレリン・アルバーノフ ヴィレッジブックス
ロスト・エコー ジョー・R・ランズデール ハヤカワ・ミステリ文庫
ワイルドファイア ネルソン・デミル 講談社文庫
変わらぬ哀しみは ジョージ・P・ペレケーノス ハヤカワ・ミステリ文庫
ビッグ・アースの殺人 ジョン・エバンス 講談社文庫
カリフォルニア・ガール T・ジェファーソン・パーカー ハヤカワ・ミステリ文庫
神の獲物 C・J・ボックス 講談社文庫
永久凍土の400万カラット ロビン・ホワイト 文春文庫
悪魔はすぐそこに D・M・ディヴァイン 創元推理文庫
ゲット・カーター テッド・ルイス 扶桑社ミステリー
捜査官ケイト/過去からの挨拶 ローリー・キング 集英社文庫
イスタンブールの群狼 ジェイソン・グッドウイン ハヤカワ・ミステリ文庫
優しいオオカミの雪原 ステフ・ペニー ハヤカワ文庫
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