柚月裕子著 『検事の信義』


              2019-10-25


(作品は、柚月裕子著 『検事の信義』    集英社による。)
                  
          

 初出   「裁きを望む」  「このミステリーがすごい!2015年版」(宝島社)
     「恨みを刻む」  「警察アンソロジー 所轄」(ハルキ文庫)
     「正義を質す」  「このミステリーがすごい!2016年版」(宝島社)
     「信義を守る」  「小説野性時代」2019年3月号、4月号
      本書は上記作品を大幅に改稿の上、単行本かしたものです。

 本書 2019年(平成31年)4月刊行。

 柚月裕子:
(本書より) 
  
 1968年岩手県出身。2008年「臨床真理」で第7回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、デビュー。16年「孤狼の血」で第69回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)を受賞。18年「盤上の向日葵」で「2018年本屋大賞」2位。「佐方貞人」シリーズは本作の他に「最後の証人」「検事の本懐」「検事の死命」がある。他の著書に「蟻の菜園−アントガーデン」「パレートの誤算」「朽ちないサクラ」「ウツボカズラの甘い息」「あしたの君へ」「慈雨」「合理的にあり得ない 上水流涼子の解明」「凶犬の眼」などがある。

主な登場人物:

佐方貞人(さだと) 米崎地方裁判所公判部検事。
増田陽二 佐方の事務官。
筒井義男 公判部副部長。佐方の上司。
本橋武夫 米崎地検次席検事。筒井の上司。
南場輝久 米崎東署の署長。
<裁きを望む> 裁判で被告人の証言。佐方は芳賀に負けた。
芳賀渉(はが・わたる)

被告人 郷古勝一郎の通夜の日、500万相当の腕時計を窃取容疑。
古勝一郎の実子。郷古家認めず。
・母親 芳賀明美 今年の4月病没。勝哉と恭治の家庭教師だった。

郷古勝一郎(ごうこ)

家庭教師の芳賀明美と知り合ったの42歳の時、明美と付き合い、渉を認知しようとするも家族の反対で実現せず。死を前に遺言書を・・・。
・妻 麻恵、72歳。
・長男 勝哉
(かつや)、41歳。
・次男 恭治
(きょうじ)、39歳。
・吉田高子 古くからの家政婦。

井原智之 井原法令総合事務所の代表弁護士。県下最大の法律事務所。
<恨みを刻む>
室田公彦(きみひこ) 覚醒剤取締法違反の被疑者、34歳。
武宮美貴

室田の幼馴染み。
・兄 武宮成明 暴力団員。

鴻城伸明(のぶあき) 西署の生活安全課主任。悪徳刑事。
<正義を質す> 仁正会の溝口を保釈して暴力団の跡目争い抗争を治めるか、佐方の判断は?
木浦亨(とおる) 司法修習生時代の佐方の同期。広島地検勤務。
上杉義徳(よしのり) 広島高検次席。筒井義男は大学時代の後輩。
溝口明(あきら)

仁正会(広島県最大の暴力団)のナンバーツー。理事長の座。
米崎県警に逮捕され、公判担当検事は佐方。

<信義を守る> 認知症の母親殺しで逮捕された道塚昌平の目的は・・。佐方が疑問に思ったのは逮捕される2時間に逃げたのは5キロ余りだった。

道塚昌平
母親 須恵

認知症の母親殺害で逮捕された息子、55歳。
・母親 須恵、85歳。夫とは40年前離婚。5年前から認知症と診断され、昌平、東京から米崎に戻り、介護。

矢口検事

米崎地検の刑事部、去年高知地検から配属され、年次一番上。
道塚昌平の案件担当、身勝手な犯行として懲役10年を求刑。

緒方徹(とおる)

米崎のコウノトリ便の所長。
道塚昌平が勤務、3ヶ月で辞めた仕事先。

堀弓子 深水デイサービスの所長。昌平の母親須恵が利用した介護施設。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 任官5年目の検事・佐方貞人は、介護していた認知症の母親を殺害した罪で逮捕された息子の裁判を担当することになった。事件発生から逮捕まで「空白の2時間」があることに不審を抱いた佐方が、独自に聞き取りを始めると…。 

読後感:

 <裁きを望む>
 郷古勝一郎の非嫡出子芳賀渉が勝一郎の通夜の夜、窃盗に入って500万相当の腕時計を窃取したとして、公判部の佐方が聴取、公判に臨む。
 公判での渉の証言で、腕時計は以前に譲り受けたことが分かり、無実が明らかになり、問題判決と。
 芳賀渉の目的は何だったのか?一事不再理を狙ったこの案件には、渉の本当の狙いがあった。そして背後に本橋次席に関する隠された秘密が。
 佐方が芳賀渉を別の容疑で争おうとするも、上司の筒井の懐の深さを見ることに。

 <恨みを刻む>
 米崎地検公判部に内部告発の手紙「室田公彦の証言はネツ造」と。告発者には同期の自殺に上司に対する怒りが。県警内部の出世争いが陰にあり、またしても問題判決が出ることに・・・。
 筒井は「恨みは晴らさないが、旨に刻む主義だ」と。
 
 <正義を質す>
 佐方貞人の司法修習生時代の同期、広島地検の木浦亨から誘われ広島に。そこで頼まれたのは今担当の仁正会のナンバーツー、理事長の座にある溝口明の保釈。
 暴力団の跡目争いを止め、市民の安全を守るのを優先させるのか、それとも保釈を認めず、県警が望む暴力団の根絶を目論むか。でもそれには目論見があった。
 佐方の判断は・・・。

 <信義を守る>
 佐方の事務官増田が、認知症の母親を殺害した息子の公判事案に対し、佐方検事の気がかりに付き合った傍観記録といった語り。
 佐方検事の素顔を見る感じで、着想が面白い。
 とはいえ、扱う内容は認知症にまつわる現在でも大変な問題をはらんでいる案件で、被告の発言の中のちょっとした違和感(殺害した後、逃げたのが2時間経って5キロという)から、その真実を求めて突き進んでいく佐方の鋭さに感心する増田と、一方で人の他愛もない心の機微には疎い佐方の両面を増田が見ているところがおもしろい。
 ラストの後半部分で、昌平が何故嘘をついていたのか、刑事部の矢口検事とのマッチアップも見所。
 

余談:

 丁度この本を手にしているとき、BSテレビで「検事の本懐」を見て、佐方貞人の信念を、そして上司の筒井義男の大人振りを見たので、この作品との印象が少し違って見えた。まあ、小説で感じる読者の感覚と、映像にする際の演出家や役者の印象の差もありなん。
背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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