2005年私的 文庫 Best10

2005年(1月〜12月)に読んだ文庫のBest10だ。10位がたくさんあるけど気にせんでおくれ。文庫以外の本ももちろん読むぞ。んでもここも文庫に限ったのだ。電車で立って読むには文庫が一番楽だからな。それからついでに言うと、発行年に関係なく読んだ年で選ぶことにしておるのだ。だからときどき、すごい古いものが入ってくることもある。

10
酔いどれに悪人なし ケン・ブルーウン ハヤカワ・ミステリ文庫
酔いどれ故郷にかえる ケン・ブルーウン ハヤカワ・ミステリ文庫

アイリッシュ・ハードボイルドと来れば「元警官でアル中」は容易に想像がつくが、そこに「質量問わない読書家」というところが珍しい。酔っぱらいらしく足取りも物語もふらふらと行き当たりばったり。軽い自己嫌悪と開き直った飲酒と魅力的な脇役でなかなかいい感じの拾い物。続きを想像しにくい終わり方なんだが、4作目まで続いているとのこと。どんどん訳してくれ! と1作目の感想として言ったからではないのだが、2作目もよかった。病的な「酔いどれ」ではなく、生活態度として「酔っぱらい」なところがいい。他人には大っぴらに薦められないが個人的にハマったというパターン。

10
百番目の男 ジャック・カーリイ 文春文庫

05年度の各ベスト10に顔出してたんで、あわてて読みました。ああ、なるほど。「バカミス」「脱力系」という評価があるのも頷ける。頷けるけど、良いデキだ。俺は嫌いじゃないね。「羊たちの沈黙」系の違った可能性という意味で大いに評価します。けっこう映像向きだとも思う。映画で…………というのは無理か。

9
恋するA.I探偵 ドナ・アンドリューズ ハヤカワ・ミステリ文庫

人工知能システムが自我を芽生えさせて探偵活動をする。そんな話が面白いわけないよなぁ、と思いつつ(それでも買うのだが)期待せずに読んだら、いゃー、なんかけっこう面白かった。別に主人公がA.Iである必要もないんだが、やったもの勝ち。とは言え、物語をモノローグ中心で展開させて、それで飽きさせない作者の技術はたいしたものではある。本来ロマンスミステリの人なんだっけ?

8
サルバドールの復活 ジェレミー・ドロンフィールド 創元推理文庫

へんな話。前作「飛蝗の農場」(02年度ベスト2)よりははるかに読みやすくわかりやすい。が、やっぱりへんな話。もしかしたら作品自体が壮大な冗談なのではないかという気がしてきた。前作もしかり。

7
暗く聖なる夜 マイクル・コナリー 講談社文庫

<ハリー・ボッシュ>シリーズ9。前作(シティ・オブ・ボーンズ/ハヤカワ文庫)で警察を辞めたボッシュの「やり残した」捜査。組織から離れたことでルールには縛られなくなったが、更にどんどん孤立感が深まってる。しかしなんといっても「当代最高のハードボイルドシリーズ」はまたしても心に染みる作品でした。エンディングがいいねぇ……(どっかで見たような気はしないでもないが)。そういう作品なので各ベストテンではかなり上位に入ってたけど、だがしかし、自分にとってはコナリーの最高傑作とまではならなかったので、7位にしときました。

6
夜明けのメイジー ジャクリーン・ウィンスピア ハヤカワ・ミステリ文庫

カバーを森川久美が描いてたので即買いました。しかしそれとは関係なく面白かった! <メイジー・ダブズ>シリーズ第1作。03年度パブリッシャー・ウィークリーのベスト・ミステリ選出、アガサ賞とマカヴィティ賞で最優秀新人賞受賞、アレックス賞受賞、MWA賞最優秀長篇賞ノミネート、アンソニー賞とバリー賞で最優秀新人賞ノミネート……。それだけのことはある! 1929年のロンドンに事務所を開いた女探偵の物語。リアリティという面でどうかなぁと思わないこともないが、主人公が魅力的で(あまりに優等生過ぎる気がしないではない)、脇役たちのキャラも素晴らしい(いささか類型的過ぎる気がしないではない)。現在の間に過去を挟んだ構成も効果的。で、2作目のカバーも森川先生でぜひ!(つーか、この原作で森川先生に描いてほしいなぁ)

5
ニューヨーク大聖堂 ネルソン・デミル 講談社文庫

1981年の作品だが初訳。で、しかも、これは傑作だ! とても20年以上前の作品とは思えない! 読み始めると上下巻合わせて1000頁超が怒濤のように駆け抜けていく。アラもたくさんあるけど、全然気にならない。大聖堂に立て籠もったテロリストと包囲する警官隊。大いなる破滅と、それに至る序曲。出てくる連中がみんなアイリッシュ。この一冊だけでアイルランド人のなんたるかがよくわかる。それだけでも非常に面白い。

4
ロックンロール・ウイドー カール・ハイアセン 文春文庫

1年前に出てたのに気が付かなかった。ハイアセン・マニアとしてはお恥ずかしい。なんと一人称の軽快で至極真っ当なハードボイルド文体。ときどきハイアセンらしいキチガイ・エピソード&キチガイ・キャラクターは出てくるものの、物語自体も至極真っ当。読み始めてしばらくはあまりに普通過ぎてもの足りない感もするが、クオリティの高さにぐいぐい引き込まれてしまう。いやー、なんかフリージャズの達人がさらっとクラシックの名曲を奏でたみたいで「こんなこともやればできるんだよ」という名人技を披露されたようだ。全編に並々ならぬ力量と感性が溢れてる。エピローグは今季ベストの感動。絶賛。

3
ジャンキー/耽溺者 グレッグ・ルッカ 講談社文庫

プロ・ボディガード<アティィカス・コディアック>シリーズ番外編(3と4の間の話になる)。主役は「恐ろしく口の悪い、恐ろしく性格のきつい、恐ろしく矜持の高い」女探偵ブリジッド・ローガン。ブリジッドが自らの過去(ヤク中)と立ち向かうタフな話。番外編とは言うが、シリーズ最高作だ! 3部に分かれた構成も見事。物語の収まり方も完璧。つーか、この作者は一作毎にどんどんクオリティが上がっている。まぁ、この作品の素晴らしさはブリジッドというキャラ自体にあるわけだが、それでも次作に期待せずにはいられない。シリーズの主役・アティカスもがんばれ。

2
ヘッドハンター マイケル・スレイド 創元推理文庫
斬首人の復讐 マイケル・スレイド 文春文庫

<極悪鬼畜サイコホラー的カナダ騎馬警官クロニクル>の1作目と6作目。「ヘッド」は1984年の作品(処女作)、「斬首人」は98年に書かれたその『完結編』。『斬』巻末解説をちらりと見たら「まずは『ヘ』を読むべし」とあるのであわてて読んだ。びっくりした。グログロスプラッタホラーな部分はあるにしろ、まっとうな警察捜査小説じゃないか。スレイドの基本がわかったよ。シリーズが進むに連れてトリビア的な蘊蓄雑学(しかもサイコ呪術系)の量が増大してきて基礎骨格が見えにくくなっていたのだ。で、「斬」を読むと、小説としてはるかに読みやすくなっている。作家としての成長が顕著に分かる。しかも「へ」でなんだかわからないままに置き去りにされていた部分をきちんと解き明かしている。スレイドはこれ(ヘッドハンターの再構築)がやりたかったんだな。でもって、ほんとに2部で完璧な1セットに仕上がった。いささか説明が明瞭過ぎて物語のパワー/衝撃が薄れてしまった感はあるが、それはしょうがないよなあ。まあ、どっちが面白いか(衝撃的か)選べと言われたら「へ」になっちゃうけどね。

1
ユーコンの疾走 ゲイ・ソールズベリー/レニー・ソールズベリー 光文社文庫

1位はノンフィクションが来てしまいました。1925年、厳冬のアラスカ・ノームの町にジフテリアの血清を運んだ犬橇リレーの物語。けっこう有名な話。前に読んだことがあるような気がしてたのだが、史実的にきちんと書かれたものはこれが2冊目とのこと(もうひとつは40年前の出版)。マイナス40度の中を5日間1085キロを走り続けた男達と犬達の姿にはただただ感動。ノームの町の成り立ち、犬橇の社会的意味、人間と極寒の闘い、どこをとっても寒冷地マニアとしては感涙の一冊です。


ベストテンに入れたかったんだけどなんとなくこぼれちゃった連中(順番は順位にあらず)。
魔術師の夜 キャロル・オコンネル 創元推理文庫
凍れる森 C・J・ボックス 講談社文庫
笑う男 ヘニング・マンケル 創元推理文庫
春を待つ谷間で S・J・ローザン 創元推理文庫
ウオータースライドをのぼれ ドン・ウィンズロウ 創元推理文庫
ラスト・ライト アンディ・マクナブ 角川文庫
レッド・ライト T・ジェフーソン・パーカー ハヤカワ・ミステリ文庫
蜘蛛の巣のなかへ トマス・H・クック 文春文庫
愚か者の祈り ヒラリー・ウォー 創元推理文庫
獣たちの庭園 ジェフリー・ディーヴァー 文春文庫
最後の審判 リチャード・ノース・パタースン 新潮文庫
聖なる怪物 ドナルド・E・ウェストレイク 文春文庫
ロデオ・ダンス・ナイト ジェイムズ・ハイアム ハヤカワ・ミステリ文庫
ホステージ ロバート・クレイス 講談社文庫
紐と十字架 イアン・ランキン ハヤカワ・ミステリ文庫

文庫以外のベストワン
獣と肉 イアン・ランキン ハヤカワ・ノヴェルズ


さいですか。
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