2003年私的 文庫 Best10

2003年に読んだ文庫のBest10だ。文庫以外の本ももちろん読むぞ。んでもここも文庫に限ったのだ。電車で立って読むには文庫が一番楽だからな。それからついでに言うと、前回から発行年に関係なく読んだ年で選ぶことにしておるのだ。だから今後、すごい古いものが入ってくる可能性はある。

10
狼の震える夜 ウィリアム・K・クルーガー 講談社文庫

前作「凍りつく心臓」より面白かった。個人的にアウトドアでの追っかけ物というのが好きなんだよ。先住民(インディアン)へのリスペクトも今作の方がわかりやすかったたような気がする。ただ、せっかくの「パワフルな悪役」なのに使い方がそっけなくてちょっと不満。

9
夜より暗き闇 マイクル・コナリー 講談社文庫

ちょっとびっくり。他人から客観的に観たハリー・ボッシュ。しかもその他人というのが「我が心臓の痛み」のテリー・マッケイレブ。どちらのシリーズかと言えば、やっぱり<ボッシュ・シリーズ>以外のなにものでもないが、コナリーのオールスター・キャスト作品ともなってて、まあ「外伝」的なものなのかもしれない。ボッシュのダークサイドが色濃く出てて、その姿は初期のイメージ(扶桑社文庫から出てた頃の)に近いものがある。独立した話だからコナリー愛読者でなくても読める。「90年代最高のハードボイルド作家」は21世紀にも健在。

8
凍土の牙 ロビン・ホワイト 文春文庫

厳寒のシベリアの大地、無計画な開発、悪いアメリカ人と悪いロシア人、行方不明の娘を探す無力な市長、絶滅寸前にある虎。読んでてなんか詰め込み過ぎなんじゃないかと思うが、最後にはちゃんとひとつに収まる。主役も脇役もキャラが立ってるし、強引な展開を無理なくうまくまとめ上げてる。デビュー作にして素材選びの非凡さとストーリーテリングの才を感じさせて、今後の期待も大。

7
暗黒大陸の悪霊 マイケル・スレイド 文春文庫

<極悪鬼畜サイコホラー的カナダ騎馬警官クロニクル>という大変なシリーズものの一冊。スレイドという名前は知ってはいたが、「嗜虐的殺人描写」というのがだめなのでいままで手にとったことはなかった。たまたま今回は読みましたが(ほんとにたまたま!)巻末解説によればこの一作は「ぐちゃぐちゃスプラッタ描写」のない『例外的な作品』らしい。それでもとんでもなくへんてこな話だった。へんてこだけど面白かった。シリーズの他の作品も読むべきだろうか……。とりあえず京極夏彦の京極堂シリーズが読める人ならこれも読める。

6
鉄の枷 ミネット・ウォルターズ 創元推理文庫

うひゃあ、なんつーか、人間洞察の箱庭と言うか泥沼と言うか。「ヒトの悪意に関する研究と考察」みたいな側面(基本軸か?)があるのに、物語のトーン自体は全然暗くない。ま、これで暗かったら救いがなさすぎて読む気にならないけど。やっぱりウォルターズはすごい。ただし、こういうのが好きかと言われればちょっと返答に詰まるので6位くらい。

5
捕虜収容所の死 マイケル・ギルバート 創元推理文庫

1952年の作品。イタリアにあるイギリス軍捕虜収容所内での脱走計画と殺人事件。巻末解説から引用させてもらえば「空前絶後の奇跡的傑作」。まさにその通り! 惜しむらくは古い作品の常として、結末に余韻がない。あと一章あれば超大傑作と呼べるんだがなぁ。

4
密猟者たち トム・フランクリン 創元コンテンポラリ

1999年のMWA最優秀短編賞受賞作の表題作含む10篇の短編集。アメリカ南部、しかも”南部の中心”アラバマのさらにまたごく一部を舞台にした、というか舞台そのものを語った作品集。ストーリーはない(極論)。そこにあるのは風土と人間の描写のみ。これは明確に文学だなぁ。印象も強烈だよ。もともとあのへんは体質的にも好きじゃないんだが(森と沼と湿度と土着のさまざま)、これを読んでなおさら行きたくなくなった。←これは作品に対する誉め言葉。

3
ヴードゥー・キャデラック フレッド・ウィラード 文春文庫

うひゃひゃ、こういうの大好き! バカばっかりでキレが良くて何の役にも立たなくて反省がない。短距離を全力疾走するカール・ハイアセンって感じ。同じようなバカ小説でも突出したバカぶり。ザクザクと短い章割りにもいかした章題にもセンスのよさが光ってる。

2
死者を侮るなかれ ボストン・テラン 文春文庫

読んでる間ずっと感じてたのは「ひゃああああ、テランはすごい」。最初の一頁目から気を抜くところがない。なんか、頭にバケツかぶせられてガンガン叩かれているみたいだ。クライマックスの銃撃戦シーンだけでも歴史に残る! 傑作!

1
天使の帰郷 キャロル・オコンネル 創元推理文庫

大好きなアイドルが出した曲はみんな一位にしてしまうのに近い……。でもエコヒイキ抜きでも一位だ! 鋼鉄と冷氷と虚言と野性の天使<マロリー>シリーズ4。キャシー・マロリー、過去の清算編。この作品では登場人物のほぼ全員が嘘つきなのでマロリーの「反社会的特性」が目立たないのが残念と言えば残念。しかしクライマックスは最高にカッコいい! 自身のオールタイム読書歴でもこれ以上にカッコいいクライマックスはそうそうなかった。マロリーを演じられる女優がいるのならば(いない!)ここだけぜひ映像で観てみたいもんだがなぁ。

今年もまた入らなかったけど日本の作家のも読んではいるんだけどね。なんか入らないのよ。


さいですか。
ふりだしにもどる。