2007年私的 文庫 Best10
2007年(1月〜翌年年始)に読んだ文庫のBest10。10位がたくさんあるけど気にせんでおくれ。文庫以外の本ももちろん読むぞ。んでもここも文庫に限ったのだ。電車で立って読むには文庫が一番楽だからな。それからついでに言うと、発行年に関係なく読んだ年で選ぶことにしておるのだ。だからときどき、すごい古いものが入ってくることもある。というか、今回入った。
10
大鴉の啼く冬 アン・リーヴス 創元推理文庫
イギリス最北端、北海に浮かぶシェトランド島に起きた悲劇。登場人物による視点を変えながら事件を掘り下げていく王道的なミステリで、閉ざされた孤島における個人や地域の背景もよく書けてる。ただ、寒冷地マニアとしてはもう少し寒々とした光景も読みたかった。最終的に「シェットランド4部作」となるシリーズの1。06年CWA最優秀長編賞受賞作。10
路上の事件 ジョー・ゴアズ 扶桑社ミステリー
久々のゴアズ。9年ぶりの邦訳作品だそうな。なかなか邦訳されず、出てもいつのまにか絶版になってしまい、高水準の作品ばかりなのになぜか日本で一般受けしない代表格の作家。これは1953年のアメリカ各地を放浪する青年の成長物語的ミステリー。ゴアズ自身の体験をベースにした半自伝的作品でもある。50年代という時代的雰囲気も深くてなかなかいいです。しかしちょっと「世間が狭い」気がしないでもない。10
目くらましの道 ヘニング・マンケル 創元推理文庫
スウェーデン南部にあるイースタを舞台にした警察小説<クルト・ヴァランダー>シリーズ5。毎回テイストを変えながらも、どれを読んでも傑作という驚異のシリーズだが、今回は連続猟奇殺人犯を追うという「真っ当な」警察捜査小説。<マルティン・ヴェック>の正当な後継者であり、ヴァランダーが「理」ではなく「情」の捜査官であるということを再認識しました。9
キューバ・コネクション アルナルド・コレア 文春文庫
これは「スパイ小説というジャンルはこれで終わりです」という小説だ! 読めばわかるさ。冷戦終結で引退を余儀なくされたキューバ人スパイの、家族と愛と友情と再生の物語。けっこうジーンとくる。8
怪盗タナーは眠らない ローレンス・ブロック 創元推理文庫
幻のブロック初期作品(1966年)。不眠症の泥棒?スパイ??<エヴァン・タナー>シリーズ1作目にあたる。60年代という時代的な匂いも濃くて、ちょっとした冒険小説の味わいもある「もしかしたら壮大な冗談なのかもしれない」不思議な小説。7
血と暴力の国 コーク・マッカーシー 扶桑社ミステリー
暴力と硝煙の純文学。アメリカ文学界の本物の巨匠(なんだそうな)が書いた「弾丸が飛び交い死体が散乱するクライムノベル」。短いセンテンスと無駄のない描写は切れ味抜群で、物語自体の疾走感がハンパではない。07年度の各ベストテンにも軒並み選出された傑作(と言ってしまうことになんにも躊躇いなし)。ただし暴力描写は本当に凄まじいし、救いがあるのかないのか微妙なエンディングには好き嫌いが分かれるだろう。個人的には嫌いではないのだ。6
しゃべれども しゃべれども 佐藤多佳子 新潮文庫
07年に「一瞬の風になれ」で注目された作家。これはびっくり、とんでもないテクニシャンだ。ドラマとしての王道をすこしずつはずしながら、出来上がりは完璧。全編を通しての人を見る目の暖かさも相まって珠玉の名作という賛辞さえ送りたくなる。ただそれが「落語」というテーマによるものなのか、作者自身の資質なのかはちょっとわからない。まだこの一冊しか読んでないので。それはそれとして、こんなに地味ながらこんなに美しいラストシーンはそんなにあるものではない。そこだけでも200点くらいあげる。映画になったが見てない。5
復讐はお好き? カール・ハイアセン 文春文庫
ダメ亭主に殺されかけた嫁の復讐話。カール師匠のいつもの「へんなヤツがいっぱい&へんなエピソードがいっぱい」というキ●ガイ話と比べると物語が一本道で、それ故にクドく冗長な感じもする。と言いながらも高評価。毒が薄いぶん明朗な「勧善懲悪(勧正懲馬鹿)」に仕上がってるので万人にお勧めできる。4
チーム・バチスタの栄光 海堂尊 宝島文庫
第4回(05年)「このミステリーがすごい!」大賞受賞作。医大のはぐれ医師と厚労省の変人役人が心臓外科手術チームに起きた死亡症例を調査するという医療ミステリ。これは面白い! 探偵コンビの造型、キレのいい展開、手術場面の緊張感、ドタバタ寸前の絶妙なユーモア、ほぼ完璧と言ってもいい。結果的にシリーズ化となったのも当然。探偵コンビを男女にしてしまった映画の方にはちょっと疑問。3
イミナルティI ピラミッドからのぞく目 ロバート・シェイ&ロバート・A・ウィルスン 集英社文庫
イミナルティII 黄金の林檎 ロバート・シェイ&ロバート・A・ウィルスン集英社文庫
イミナルティIII リヴァイアサン襲来 ロバート・シェイ&ロバート・A・ウィルスン集英社文庫
1975年に発行され「カルト小説」として欧米で絶大な支持を得たという伝説の奇書。その30年がかりの邦訳。「70年代の指輪物語」とも呼ばれたらしいんだが、長いという以外に共通点があるとも思えないなぁ。内容は……ドラッグとセックス満載の秘密結社陰謀バカSF冒険小説。時間と空間が改行なしに進んだり戻ったりする。同じ話が何度も繰り返される。ホントだかウソだかわからない歴史的博物学的トリビアが羅列される。物語自体が完全にトリップしている。これ3冊(Iは上下巻なので4冊)読み通すのはなかなか大変だった。でもハマると抜けられなくなる「超バカ大作」。2
精霊の守り人 上橋菜穂子 新潮文庫
闇の守り人 上橋菜穂子 新潮文庫
夢の守り人 上橋菜穂子 新潮文庫
和製ファンタジーの中でも評価の高い<守り人>シリーズの1〜3。日本的な「中世風異世界」描写に違和感がない。偉そうに言わせてもらうなら、「ものがたり」の書き手としての力量を感じる、わけです。異世界の持つ箱庭的な狭さの解消を「横」ではなく「タテ」に作ったことが成功の一因であろうか。主人公が<守り人>なので各話ごとに「襲いかかってくるもの」を創造することが必要になるのだが、毎回毎回、異なった次元の強敵を生み出す創造力には感服。1
鬼平犯科帳 全24巻 池波正太郎 文春文庫
これを1位にするかどうか悩んだ……けど、07年に一番夢中になって読んだのはこれ。いまさら、と言われるだろうが、通して読んだのは初めて。「剣客商売」も「仕掛人」もいいが、一番は鬼平だな。
ベストテンに入れたかったんだけどなんとなくこぼれちゃった連中(順番は順位にあらず)。年々ここが増えていく……
レイヤー・ケーキ J・J・コノリー 角川文庫
アマガンセット/弔いの海 マーク・ミルズ ヴィレッジブックス
ガラスの中の少女 ジェフリー・フォード ハヤカワ・ミステリ文庫
カルーソーという悲劇 アンネ・シャブレ 創元推理文庫
奇術師の密室 リチャード・マシスン 扶桑社ミステリー
キングの死 ジョン・ハート ハヤカワ・ミステリ文庫
強盗こそわれらが宿命 チャック・ホーガン ヴィレッジブックス
コールド・ロード T・ジェファーソン・パーカー ハヤカワ・ミステリ文庫
殺しのパレード ローレンス・ブロック 二見文庫
終決者たち マイクル・コナリー 講談社文庫
ストリップ ブライアン・フリーマン ハヤカワ・ミステリ文庫
インモラル ブライアン・フリーマン ハヤカワ・ミステリ文庫
災いの古書 ジョン・ダニング ハヤカワ・ミステリ文庫
わたしが殺された理由 アン・アーギュラ ハヤカワ・ミステリ文庫文庫以外のベストワン
正当なる狂気 ジェイムズ・クラムリー ハヤカワ・ノヴェルズ
- さいですか。
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