2006年私的 文庫 Best10
2006年(1月〜12月)に読んだ文庫のBest10。10位がたくさんあるけど気にせんでおくれ。文庫以外の本ももちろん読むぞ。んでもここも文庫に限ったのだ。電車で立って読むには文庫が一番楽だからな。それからついでに言うと、発行年に関係なく読んだ年で選ぶことにしておるのだ。だからときどき、すごい古いものが入ってくることもある。
10
クリスマス・プレゼント ジェフリー・ディーヴァー 文春文庫
短編集。どこを切ってもディーバー! 16編もあるので相当なお得感があるが……同じパターンの作品が多くて読んでて「またそれか」という気にもなる。しかしまぁ、どれも水準以上なので文句を言ってはいけません。10
荒ぶる血 ジェイムズ・カルロス・ブレイク 文春文庫
暴力と血と硝煙と侠気。無頼小説(?)の期待の星、ブレイクの邦訳2作目。前作(「無頼の掟」)より断然にいい! 回想シーンが行ったり来たりする構成がわかりにくいとか、主人公をとりまくエピソードの質も量も濃過ぎるきらいがある、とか言ったら贅沢な文句だよな。一冊読んだらお腹いっぱい。終盤の「男の友情」はちょっとペレケーノスっぽい。9
影と陰 イアン・ランキン ハヤカワ・ミステリ文庫
スコットランドの一匹狼捜査官<リーバス>シリーズ。文庫は初期作品の刊行となってて(ポケミス、ハードカヴァーと作品年代で刊行スタイルが違う!)、これは2作目。前作・1作目と比べて格段の完成度! ここで「協調性を欠き秘密主義の一匹狼だが有能な捜査官」というリーバスのキャラクターが確立されていた。でもって、1作目ではかなり大きかった「なんか今のシリーズ(既に15巻目)とは違和感があるなあ」がほとんどない。ランキンの研究者(そんな人がいれば)には大きな意味のある作品。そうでない人もどうぞ。8
十兵衛両断 荒山徹 新潮文庫
高麗秘帖 荒山徹 祥伝社文庫
摩風海峡 荒山徹 祥伝社文庫
摩岩伝説 荒山徹 祥伝社文庫
と言うわけで突然、完全にはまった。ぶっ続けで読みました。「十兵衛〜」は柳生新陰流と朝鮮妖術の対決をテーマにした連作短編集。剣豪小説と伝奇小説の融合だ。「荒山徹が面白い」という評判は前から目にしてはいたが、こんなに面白いとは。痛快で凄惨で淫靡で荒唐無稽で奇想天外で溢れかえる創造力は山田風太郎ばり。これが「柳生剣」シリーズの1作目(1冊目)にあたる。その後、続けて初期作品を3作。どれもまた見事にぶっ飛んでる伝奇歴史小説。山田風太郎と隆慶一郎と五味康祐、3者を合わせたテイストとはよく言われる(らしい)が、3作それぞれでその配分量が違うから、読み進む度にびっくりする。しかも、デビュー作である「高麗〜」からして相当に完成度が高いのだが、2作目3作目と更に巧く面白くなってる。「高麗〜」は副題「朝鮮出兵異聞 李舜臣将軍を暗殺せよ」とあるように伝奇歴史冒険物。歴史的事実と嘘八百が入り交ってとんでもなく密度が濃い。「摩風〜」は真田十勇士と朝鮮幻術集団の対決という伝奇忍法帖。ゾンビや大魔神まで登場する滅茶苦茶さが素晴らしい。「摩岩〜」はなんと主人公が「若き日の遠山の金さん」という伝奇武芸帖。青春冒険小説の趣さえある。1作目2作目は山田風太郎と比べてダークな雰囲気で陰惨かつ重苦しい感じさえするが、3作目あたりから「痛快」さが前面に出てくる。これが柳生シリーズに続いていくのだな。基本的にどれも手や足や首が飛び交い血飛沫が溢れ死人が散乱する物語なので万人にはお勧めできませんが、そういう描写が平気な方(?)はぜひどうぞ。7
カレンの眠る日 アマンダ・エア・ウォード 新潮文庫
死刑囚、刑務所医師、被害者の妻、苦しみと哀しみを抱えた3人の女の「死刑執行までの最後の3ヶ月」。それぞれの「日常」が淡々と語られる。淡々過ぎて(テーマは重厚なのだが)すぐ読めてしまう。でもけっこう心に染みる上質の物語。6
天使と悪魔の街 マイクル・コナリー 講談社文庫
<ハリー・ボッシユ>シリーズ10。冒頭からいきなり衝撃。「ザ・ポエット」と「わが心臓の痛み」をまだ読んでない人は読んではいけません。ああ……、これだけでもすでにネタバレ。コナリーの愛読者としては外せない。しかし残念ながら入門書ではありません。上級者向け。5
風の影 カルロス・ルイス・サフォン 集英社文庫
各書評で絶賛され、あっという間に書店平積み。世界的ベストセラーでもある(らしい)。1945年のバルセロナから始まる、ひとりの少年と謎の作家にまつわる過去と現在のミステリー。ちょっとだけゴシック・ホラー風でもある。時代背景にも人間描写にも手を抜いておらず、読み応えがある。「本」にまつわるミステリーはいろいろあるが、そのベスト5には間違いなく入るだろう。しかしなんだか、主人公の少年(のち大人)がいささか頼りない。しきりにエロ方面に行きたがる。スペイン人だから仕方がないのか?4
市民ヴィンス ジェス・ウォルター ハヤカワ・ミステリ文庫
年末に飛び込みで入りました。06年度MWA賞最優秀長篇賞受賞作。コナリー、クック、ペレケーノスという並み居る大物を押し退けての受賞。ほんの小悪党が「普通の人生」を真面目に考えたらどうなるのか、曲がり角を正しい方へ曲がるためにどうするのか、というような話。ありがちなようで、オリジナリティに溢れてる。時代設定を1980年にしたところが勝因。なんだか妙にあったかい、ほのぼのピカレスク。3
雪豹 ピーター・マシーセン ハヤカワ・ノンフィクション文庫
1978年の著作。ヒマラヤの奥地に雪豹を探しに行きました、という調査行の記録だが、まことにもってハイレベルなノンフィクション。博物学誌であり山岳紀行記であり精神世界解析書でさえある。難解で濃密で、しかし透明感と清涼感に溢れた名著。2
ナイトフォール ネルソン・デミル 講談社文庫
現実にあった航空機事故に怪しい「隠蔽工作」を味付けして一級の謀略スリラーにしてみました、というデミルらしい職人芸。火のないところに煙を立てて、立った煙を爆発させてしまったような物語。例によって読み出したら止まらない。しかし今回のは凄い。冒頭から張りつめたサスペンスを展開し、テンションをキープしたまま「誰もが知っている」ラストのカタストロフにまでつなげてしまう。NYテロ対策班の捜査官<ジョン・コーリー>ものの3作目だが、シリーズという印象はあんまりない。前作を読んでなくても大丈夫。ただ、この作品に限ってはエンディングが強烈なので、次作がどうなってくのか気にせざるを得ない。1
DIVE !! 森絵都 角川文庫
「飛び込み」を題材にした青春スポーツ小説。ゴリゴリの「熱血」にならないのは、やっぱり現代性なんだろうか。競技特有の瞬間的な美しさや、力強さもびしびし伝わってくる。大きな声では言えませんが読んでて3回くらい泣きました。しかしまぁ、「バッテリー」にしてもそうなんだけど、児童文学出身の人は少年のピュアな感覚を描くのが巧いね。感動の名作。とにかく読んでおくれ。
ベストテンに入れたかったんだけどなんとなくこぼれちゃった連中(順番は順位にあらず)。
レイヤー・ケーキ J・J・コノリー 角川文庫
アルアル島の大騒動 クリストファー・ムーア 創元推理文庫
幸運は誰に? カール・ハイアセン 扶桑社ミステリー
血の協会 マイケル・グルーバー 新潮文庫
暁への疾走 ロブ・ライアン 文春文庫
隣のマフィア トニーノ・ブナキスタ 文春文庫
デス・コレクターズ ジャック・カーリイ 文春文庫
聖林殺人事件 D・W・バッファ 文春文庫
マイアミ弁護士/ソロモン&ロード ポール・ルバイン 講談社文庫
ドラマ・シティ ジョージ・P・ペレケーノス ハヤカワ・ミステリ文庫
バッド・ニュース ドナルド・E・ウエストレイク ハヤカワ・ミステリ文庫文庫以外のベストワン
あなたに不利な証拠として ローリー・ドラモンド ハヤカワ・ポケット・ミステリ
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