柚月裕子著 『パレートの誤算』








              2018-10-25


(作品は、柚月裕子著 『パレートの誤算』    祥伝社による。)
          
  初出 月刊「小説NON」に、平成24年4月号〜平成26年2月号まで各月連載に加筆・訂正したもの。(本書は平成26年6月までの生活保護法に基づく。)
  本書 2014年(平成26年)10月刊行。

 柚月裕子:
(本書より)
 
 1968年岩手県生まれ。山形県在住。2008年「臨床真理」で第7回「このミステリーがすごい!」大賞で大賞を受賞しデビュー。2012年「検事の本懐」で第25回山本周五郎賞にノミネート。2013年同作で大藪春彦賞を受賞。硬質な文章で描かれる人間ドラマで多くの読者の支持を得ている。他の著書に「最後の証人」「検事の死命」「蟻の楽園−アントガーデン−」がある。     

主な登場人物:

牧野聡美(さとみ)
兄 亮輔
(りょうすけ)
母親 昌子
(まさこ)
父親(他界)

津川市は瀬戸内海に面した街。福祉大学を出て今年入庁の臨時職員。
・亮輔は聡美の3つ年上。
・昌子 女手一つで二人を育て上げ社会人になり肩の荷下りた矢先、心臓病で倒れた。

津川市役所福祉保健部社会福祉課の人々

・猪又孝雄 課長 あと2年で定年。
・山川亮主任(とおる)福祉課8年目、37歳。妻帯者、ルックス、包容力あり、人当たり良く好かれている。
・小野寺淳一 勤続8年、この春異動してきた、30歳。
・西田美央
(みお)同部署に4年。
・倉田友則課長補佐 猪又の5つ下。50代前半。
・高村大樹 聡美と同じ臨時職員

津川署刑事課

・若林永一郎警部補 一見冷徹そうで、小野寺は嫌っている。若林は聡美の、気が強くハッキリ物を言う様を嫌いでないと、支障のない範囲で情報を知らせてくれる。
・谷刑事 若林の相方。

金田良太

生保受給者。聡美の高校時代の同級生。地元でも有名な不良。
聡美は金田に助けられた経験があり、悪者とは思えないでいる。

安西佳子(よしこ) 生保受給者。ヤクザの道和会立木智則(45歳)と付き合っている噂がある。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 ケースワーカーという職務に不安を抱く聡美。先輩の山川が受給者たちが住むアパートで撲殺された。そして新たな惨劇が…。受給者、ケースワーカー、役人、それぞれの思惑が交錯する渾身の社会派サスペンス。      

読後感:

 時にテレビドラマ「健康で文化的な最低限度の生活」(フジテレビ)で吉岡里帆の新人ケースワーカーが成長してゆくドラマが放映中。その真摯な取り組み方に好感を抱いて見ている。
 本作品の牧野聡美も大学を卒業してこの春、希望をしていなかった部署に配属され、こちらは尊敬する先輩が殺人事件にあったことから、後任に当てられた先輩の小野寺と次第に仕事の責務に目覚める話と共に、ミステリー調の物語が展開している。まさに社会派サスペンスである。

 ケースワーカーという仕事、生活保護受給者の住居を定期的に訪問、就労などの支援を行う行政の担当者。
 貧困ビジネス(低所得者をターゲットに、彼らの弱みにつけ込んで自分たちが利を得るビジネス)を食い物にするヤクザは許せない。

 物語の中で、ヤクザの清和会と繋がっている者がいるとして拉致された聡美が疑う人物とは?また若林が、聡美が拉致されたことを知り、手を打って出るときの緊迫感と迫力に惹きつけられた。そしてついこの間まで社会福祉課勤務は腰掛けのように言っていた小野寺が次第に責務に感じ変わってくる様も面白い。
 

余談:

 本の題名にある「パレートの誤算」についてはラストの終章で解説的にある。世の中にある法則の中に、「働き蟻の法則」というのがある。「この法則は、百匹の蟻がいれば、ある一定数の蟻はよく働き、ある一定数の蟻はまったく働かないというもの。働かない蟻を除外して、働く蟻だけを集めたとしても、そのなかから、やはり働かずに怠ける蟻が発生する」というもの。

 他にも、パレートの法則というものがあり、ある事象の二割が、全体の八割を担っているというもの。しかし、・・・人間は、法則や数式で成り立っているものではない。・・ということで人はそんな法則で測られるものではないということ。
 

背景画は、森・木をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

           
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