2004年私的 文庫 Best10

2004年(1月〜12月)に読んだ文庫のBest10だ。10位がたくさんあるけど気にせんでおくれ。文庫以外の本ももちろん読むぞ。んでもここも文庫に限ったのだ。電車で立って読むには文庫が一番楽だからな。それからついでに言うと、発行年に関係なく読んだ年で選ぶことにしておるのだ。だからときどき、すごい古いものが入ってくることもある。

10
シリウス・ファイル ジョン・クリード 新潮文庫

02年に新設されたCWAスティール・ダガー賞、つまり英国推理作家協会最優秀スパイ・冒険・スリラー賞の第一回受賞作。雪山あり嵐の海あり銃撃戦あり陰謀ありロマンスありの第一級エンターテイメント。なんつーか……もう少し「深み」があったらマクリーン・クラスの傑作になっただろう。んでも「冒険小説の復活」というコピーには異論なし。

10
チャーリー退場 アレックス・アトキンスン 創元推理文庫

1955年作「幻の名作」の新訳。演劇/劇場を舞台にしたフーダニットの頂点とも言える「傑作」。ま、今となっては犯人も動機もすぐ判っちゃうんだけど、人物描写も構成も展開も全然古くない。こんな完成度の高いもの書けるのに、これが著者にとっての最初で最後のミステリ長篇というのが最大の謎。

10
白い雌ライオン ヘニング・マンケル 創元推理文庫

スウェーデンの田舎刑事<クルト・ヴァランダー>シリーズ3。前回の「スパイもの」にもたまげたが、今回は「国際謀略もの」! シリーズ3作目にして3作ともまったく違うテイストなんだから凄い。しかも十分に面白いし。本国では8作目まで刊行されているんだが、はたしてどこまでバリエーションを変え続けているのか、もんのすごーく興味がある。

9
夜の回帰線 マイケル・グルーバー 新潮文庫

凄惨な連続殺人とアフリカ呪術と逃亡者とフロリダ。冒頭のとっつきにくさを乗り越えると、あとはぐいぐいと引き込まれていく。物語自体にすごいパワーがあるが、科学では説明できないこともあるのだ、ということをちゃんと説明してない(←なんかへんな言い方だけど)ずるさはある。まあ、とりあえず西洋文明が全てではないのだ、というベースは日本人には受け入れやすいのでは? つーか、中禅寺京極堂が「不思議なことなどないのだ」とか言って出て来そうな話でもある。呪術師の死闘ということで「ガダラの豚」(中島らも)もちょっと思い出した。ここにデタラメとスプラッタと騎馬警官を入れると「暗黒大陸の悪霊」(マイケル・スレイド/ 03年ベスト10参照)になる。

8
消えた人妻 スチュアート・カミンスキー 講談社文庫

常にハズレがないという職人作家の、これまた佳作。主人公<ルー・フォネスカ>は悲しげでさえない中年でタフでもストイックでも強くもないが、これもまた正統的なハードボイルドなのだという見本。

7
完全なる四角 リード・ファレル・コールマン ハヤカワ・ミステリ文庫

この本のカバーのダサさは犯罪。個人的には買ったらすぐカバーをはずしてしまうので関係ないと言えば関係ないのだが、書店であれを見て買う人間がはたしてどのくらいいるのだろうか。中味は完全な正統ハードボイルド。1978年のNYでのひとつの失踪事件と、20年後に現れた真相。物語が都合よく進むが、それがまた仕掛けでもある。舞台となる78年当時のNYの光景が鮮やかに目に浮かび、エピローグともなるラストの感動は今年度のベスト1レベル。

6
武揚伝 佐々木譲 中公文庫

全四巻。北海道開拓小説作家にして冒険小説作家にして歴史小説作家でもある佐々木譲の渾身の一作。理想家にして忠義の人、武人にして文人、技術者にして国際人という(「〜にして〜」ばっかりだ)榎本武揚の生涯、というか生き様(しかも函館戦争までで切ってしまうところが憎い)。面白いなあ。論議を呼んだらしい徳川慶喜、勝海舟の小物ぶりには個人的に異論なし。まあしかし、逆に言うと武揚をヒイキし過ぎと感じなくもない。

5
霊峰の血 エリオット・パティスン ハヤカワ・ミステリ文庫

<チベット彷徨>シリーズ3。1よりも2、2よりも3の方が凄い! というか全部違う味わいで、それぞれが「異境ミステリ」「山岳叙情小説」「冒険小説」としてトップクラスの出来。シリーズの基本的なテーマである「大地の癒し」という点ではこの3作目が一番わかりやすいかもしれない。

4
コフィン・ダンサー ジェフリー・ディーヴァー 文春文庫

今さらですまん! 文庫になったのでようやく読みました(00年邦訳刊行)。面白かった! エンターテイメント的な面ではディーバーの最高傑作だね(もちろん自分が読んだうちでの話)。ご都合主義的な展開もぜーんぜん気にならない。ただね……「事件の真の真相」はいささか腰砕けの感は強い。そんだけのことでわざわざアレしたのかよ!

3
ダーウィンの剃刀 ダン・シモンズ ハヤカワ・ミステリ文庫

保険調査員<ダーウィン・マイナー>もの、つーか、シリーズ化の匂いは濃い作品だがこの一作しかない。ジャンルとしては冒険ミステリなのだろうか、謎ありアクションあり決闘あり蘊蓄あり魅力的なヒーローありの、密度の濃い贅沢な一作。完璧なホームラン。エンターテイメントとは斯くあるべし

2
ワイオミングの惨劇 トレヴェニアン 新潮文庫

伝説の覆面作家、18年ぶりの登場。100年前、鉱山の麓に取り残されたちっぽけな「20マイル」という町を舞台にしたウェスタン小説、と言うか、その小さな町がいかにして消え去って行ったかの物語。陰惨な場面もあるにはあるが、邦題はちょっと的はずれ。原題(Incident at Twenty-Mile)の方がいい。あえて「作り物」っぽく書き連ねて行くのに、それが五つの間にか「史実」に逆転してしまうという手腕はお見事。そのエンディングには感嘆!

1
バッテリー あさのあつこ 角川文庫
バッテリーII
バッテリーIII

野球少年の成長と友情と矜持を描いた小説(ではないと著者は言う)。全6巻(教育画劇)完結してるのだが、文庫版ではまだ3巻目。第一稿着手から10年、ついに、というかやっとというか、じわじわと来ているらしい。ジャンルとしては児童書扱いだったからか長らく「知る人ぞ知る」幻の作品だったそうな。なるほどねぇ、あるところにはあるもんだ。文句なしに心揺さぶられるシリーズ。

今年はついに日本の作家が入ったなあ。ちょっと感慨。


さいですか。
ふりだしにもどる。