柚月裕子 『朽ちないサクラ』



              2020-05-25


(作品は、柚月裕子著 『朽ちないサクラ』      徳間書店による。)
                  
          

 初出 「読楽」2012年6月号、8月号、10月号、12月号、2013年2月号、4月号、7月号、9月号、11月号、2014年1月号、3月号に掲載された作品に加筆訂正。
 本書 2015年(平成27年)2月刊行。

 柚月裕子
(本書による)  

 1968年岩手県生まれ。山形県在住。2008年「臨床真理」で、第7回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞しデビュー。2012年「検事の本懐」で第25回山本周五郎賞にノミネート、2013年同作で第15回大藪春彦賞を受賞。他の著書に「最後の証人」「検事の使命」「蜂の菜園−アントガーデン−」「パレートの誤算」がある。

主な登場人物:

[米崎県警] 米崎市
森口泉 広報広聴課県民安全相談係の事務職員、29歳。中途採用の今年で4年目。小4の時父親は交通事故死。
富樫隆幸(たかゆき) 広報広聴課の課長。 警備第一課のやり手の公安刑事だった。
梶山浩介 捜査一課長。富樫と同期。
臼澤 警備部公安課長、警視。
[平井中央署] 平井市
磯川俊一 生活安全課。警察学校の研修時代に泉と知り合い付き合う、泉の3つ年下、26歳。
杉林正一郎 生活安全課の課長。

辺見学
妻 智子

生活安全課の5年のベテラン、35歳。相談者と真摯に向き合う人物。女子大生長岡愛梨ストーカー被害相談の担当になった後様子が変に。

百瀬美咲
父親 治夫
(はるお)

生活安全課の臨時職員だったが、3年目の更新を前に退職、27歳。
・父親 小先(こさき)市上成宮(かみなるみや)町在。

高田彰子(あきこ) 生活安全課の嘱託職員。

津村千佳(ちか)
母親 雅子

米崎新聞の県警担当記者。森口泉とは高校の同級生で仲良し。上司に当たる報道部のデスクと不倫関係。
・母親 母子家庭で実家は小先(こさき)市在。

兵藤洋(ひろし)

米崎新聞報道部のデスク。冷徹な優男の印象。(泉)
千佳の不倫相手。

安西秀人(ひでと) 自称フリーター、34歳。女子大生長岡愛梨(21歳)殺害の犯人。
神近甲永(こうえい) “テラス・ポース”という宗教団体の教祖。カルト教団。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 米崎県警平井中央署生活安全課が被害届の受理を引き延ばし、慰安旅行に出かけた末に、ストーカー殺人を未然に防げなかったと、新聞にスクープされた。県警広報広聴課の森口泉は、嫌な予感が頭から離れない…。

読後感:

 米崎県警平井中央署の生活安全課が、女子大生長岡愛梨の両親からのストーカー被害届に関して、受理を速やかに行っていなかったことで長岡愛梨の殺人事件を防げなかった。その原因が所員達が北海道への慰安旅行であったことが、米崎新聞にスクープされたことがきっかけで、警察内部では箝口令が敷かれていたのに、情報漏れが発生してしまったその犯人捜しが起きる。

 自分が不本意に漏らしてしまったかも知れないと感じた森口泉は、仲良しで米崎新聞の津村千佳に口外しないように釘を刺していたのに掲載されたことで千佳をなじる。
 千佳は「私じゃない、信じて」と。そして「この件には何か裏があるような気がする」と。
 そして千佳の遺体が発見される。

 もう一人森口泉に北海道土産と話してしまった磯川俊一も、泉に申し訳なく合わせる顔がなく、連絡もしずらく・・・。
 ここから、この物語は警察、泉、磯川が中心で、関連して起きる事件の、謎の解明に向けずんずんと動き出す。

 初めの方はこの小説はごく平凡な展開だなあと思っていたが、筋がハッキリしてきてからはどんどん核心に迫ってくる様は、流石柚月裕子作品との思いを感じる。
 富樫と梶川の同期組の連係プレイ、泉と年下の磯川の連携、泉の探究心と真摯に向き合う姿を頼もしく思う梶川、泉の上司である富樫の言動と人物の魅力も捨てがたい。
 全くのラスト、公安警察と刑事警察の相容れない関係が衝撃的な結果を匂わせることに驚く。


余談:

 物語に犯人捜しの緊張感は大切でなくてはならないが、登場人物の中に家族の間の愛情や思いやり、友達の間での友情や信頼感の描写があるとそれだけ親近感が湧き、物語が重厚になってゆく。
 柚月作品には読者を引きつける要素がふんだんにある。
・警察官と刑事、警察の事務職員の違いについて考えさせられた。

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
戻る