植物雑記
    vol.9 液肥の効用(沙漠にマグアンプ) '12年1月3日
              (ブログより転載)   

サボテンは、特に肥料を与える必要のない植物です・・・みたいなことがよく言われます。
たしかにふかふか腐葉土の森じゃなくて、砂だらけのサバクに生えているんだし、成長速度もゆっくりだし、
水だってたまにしかやらないくらいなんだから、まして肥料なんて・・・。
じつは私も、長いことそう思っていたのです。私の難物サボ栽培の師匠でもあるメサガーデンSB氏も、
「用土?近くの原っぱから掘ってきた土を使うだけさ、サラサラで、水はけいいんだよ」なんて言ってたし。
でも、陽あたりその他、必ずしも悪くない環境においてあるにもかかわらず、


IMG_7908S.jpg


こんな苗や、


DSC01312S.jpg


こんな苗が出てきます。いったい、なぜなのか。
私は長いこと、こういうことがサボテンに起こるのは、その種そもそもの性質の弱さ、適応性の乏しさによるものだ、と思っていました。ところがある人からの指摘で、これらのうちある症状、上にあげた写真にみられる成長点のこじれが、微量要素のホウ素欠乏障害によるものと判ったのです。これについては以前、拙ホームページにも詳しく書いているので、詳細は繰り返しませんが、私の栽培場でこのトラブルがとりわけ目立つのには理由があったのです。

まず、難物サボなどを中心に育てているため、土作りでは軽石や赤玉など有機質の乏しい素材のみを使い、
pHは高め(アルカリ寄り)に調整していました。さらに栽培のうえでは、灌水が極端に少なく用土は常に乾きがち。ホウ素についていえば、高pHの用土、乾燥した用土においては吸収が少なくなり、私の栽培場では欠乏障害が生しやすくなっていた、という訳です。
さらにその後いろいろ試行を繰り返すうちに、微量要素ばかりでなく、いわゆる主要3要素の欠乏さえもしばしば起こっていることに気づきました。

たとえばこのサボテン・・・


IMG_3791S.jpg


どうみても色つやがすぐれず、成長もはかばかしくありません。植えてある用土には、いちおう堆肥なども
多少混ぜてあり、それほど肥料分が足りないとは思いませんでしたが、成長もはかばかしくない。
ところが、こうした株に一定期間、液肥(市販の窒素・リン酸・カリ+微量要素)を規定量で与えてみると、
顕著な効果が現れてきます。そう言やメサガーデンの甫場の裏にも、液肥の空きビンが転がってたわな。


IMG_7997S.jpg


↑こっちは同じ種類の、液肥をときどきもらってる株です。ロビビア・フェロックス(Lobivia felox)。
定期的な施肥を続けているうちに、肌色は濃く艶やかに、新刺を次々とあげるようになりました。
肌色の変化からして、おそらく窒素不足だったんでしょう。園芸の基礎の基礎みたいな話ですね。
思い起こすのは、かつて輸入球を栽培していて、発根活着して栽培環境に馴染んだサボテンが、みるみる肌色の緑を濃くしていった・・・という体験です。もしかしたら、野生下では窒素欠乏が常態だったのかも知れません。となると、液肥のもたらす肌色や艶はむしろ不自然かも知れず、ワイルド感をだいじに育てたいと常願っている身としては、なかなか悩ましい。しかし、必須要素(または微量要素)欠乏気味なれど成長障害には
至らず、なんてバランスを保つのはおよそ実現不能です。とりあえず、健康サイドに振っておくしかない。


IMG_9392S.jpg

IMG_7988S.jpg


↑これはいちど生育が止まってしまい、施肥後ふたたび動き出しました。その使用前使用後。
いちど段がついて、今はちょうど雪だるまみたいな格好になっていますが、とても元気で花も次々咲きます。
同じくロビビアです(Lobivia saltensis)。
こんな風に、肥料分にビビッドに反応する、逆に言えば肥料切れや微量要素欠乏害が起きやすい傾向は、
南米サボテン、ことにロビビアやギムノカリキウム、エリオシケ属などで顕著な気がします。
北米サボテンでは、フェロカクタスやエレキノケレウスなど、生育旺盛な種類は「肥料喰い」と言え、
フェロは経験的にホウ素欠乏などを起こしやすい。成育旺盛という訳ではなくても、極端に水やりを少なく
栽培しているペディオ、スクレロ、エキノマスタスなどの難物サボも、問題が起きやすい部類です。
さらに、生育の早い柱モノやオプンチア類などは、肥料の有無が成長や開花に大きく影響してきます。
オプンチアなどは、地植えや大鉢多肥栽培でないと咲きにくいものが多いですし、金鯱などは、施肥の
有無で重量増に大きな違いがあることを実験で確かめている方もおられます。


IMG_9947S.jpg


お見苦しい写真ばかり続いたので、最後に綺麗な花を一葉。かつて激しい成長障害に見舞われ、
芯止まりから分頭してしまったエリオシケ(Eriosyce strausianus R542 Quebrada del Toro,Arg.)。
年数回、液肥を与え続ける栽培で回復し、深い琥珀色の花を毎春沢山咲かせてくれるようになりました。
とはいえ、サボテンでもヤサイでも、行き過ぎた多肥栽培が柔弱でスカスカした植物を生み出すことも事実。
そもそも沙漠にマグアンプをバラ撒いてくれるヒトなんている筈もないのだし。元肥がそこそこ入った用土で、
頻回に植えかえるなら、液肥を与える必要などもないでしょう。じゃんじゃん肥料やって、むくむく太った
ブロイラーサボを育てるなどは、流儀ではありません。
けれども、私のように肥料気の乏しい土に植え、水も滅多にやらないような栽培法をとった場合には、液肥を
上手に使うことで、植物をより健やかに本来の姿に育てることができる、という、園芸の常識を最近になって
やっと実感した次第。ストイックな栽培にとらわれるあまり、あたりまえのことに気づくまで時間がかかり過ぎましたね・・・^^;。






                   

        
              

             BACK         NEXT