柚月裕子著 『検事の本懐』




              2018-07-25


(作品は、柚月裕子著 『検事の本懐』    宝島社による。)

          

 
 初出 樹を見る  別冊宝島1749「このミステリーがすごい!」大賞作家書き下ろし
           オールミステリー 2011年5月
     罪を押す  別冊宝島1711「このミステリーがすごい!」大賞STORIES
           2010年12月
     恩を返す  書き下ろし
     拳を握る  書き下ろし
     本懐を知る 書き下ろし

   本書 2011年(平成23年)11月刊行。 

 柚月裕子:
(本書より)
 
 1968年、岩手県生まれ。山形県在住。第7回「このミステリーがすごい!」大賞で大賞受賞、2009年1月「臨床真理」でデビュー。他の著書に「最後の証人」(ともに宝島社文庫)がある。  

主な登場人物:

第一話 樹を見る 連続放火事件に南場は早期に犯人逮捕しないと左遷もあると匂わされる。
南場輝久 米崎東署警察署長、警視正。肩幅広く筋肉質、武道優秀。
佐野茂 県警本部刑事部長、警視正。南場と警察学校の同期。世渡りの才覚にたける。南場に対してライバル意識が旺盛。
筒井義雄 米崎地検刑事部副部長。出世にあまり興味がない人間。実直に罪と向き合う人間。
佐方貞人(さかた・さだと) 任官3年目の新入り検事。根っからの検事。
第二話 罪を押す 娑婆と刑務所を行ったり来たりする累犯者に下した佐方の判断は。
筒井義雄 米崎地検刑事部副部長。
佐方貞人 昨年4月東京地検から筒井の下に配属されてきた新米検事。
小野辰二郎 3年前筒井が起訴した男。窃盗や無銭飲食といった微罪の常習犯。
第三話 恩を返す 弥生からの相談事は警官からの強請。佐方はどうする?
佐方貞人 米崎地方検察庁の検事。
天根弥生(あまね) 呉原市の高校時代ある事件で佐方が恩を受けたとする女性。今は美容師でもうすぐ結婚を控えている。
第四話 拳を握る 東京地検特捜の応援に来た佐方検事と加東事務官の無念・・。
佐方貞人 米崎地検の検事。大物政治家と中経の贈収賄容疑の捜査のため応援派遣され、葛巻の取り調べを担当する。
加東寿朗(としろう) 山口地検の事務官。急遽佐方の事務官に。
東京地検の人物

・特捜主任検事 竹居真
・特捜副部長 輪泉琢也
(わいずみ・たくや)

第五話 本懐を知る
兼崎守 ニュース週刊誌「ピックアップ」の専属ライター。「闇の調書」連載中のネタ探し中。
佐方陽世 広島の弁護士。地元の小田嶋建設の顧問弁護士を勤めたとき、会長の死後の財産管理で業務上横領の容疑で起訴され、2年の実刑判決を受ける。
小田嶋建設の人物

・会長 小田嶋隆一郎(りゅういちろう)
・社長 小田嶋一洋
(かずひろ)

清水亮子(りょうこ)
夫 憲吾
娘 沙代

小田嶋建設の事務員。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 横領弁護士の汚名をきてまで、恩義を守り抜いて死んだ男の真情を描く「本懐を知る」など、骨太の人間ドラマと巧緻なミステリー的興趣が、見事に融合した極上の連作短編集。「最後の証人」シリーズ最新作。    

読後感:

 特に印象深かった二〜三編について
 <本懐を知る>では佐方貞人の父親の話で、小田嶋建設の顧問弁護士であった佐方隆世が会長の死後の財産管理を頼まれながら、業務上横領の容疑で逮捕起訴、裁判の結果2年の実刑判決を受けた。
 一般的には弁護士でもあり、お金も返却すれば示談なり、執行猶予なりがつくのが当たり前のものなのに、控訴もせず受け入れた点を兼崎が週刊誌のネタとして調べ出す。ミステリー要素も有り、それまでの佐方貞人の生き方からしてどんな真相が隠されているのかと引き込まれていく。

 <罪を押す>も小野辰二郎というごく平凡な男がパチンコにはまり、離婚され子供とも会えなくなり娑婆と刑務所を行ったり来たりの転落人生へ。しかし大学を卒業する息子のために腕時計を送ろうと出所してすぐにディスカウトショップで行くも腕時計を万引きしたことで起訴される。その事情聴取する佐方の下した判断は・・。
 佐方の「やり直すためには、罪がまっとうに裁かれなければいけない」と諭す言葉が印象的。

 <樹を見る>は警察の中でのライバル意識の高い二人の警察署の署長南場と県警本部刑事部長の佐野の闘い。連続放火事件がなかなか犯人が捕まえられないで、南場に左遷をほのめかし焦らせる。
 ようやく目星が付き逮捕、事件は解決したかに見えたが、佐方検事の見方に南場は冷や汗をかく。
 米崎地検の筒井刑事部副部長が南場に佐方のことを「あいつは条件やデータだけで事件を見ません。事件を起こす人間を見るんです」とその人間性を評価。いったいどのような生き方をしてきたのかがその後明らかになっていく。
  
余談:

 五話の短編連作で、横山秀夫著の「動機」と同じような感動を受けた作品である。短編の良さを再び味わった。
背景画は、森・木をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

           
戻る