2002年私的 文庫 Best10
2002年に読んだ文庫のBest10だ。文庫以外の本ももちろん読むぞ。んでもここも文庫に限ったのだ。電車で立って読むには文庫が一番楽だからな。それからついでに言うと、前回から発行年に関係なく読んだ年で選ぶことにしておるのだ。だから今後、すごい古いものが入ってくる可能性はある。
10
わが心臓の痛み マイクル・コナリー 扶桑社ミステリー
「90年代最高のハードボイルド作家」の手による、99年度アンソニー賞、マカヴィテイ賞、フランス推理小説大賞、各賞受賞作。というくらいだからつまらないわけがない。心臓移植を受けた元FBI捜査官という設定がお見事。ただなんか、ロマンス部分がいささか他のパートから浮いてるような気もする。個人的な好みの問題かしら?9
汚辱のゲーム ディーン・クーンツ 講談社文庫
クーンツの新作! それだけでプラス30点! 読んでみると相変わらずの行き当たりばったりのホラ話。上巻は居心地の悪くなるほどの偏執ホラーなんだが、下巻はなんだかドタバタ喜劇が混じってくる。それでもいい。面白いから。ジャンプ競技で言うと、飛行姿勢はめちゃくちゃなんだけども飛距離はぐんぐん伸びて着地姿勢はピッタリ、という感じ。依怙贔屓込みの9位。8
骨 ジャン・バーク 講談社文庫
2000年度MWA賞最優秀長編賞受賞作。新聞記者<アイリーン・ケリー>シリーズの7作目だそうなんだが、これより前の作品を読んだことがあるのか記憶にない。残忍で執拗なサイコ・キラーにつきまとわれるというありがちな物語ながら、予想外の「仕掛け」が続いて冒頭からラストまで飽きさせない。ただもう単純に「面白い」。犬が思ったほど活躍しないのがちょっと残念。7
破壊天使 ロバート・クレイス 講談社文庫
個人的に大好きないつもの<エルヴィス・コール>シリーズではない。爆弾魔と爆弾に取り憑かれた女刑事との対決。シリアスで緊迫感に満ちた秀作(コール物がそうじゃないということではないが)。本当はもっと上位にしたいけど文庫だと思って油断していたら上下巻合わせて2000円にもなってレジでびっくりさせられたので7位。6
最も危険な場所 スティーヴン・ハンター 扶桑社ミステリー
もはや息子/ビリー・ボブから父/アールへと逆流しきった<スワガー・サーガ>。上巻の不条理なまでの緊張感と悪役の迫力は素晴らしい。ハンターの最高傑作か、と思わせるほど。ただまあ、下巻に入るといつもと同じなんだが……それでも凡百には及びもつかない痛快アクションに仕上がっている。若者でなく敢えてじじいを集める「七人のオヤジ」という展開はちょっと楽しい。それにしてもアールの超人性はとどまることを知らない。こうまでなってくると作者ハンター自身が「ダーティ・ホワイト・ボーイズ」でのアールの使い方を後悔しているのではないか? なんかここまで来たら「魔界転生」みたいに親子対決が見てみたいものだ。5
ハバナ・ベイ マーチン・C・スミス 講談社文庫
解説も帯も裏表紙もよく見ないで買った。そしたら、ええっ! 1頁目でびっくり! なんとアルカージ・レンコじゃないか! そりゃ、マーチン・クルーズ・スミスという作者名で手に取ったんだけど「ハバナ・ベイ」というタイトルだもの、まさかレンコ物だとは微塵も思わなかった。前作から8年ぶりだよ。第一作「ゴーリキー・パーク」からは20年。ロシア人捜査官、キューバに現る。虚無と熱情の出会い。シリーズに対する思い入れも含めて5位。4
雨に祈りを デニス・レヘイン 角川文庫
作者によればこの5作目をもって<パトリック&アンジー>シリーズは一時休止とのこと。確かにこのまま一定のペースで、なおかつ高水準を保って続けていくのは、作者にも登場人物にも(読者にも?)ハード過ぎるのかもしれない。主役の二人は身も心も傷だらけだし。まあ、「ミスティック・リバー」という大傑作を読んだ後ではレヘイン(ルヘイン)の他の作品をいっぱい読んでみたいのは確かなんだが……。シリーズ通しての水準からいけば決して突出した作品ではないが、とりあえずパトリック&アンジーとはいつの日か再会できることを祈って4位にいれておこう。3
愛しのクレメンタン アンドリュー・クラヴァン 創元コンテンポラリ
これにはたまげた!! クラヴァン名義だから人間の悲しみを描いた静謐なミステリーかなと思ったのに、読んでみたら全編セックスと冗句と、おまけに教養に満ち溢れたとんでもなく美しい小説。88年というクラヴァンの初期の作品。作家としての方向性を模索してるとこだったのだろうか。訳者(芳澤恵)は大変だったろうなと思わずにいられないが、でも作者も訳者もほんとに力のある人だとよくわかる。珠玉の名作と呼ぶにはあまりにも下ネタが過ぎるし他人には勧められないけどちょっとシアワセでへんてこな一冊。2
飛蝗の農場 ジェレミー・ドロンフィールド 創元推理文庫
こんな変な小説読んだことない。巻末解説にある「サイコロジカル・スリラーの突然変異的な傑作」というセンテンスが全てを表している。一度読んだら忘れられない作品。あ、飛蝗と書いてバッタ。しかし読み終わっても作者が何故バッタを小道具(大道具か?)に使ったのかさっぱりわからない。わからないけど、ちょっとすごい。唖然とするようなインパクトという点では近年のトップかもしれない。1
シルクロードの鬼神 エリオット・パスティン ハヤカワ・ミステリ文庫
舞台は新彊ウイグル自治区。なんで「外国人」にこんな美しく穏やかで、かつ哀しく怒りに満ちた「辺境」の物語が書けるのか。前作「頭蓋骨のマントラ」より更にいい。なんか、各ミステリベスト10の類からは落ちていたようだが関係ない。こういうのが好きなんだよ。だからベスト1。たぶん自分のオールタイムベストの中にも入るであろう秀作。今年もまた入らなかったけど日本の作家のも読んではいるんだけどね。なんか入らないのよ。
- さいですか。
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