柚月裕子著 『ウツボカズラの甘い息』



              2019-06-25

(作品は、柚月裕子著 『ウツボカズラの甘い息』  幻冬舎文庫による。)
                  
          
 
初出 2015年5月に刊行されたもの。
 本書 2018年(平成30年)10月刊行。

 柚月裕子
(本書より) 

 1968年岩手県出身。2008年「臨床真理」で第7回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞しデビュー。13年「検事の本懐」で第15回大藪春彦賞を、16年「弧狼の血」で第69回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)を受賞する。他の著書に「朽ちないサクラ」「慈雨」「盤上の向日葵」「凶犬の眼」などがある。

主な登場人物:

高村文絵
(旧姓 牟田 ムタ )
夫 敏行
(としゆき)
娘 姉 美樹
   妹 美咲

千葉の松戸市に住む主婦。解離性離人症という心の病をもち、メンタルクリニックに通っている。中学から高校時代の6年間はモテ期。小学時代は不格好で不潔な文絵。杉浦加奈子から化粧品のセミナー講師話に、夫に内緒でのることで災難に・・・。
・夫の敏行 病院に医療機器を売る営業マン。誠実で優しかったが、結婚して異常なほどの嫉妬深さを知る。
・娘たち 小学2年の美樹と幼稚園児の美咲

(はた)圭介
妻 響子

神奈川県警本部捜査一課強行班係の主任、45歳。
・妻の響子は3年前の冬に脳溢血で倒れ、寝たきりの状態。響子の母親幸代が身の回りの世話をしている。

中川葉月

鎌倉署強行班係、巡査。捜査本部で秦の相方。
若い20代後半の機転が利く美人。

<田崎実殺人事件捜査本部>

・寺崎捜査一課長、警視。
・杉本管理官 せっかちで有名。
・久保鑑識課主任。秦とは警察学校で同期。

鎌倉署
杉浦加奈子 牟田文絵の中学時代の同級生。目立たない存在だったが、「文絵の言葉に救われた。お礼をしたい」とリュミエール化粧品のセミナー講師話を持ってくる。顔に痣があり、サングラスをしていて、人前には出ないようにしている。
飯田章吾 杉浦加奈子の相棒。文絵をサポートする役目のマネージャー、36歳。
田崎実 株式会社コンパニエーロ(美容関係の会社)の代表取締役、38歳。
鎌倉七里ヶ浜の別荘で殺害される。

小笠原美奈
辻好恵

四谷のビルのコンパニエーロに派遣されている女性たち。
真野知世(ともよ) 長野の介護付き老人ホームに金を振り込んだサングラスの女。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 
家事と育児に追われ、かつての美貌を失った高村文絵。彼女はある日、趣味の懸賞でディナーショーのチケットを手にした。参加した会場で、サングラスをかけた見覚えのない美女に声をかけられて…。              

読後感:

 メンタルクリニックに通う高村文絵は気持ちを落ち着かせるトレーニングをしているが一進一退。疲れたりストレスがかかると解離の症状が現れる。自分にぴったりの楽しみとして懸賞にのめり込んだそのことから、文絵に転機が舞い込んでいく。

 読み進めていくと文絵の日常生活の中で、どんどん意欲的に変化が起き、夫に内緒でお金を得、慎ましやかな生活から気持ちにゆとりのある生活が出来てくる。
 しかしそこに仕組まれた罠は殺人事件の容疑者へと展開され、いくら説明しても納得されることがなく泣き崩れるばかりとなる。

 一方刑事側の秦圭介と所轄の中川葉月のコンビは、文絵が嘘を言っている風には思えないが、文絵の病による幻覚のなせることとしか思えない状況ではあるが、なんとなくしっくりこない気持ちで杉本管理官に本部方針とは別方向の食いつきを試していく。

 秦の家庭の事情、相方の葉月の働きぶり、そして文絵の驚きの事実、杉浦加奈子と飯田章吾と文絵の関係と、一方で田崎実とサングラスの女との関係、秦たちが調べていく内に実在していない人物が次々出てきたり、やっぱりと思うことが発生したりと、凝った作りになかなかの長編にもかかわらず引き込まれてしまった。
 

余談:

 表題のウツボカズラとは細長く伸びた葉の先端に、壺のような形状の袋がついた食虫植物。甘い蜜で虫をおびき寄せ、中に落ちた虫を食いながら生きる。真野知世をさして評されている。     

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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