2000年私的 文庫 Best10

2000年に読んだ文庫のBest10だ(12冊あるけど)。文庫以外の本ももちろん読むぞ。んでもここも文庫に限ったのだ。電車で立って読むには文庫が一番楽だからな。

10(タイ)お詫び・どれかひとつ、を選べなかったので
闇に横たわれ ダン・フェスパーマン ハヤカワ・ミステリ文庫

内戦下のサラエボで殺人事件を捜査する市警警部。まさに「洪水の最中にトイレの配管修理をするような」仕事。全体に流れる無力感と孤独感がやるせない。99年度CWA最優秀処女長編賞受賞作。ラストの「主人公の他者への心遣いのなさ」について批判的な書評を目にしたが、あれはあれでかえってリアルなのではないか。まず自分。他人の心配するのは、あの後だろ。

10(タイ)
最高の悪運 ドナルド・E・ウェストレイク ミステリアス・プレス文庫

NYの犯罪プランナー(つーか、泥棒コーディネーター)・ドートマンダー。一言で言って間抜けなコメディなんだけど、主人公のドートマンダー本人が一貫して真面目(しかも一種の天才)であるという点で、バカバカしいけど「頭の悪い話」にならない。伏線の張り方も見事。この話もバカバカしさのスケールが超でかくて楽しい。

10(タイ)
コオロギの眼 ジェイムズ・サリス ミステリアス・プレス文庫
うーん、素晴らしい。ハードボイルドが「文学の一形態」であるということがよくわかる。前作「黒いスズメバチ」(なんと今回はその30年後!!)もよかったけど、それ以上。

9
氷の闇を越えて スティーブ・ハミルトン ハヤカワ・ミステリ文庫

処女作にして探偵物系の各賞を総ナメにしたという作品。評判に偽りなし。展開を先読みさせない(つーか、予想を裏切り続ける)構成はよくできてるけど、今後シリーズにしちゃうと辛いのでは? (と思ってたら第2作も面白かった。質はちょっと違うけど)

8
弁護 D・W・バッファ 文春文庫

おお、面白い。久しぶりに「リーガル・サスペンス」を読んだつー気になった。不敗の弁護士が直面する真実と正義。これがデビュー作とのことだが、この水準をどこまで維持していけるか(いってほしい)気になる作家。

7
密偵ファルコ・鋼鉄の軍神 リンゼイ・ディヴィス 光文社文庫

鋼鉄の軍神は「はがねのマルス」と読む。紀元一世紀の古代ローマの探偵マルクス・ディディウス・ファルコのシリーズ4作目。登場人物の思考や行動様式が少々現代的すぎないかとは思うが、このシリーズはほんとに面白い。米英でロングセラー(シリーズ12作)になってるのも当然。特に本作はこれまでのシリーズ最高傑作だ、と断言しておこう。

6
アンダードッグス ロブ・ライアン 文春文庫

シアトルに閉鎖された地下都市があるとは知らなんだ。主人公らしき人物から物語がどんどん離れていくが、他の登場人物それぞれのキャラが立ってるので面白さが削がれない。壮大な冗談話と言えないこともない変な快作。

5
悪魔の涙 ジェフリー・ディーヴァー 文春文庫

さすが。最初の一行から最後の一行まで面白い。ただ、物語のあまりの濃さに、大晦日の、たった一日の話というのは無理があるのではないかという気もするが。しかしなんで西洋人は正月休まないのかなあ。

4
Mr.クイン シェイマス・スミス ミステリアス・プレス文庫

犯罪小説。それもハンパじゃない、道義心の欠片もない本物の人非人が主人公。しかし、読み出したらとまらない。語り口の巧さで、いつのまにか主人公に感情移入してしまう。そんな自分がちょっと怖くなる。一応断っておくと、けして「ブラックユーモア」と呼べるような上品な代物ではないので万人向けではないな。

3
闇よ、我が手を取りたまえ デニス・レヘイン 角川文庫

ボストンの探偵パトリック&アンジー・シリーズの二作目。レヘインは正統派ハードボイルドの後継者と言われてる(らしい)。前作「スコッチに涙を託して」もよかったけど、こちらはそれ以上。泣ける。泣ける。泣ける。

2
カーラのゲーム ゴードン・スティーヴンズ 創元ノヴェルズ

やっぱりどこの書評でも評価が高かった。当然だな。カテゴリーとしては冒険小説。ボスニアで何があったか、コソボで何があったか、自分たちは何ができるのか、真面目に考えさせられた(ちょっとだけ)。強く、カッコよく、哀しい女の物語。

1
一寸の虫にも死者の魂 リチャード・コンロイ 創元推理文庫

これを1位にしていいのかちょっと悩んだけど、実はこういうものが一番好きなのだからしかたがない。立て続けに邦訳の出たスミソニアン・シリーズの三作目。その中でもこれはスケールがでかい!! つーか、「些末なおかしさの積み重ね」なんだけど、その絶妙な重なり具合がどんどん高度と密度を増していく。実になんともスラップスティック・コメディ(・ミステリー)の傑作。やっと気づいたのだが、このドタバタ風味ってトニー・ケンリックと近い(あるいは同じな)んだな。

おまけ
とうとう完結しましたで賞
生への帰還 ジョージ・P・ペレケーノス ハヤカワ・ミステリ文庫

男ならやるときはやれ!! という、男達の挽歌 in ワシントンの「ワシントン・サーガ」完結編。今回もひたすら男臭い。暴力と友情と哀しみと再生。まだ読んでなければ年代的にシリーズの始まり(発行順と時代順は一致してないので注意)となる「俺たちの日」を先に(あるいはそこから順に)読んだ方がいい。ちなみにわたくしはつい最近まで著者の名前を「ペケレーノス」だと思いこんでおりました。すまん。

今年もまた入らなかったけど日本の作家のも読むぞ。でも日本人作家だといきなり文庫、ってことはないからな。


さいですか。
ふりだしにもどる。